冷えて赤くなった彼の手を握る。
小さな身体を腕で覆ってやれば、彼もきゅっと俺の手を握り返す。
日が沈み代わるように月が現れた頃。
青白く光る浮月に吸い込まれる様な水面に浮かんだ波の綾を見つめる。
寒いね、と呟き自身の身体を抱き締める彼をより強い力でこの腕に包んでやる。
暗い夜に合わぬ明るい笑顔を見せると、彼は声を上げて笑う。
「…さとちゃんとも一旦お別れかぁ。寂しいなぁ…」
「大丈夫。また逢えるから」
「オレさとちゃんの事探すから。さとちゃんもオレに逢いに来て」
そう言う彼の冷えた唇にあまいあまいキスを落とす。
今からこの温もりを喪うと思うと、覚悟は決めた筈なのに名残惜しくもなる。
でも、もういいんだ。
油を流したように静かだった海が、突然鈴を鳴らす様に波打った。
まるで、俺達を引き留める様に。
「莉犬。愛してる」
「一緒にいこう。幸せになろう」
冷たい海に高く波を立て、堕ちた。
コメント
2件
心中ですか?!😳 なんかすごく美しいです(?)