「ここのロティサリーチキンは、本当に旨いな」
このお店はこれが有名で、パリパリにローストされた皮目に、ほろっとほどける柔らかな肉厚の身は、口の中に入れると幸せな気分になるくらいだった。
「はい、このチキンを食べると、本気でほっぺたが落ちちゃいそうです」
片手で頬を押さえて言う。
「ハハ、可愛いな、君は」
そんなセリフを、さらりと言われたら、押さえた頬が熱っぽくなってしまう。
気恥ずかしさから、ちょっとした沈黙が襲うと、
彼が、「……んっ」と小さく咳払いをした。
これは何か喋らないと……と、「あの、」と口を開きかけると、
「あのな、」と切り出した彼と、お互いの声が重なった。
「あっ……と、チーフの方からどうぞ」
特に話すことがなかったこともあって、そう言ってみたのだけれど、
「……ああ、いや、僕の方もいいから」
と、彼も話すのをやめてしまって、一体何を言い出そうとしていたのかはわからないまま、話はそれっきり流れてしまった──。