彼が二杯目のハイボールを飲み終わると、「そろそろ出ようか」と店を後にして、酔い醒まし代わりにと少し遠回りをしつつ、駅までの道のりを二人で歩いた。
すると、彼がふと足を止め、「実は、今日は──」と、改まったようにも切り出して、
さっきもお店で何か話そうとしていたみたいだったけれど、もしかして大事な話でもあるのかなと、その顔を仰いで、「……はい、何ですか?」と、問い返した。
「君に、渡したいものがあったんだ」
「渡したいものですか?」
「これなんだが」と、カバンから取り出された、リボンの掛けられた細長い箱を手渡されて、
「これは……?」なんだか高そうにも見えるけれどと、首をひねった。
「開けてみてくれるか」
言われるままにリボンをほどいて蓋を開くと、中には小さなハート型に紅いルビーらしき石が嵌った、華やかで可憐なネックレスが入っていた。
「……これは」当惑気味に同じ言葉をくり返す。
「打ち合わせの帰りにショーウィンドウで見かけて、君に似合うだろうと思って買ってきたんだ。今日はこれを渡したくて、君を誘ったんだが、人の多い店の中だと、どうにも渡しにくくてな」
「でも、こんなに高そうなものを……今日は、特別な日でもないのに……」
頭を巡らせてみても、特に何かあるような日でもない気がして、もらいにくいように思えた。
「特別なことがなくても、好きな人に贈りたい気持ちはあるだろう」
「それは、そうかもしれないですが、でも……」
ただ理由もなしにいただくのには、さすがに高価そうで心苦しも感じられて、私は手にした箱をためらいがちに見つめたまま立ちすくんだ……。
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