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「……きわ、む……さん、――私」
真剣なそのさん――究さん?――の眼鏡越しの視線に圧されて、中途半端なままには出来ないって思って。
正直に、「私には好きな人が……」って告白しようとした、ちょうどその時――。
「そのさん、お取り込み中のトコ大変申し訳ないんですけど……田中先輩が呼んでます」
突然声をかけられて、身体がビクッと跳ねた。
究さんの陰になっていて声の主の姿は見えないけれど、私には大好きな柳川の声だってすぐに分かった。
「おー、柳川。わざわざ悪ぃな」
柳川の登場に、究さんが私を抱く腕をほどいてくれて。
でも、いま究さんが私の前から居なくなってしまったら、先輩に抱きしめられていたのが私だって柳川にバレてしまう!
――そんなの、嫌!
そう思ったら、立ち去ろうとする究さんの白衣を、咄嗟にギュッと掴んでしまっていて。
「言凛……ちゃん?」
どこか嬉しそうに私の名前を呼ぶ究さんの背後から、
「鳴、宮、お前……」
柳川の、どこか冷ややかにさえ聞こえる静かな声音が響いた。
***
ねぇ柳川。
私、貴方に現状をバレたくないとか思ってこんな馬鹿なことをしてしまったけど……。
考えてみたら究さんと一緒にいるのは私だってこと、最初からバレバレだったんだよね?
私が逃げるように研究室を立ち去った時、究さんが追いかけて来てくれたの、柳川も見てたはずだもん。
なのに……何で今更追いかけてきて、そんな冷めた目で私を見るの?
私が、本当に追いかけてきて欲しかったのは柳川だったのに……。
素直にそう言えたなら、これから起こること、少しは変えられたのかな――?
***
柳川の、どこか感情を感じられない視線を受けて、最悪だって思った。
究さんに伸ばした手を柳川に一瞥されて、何故か一瞬だけ瞳を眇めるようにして名前を呼ばれた私は、彼のその表情と声音から軽薄な女の子だと軽蔑されたみたいな気持ちになって、泣きたくなった。
そりゃそうだよね。
昨夜は柳川に抱きついた手で、今は究さんを引き止めているんだもの。
手当たり次第に男性に取り縋る女だって思われても仕方ない行為じゃん。
何とか涙を堪えようと頑張ったら、色んな感情が混ぜこぜになって、顔に朱が昇ったのが分かって。
月詠 涼
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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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同時に鼻の奥が……ツンと痛くなる。
と、私のその反応を見た柳川が、少し表情を緩めて、「――なんだ、そういうことか」って溜め息を落とすみたいにつぶやいた。
そのさんの白衣に手を伸ばしたまま、固まったように動けないでいる私をじっと見つめたまま、柳川が続ける。
「そのさん、さっきは要らないことを言ってすみませんでした。俺、実はそいつから『ずっと片想いしてる相手がいる』って聞かされてたんです。それで、そのさんたちが鳴宮が可愛いって言ってるのを聞いて……何となく変に手出ししないでやって欲しいとか余計なこと思っちまって。けど――」
そこで私と究さんを交互に見比べると、
「鳴宮の好きな相手がそのさんだったってんなら話は別です。そいつ、変形菌の話もかなりディープに出来るめちゃくちゃ良い女なんで――えっと……俺が言うのも変なんですけど……その……大切にしてやって下さい」
そう言って、ちらりと私に視線を注ぐと、さっさと踵を返してしまう。
柳川がこちらに背中を向けるとき、ほんの一瞬だけ私に向けられた視線。
それが、どこか寂しそうに見えた気がしたけれど、それはきっと……私がそうであって欲しいって願ったから。
願望がそう見せただけ……だよね。
だって柳川、いま究さんにハッキリと言ったもの。
「私のことを大切にしてやって下さい」って。
私、告白もしていないのに、柳川にフラれてしまったんだ……。
柳川の広い背中を見送りながら、どこか他人事みたいに呆然とそう思った。
***
「――ちゃん、……りちゃ……、とりちゃん、おーい、言凛ちゃぁ〜んっ?」
目の前でふわふわと手を振られて、私はハッとする。
「ボォーッとしちょったけど、大丈夫?」
見るともう柳川の姿はなくて。
究さんが眼鏡越し、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
私はというと、未だ究さんの白衣――の胸ぐら――を掴んだままで。
「あっ、ごめんなさいっ」
田中先輩が呼んでいらっしゃるというお話だったのに、私が白衣を握りしめたまま固まってしまっていたから、究さんは動けずにいたんだ。
それに気がついて慌てて手を離したら、究さんが心配そうに私の頭に手をのせた。
「な、俺の勘違いだったらええなって思うんじゃけど――」
眉根を寄せてじっと顔を見つめられた私は、ぼんやりとした目で究さんを見つめ返した。
「さっき柳川が言いよった言凛ちゃんが好きな相手って……俺じゃなくて柳川のことじゃないん?」
ドキッとした。
どうして柳川には全然気付いてもらえない気持ちに、究さんはいとも簡単に勘付いてしまうんだろう。
「あ、あの……私……」
涙目で究さんを見上げたら、ふっと一瞬だけすごく悲しそうな目をしてから、柔らかく微笑みかけられた。
「ああ、やっぱ図星じゃったかぁー」
言われて、申し訳なさに眉根を寄せたら、「そんな顔せんのよ」って頭に乗せられたままだった手でポンポンとされた。
「言凛ちゃん、めちゃくちゃ分かりやすく柳川に好き好きオーラ出しとるのに……。逆にアイツ、何であんな鈍いんかねぇ?」
私はその言葉に、「柳川、ずっと幼なじみの女の子一筋なので……他は見えないだけだと思います」って。
無意識にアイツを庇うようなことを言ってしまって。
「ん。俺もそれは知っちょるよ。けど……あんな風に傷付けられたのに、言凛ちゃん、柳川の肩もつとか……。ホンマにあいつのこと好きなんじゃね」
究さんが、一瞬辛そうに眉根を寄せたのが分かって、私はハッとさせられる。
「あのっ、究さん、私っ」
本当にごめんなさい!って言おうとしたら、「待った! 謝るのは無しじゃけぇね?」って先手を打たれてしまう。
「そんなんされたら俺、ぶちみじめになるじゃん?」
「ぶち」はきっと、「ぶちくそ」と同じで「すごく」って意味かな。
勝手にそう解釈をしつつ聞いた彼のセリフは、確かに至極もっともで……。
私は今にも口をついて出そうだった謝罪の言葉を、寸前でグッと飲み込んだ。
謝れば、きっと私は楽になれる。
だけど究さんはそうじゃない。
だったらごめんなさいなんて言うべきじゃないんだ。
自分が究さんと同じ立場だったなら、やっぱり謝られたくなんてないもの。
「なんかさ、俺も言凛ちゃんも柳川も……みんな思うようにならんで辛いっちゃね」
ややして、究さんがポツンとそうつぶやいて。
私は「……そうですね」って小さくうなずいた。
***
「俺さ、思うんじゃけど――」
ふと何かを考えるように黙り込んでいた究さんが思い切ったように口を開いた。
「柳川さ、言凛ちゃんのこと、満更でもない気がするんよね」
そこまで言って、淡く微笑むと、小さく溜め息を落とす。
「こんなん俺が言うのも敵に塩を送るみたいでおかしな話なんじゃけど……大好きな言凛ちゃんのためだと思って敢えて言わせてもらうわ」
究さんは私をじっと見つめると、私の目端に滲んだ涙をそっと指先で拭ってくれてから、再度小さく吐息を落とした。
「あー、もう! ホンマ言凛ちゃん、可愛すぎる! じゃけぇさ、やっぱ俺にせん?って言いたいところなんじゃけど……それじゃ言凛ちゃん、心の底から笑えんのんじゃろ? それは俺、やっぱり嫌なんよね」
言って、ガシガシと頭を掻いて……。
「ね、ことり。俺を信じてしばらく俺と付き合うふり、してみん?」
とんでもない提案をしていらした。
コメント
2件
あああ、なんかどんどんややこしくなってきてない!?
ああっ、もう胸がぎゅーってなったよ……!😭💔 ことりちゃん、柳川に「大切にしてやってください」って言われちゃったシーン、読んでるこっちまで泣きそうになった。全然フラれたわけじゃないと思うんだけどな……あの寂しそうな一瞥、絶対なんかあるよね? そして究さん!優しすぎてまた泣く。「敵に塩を送る」って自分の恋敵のこと応援するとか、どんだけ良い人なん……。最後の「付き合うふり」には思わず声出た(笑) 次、どうなっちゃうの!?続きが気になりすぎる……!🌸