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「アンジェロ、命拾いしたよ。助かった」
カッシングが言うと、同僚騎士たちも相好を崩した。
「一時はどうなることかと思ったぜ」
「ほんとほんと。あの場でひとり動けなくなったら、ヤバかったもんな。回復魔法使えるヤツがいて助かった」
「お前、勇気あるな」
同行した騎士たちが好意的に新人である私を受け入れてくれたので、こそばゆい。私よりも遥かに騎士をやっている人たちから褒められるのは、素直に嬉しい。
「みんな無事でよかったです」
「お前、いい笑顔になるんだな」
ひとりの騎士がそう言った。
「可愛いじゃん」
「おい、やめろよ。……アンジェロ、気にするなよ」
カッシングがたしなめ、私を慰めるように言った。すぐにはわからなかったけど、私が女顔だから、可愛いと言われるのが嫌なのではと察したのかもしれない。すべてとは言わないけど男って、可愛いって言われても嬉しくない人が多いっていうし。
「何かあったら、言えよ。ひとつ借りだ」
騎士たちが休憩所へと足を向ける。私は王子付きなので、そのレクレス王子を目で探すと、ちょうどツァルトが離れるところだった。レクレス王子と目線が合い、彼が来いと手招きした。
「殿下」
「今日はよくやった。おかげで退却もスムーズだった」
足に負傷を抱えた者を連れていては、逃げるのも時間が掛かる。
「治癒魔法の使い手がいなければ、負傷者を抱えて、さらに人手を取られた上で、敵と戦わなければいけなかった」
レクレス王子が神妙な表情を浮かべる。
「仲間は見捨てない。それが騎士団の団結を強め、戦場で戦う力となる。仲間が必ず助けてくれる……そう信じるからこそ、人は恐怖をねじ曲げ、戦場に立てるんだ」
確かにそう。怪我をした時、動けなくなった時、周りが助けてくれるかどうかは大きい。自分ひとりではどうにもならない時に、仲間から助けてもらえないのは絶望しかない。
「戦場では勇敢さが好まれる」
レクレス王子は、曇っている空を見上げた。
「恐怖に打ち勝つ。それがどれだけ難しいか。みんな怖い。怪我するのは痛いし、一生残る傷を受けるかもしれない。騎士を続けられなくかもしれない。死ぬかもしれない」
不安。恐怖。
「それでも、仲間たちの前で一歩前に出られる者、人より恐怖に近づける者の存在は、周りの人間を勇気づける」
「わかります」
私、あなたが戦うところを見て、思った。王族なのに率先して前に出る。王子様の身に何かあったらと考えれば本当はどうなのか、と思うのだけれど、貴族も王族も戦場で武器を取り皆を導くことが尊ばれる。
「戦場に立ったことがない奴は、男が前に出るのは当たり前って思うだろうが、その命は戦いの中では誰もが等しく平等だ」
若者だろうが、老人だろうが、子供だろうが、農民だろうが、騎士だろうが、王族だろうが関係ない。
「恐怖は同じだ。それに対して、どこまで押さえることができるか。それは人それぞれなんだ。それでも前に出られるか……。勇敢な者が尊敬されるのはそこなんだ」
レクレス王子はそこで私を見る。
「アンジェロ、お前は真の勇気を見せた。仲間の危機に、身の危険を顧みず駆けつけた。そういう奴が一緒にいてくれることが、どれだけ周りの恐怖を和らげてくれるか、計り知れない」
「……」
「必ず助けてくれるヤツには皆優しくなる。頼りにするし、そいつがピンチならば、そいつのために命を賭けることを厭わなくなる。不思議なものだがな」
戦場の中での友情というものだろうか。ここでは新参な私では、まだそういう関係の人はいないのだけれど。
「今日のことで、騎士たちはお前を仲間と認めたと思う」
レクレス王子は歩き出す。私もその隣を歩く。
「前線にいる男たちは、新人の初陣を見ている。こいつがどんな奴なのか。信頼できる奴なのか。臆病者なのか……。ここで臆病認定されると、それ以後地獄だけどな」
自分の命がかかっているのだ。隣の人は信用できる人であって欲しいというのは、わかる話だ。
「新人が受け入れられるのは初陣を通過した後ともよく言われる。……それを考えるなら、アンジェロ、お前は上出来過ぎる」
「ありがとうございます」
王子様からそのような評価を頂けるなら、騎士として……ってあれ? 私、別に騎士になりにここにいるのではないのだけれどー?
「お前は冒険者ですでに経験しているから、ここでの初陣でもその能力を遺憾なく発揮した」
レクレス王子の口調に、楽しそうな響きが混じる。
「ますますお前を手放せなくなったな。オレが戦場にいる時は、オレのそばにいて欲しい『男』だ。お前になら、背中を預けられる」
「殿下……っ!」
それは最大級の褒め言葉! だけど、そうだけど……っ、違うの! 違わないけど、違う!
ここでは男のフリをしているけど、私は女なの! そばにいて欲しい『男』じゃないの!
「アンジェロ?」
「ぁぁー」
もどかしい。悶える。自分でも何でこうなのかわからない。男装しているのだから、男として見られるのは成功なのに、どうしてこう、しっくりこないというか、否定してくなるのか。私自身、わからない!
「お前、もしかして照れているのか?」
「照れてません!」
大きな声が出た。キョトンとする王子の顔を見て、私は別の意味で顔が熱くなった。王子殿下に声を張り上げてしまうなんて、無礼にもほどがある。
「ははっ、顔が真っ赤ではないか。そんなに褒められたのが嬉しかったのか!」
レクレス王子は私の肩に手を回し、ぱんぱんと叩いた。ちょ、距離が近い!
「可愛い奴だな」
「か、可愛い言わないでください!」
ああもう滅茶苦茶だよ。
「んんー、アンジェロ、可愛いぞ」
からかわれてるーっ! 否定したけど、ええ私は照れてますよっ。男の人は『可愛い』は嬉しくないって言う。でも私は嬉しい。だって女の子だもの。素敵な王子様から可愛いと言われて、背中がもぞもぞしない女の子なんているぅ? いないよね!?