🌸最終話:甘さは、二人で育むもの
涼架side
あの公園の出来事から数週間が経った。
僕たちの関係は、目に見えて変わった。
スタジオに行く時、僕の隣を歩く若井の距離は以前よりずっと近く、無意識に僕の肩に頭を寄せたり、僕が持つキーボードケースをさりげなく持ってくれたりするようになった。
いつもの練習後。
若井は自動販売機の前で立ち止まり、硬貨を入れた。
出てきたのは、紛れもないピンク色のパック、いちごミルクだ。
彼のは満足そうにそれを手に取り、次に僕を見て、にっこり笑った。
「涼ちゃん、今日は何にする?」
「僕は、もちろんこれだよ」
僕はそう言って、若井の隣にある自販機から、自分のいちごミルクを取り出した。
二本のピンクのパックが再び並ぶ。
ただ、「おそろい」の意味は、もう以前とは全く違う。
「ねぇ、若井。あの時、どうして水じゃなくていちごミルクに戻す気になったの?」
僕が尋ねると、若井はストローをくるくると回しながら、僕の方に顔を向けた。
「だってさ、涼ちゃんが僕の分まで飲んでくれるって知ったら、もう、かっこつける意味ないじゃん」
「俺の分まで?」
「うん。俺がいちごミルクをやめたら、涼ちゃんも寂しがるんじゃないかって、ちょっと期待してたんだ。なのに、涼ちゃんは毎日、俺の分も愛しさの味だって言って飲み続けるんだもん」
彼は肩をすくめて、笑う。その笑顔には、もうあの時の焦りや不安はなかった。
「涼ちゃんの好意は、俺の頑張りとは関係なくそこにあるんだって、やっと心から理解できたんだよ。だったら、俺がその甘さを受け取って、今度は俺が涼ちゃんを安心させてあげたいって思ったんだ」
「若井……」
「だから、これからは、二人で飲む。この甘さは、無条件の安心の味だからね」
若井はそう言って、僕のいちごミルクのパックに、自分のパックをコツンとぶつけた。
僕たちがそんな甘い時間を過ごしていると、後ろから元貴の咳払いが聞こえた。
「相変わらず甘いね。こっちはブラックコーヒーが苦く感じるよ」
元貴はマグカップを手に、僕たちの向かいに座った。
「元貴。どうせ全部聞いてたんでしょ」
若井が少し照れながら尋ねた。
「そりゃね。スタジオの休憩スペースなんだから。で、どうなったの?『相棒の証明』は無事に果たされた?」
元貴は、いつもの冷静な口調だけど、その瞳は優しく微笑んでいた。
僕は若井と顔を合わせて、若井が僕の手をそっと握った。
「うん。おかげさまで、僕たちは『無条件の愛』という名の新しいおそろいを手に入れました」
僕が答えると、若井は顔をさらに赤くして元貴から目を逸らした。
「そっか。よかったね」
元貴は静かに頷き、コーヒーを一口飲んだ。
「まぁ、俺が予想してた通りだよ。若井は壊れないものにしか、自分を明け渡さないからね。友情という名の安全地帯を、涼ちゃんが愛という、さらに強固な絶対的安全地帯に変えてあげたんだ」
「元貴の分析は相変わらず鋭いね」
「でも、一つだけ言わせて。今後は、俺の前で二人並んでいちごミルクを飲む時は、いちゃつくな。俺の精神衛生上、あまりに非協力的だ」
元貴が少し拗ねたように言うと、若井は吹き出した。
「はは!わかった、わかったよ、元貴。でもさ元貴もいるじゃん、俺たちの『お守り』」
若井はそう言って、元貴に向かって、彼のコーヒーとは全く違う、甘い笑顔を向けた。
「俺は、元貴の天才的な音楽と、涼ちゃんの無条件の優しさに挟まれてるから、もう怖いものなんてないよ。最強だ!」
僕たちの恋愛は始まったばかりだ。
バンドも恋も、これから色々な課題に直面するだろう。でも、もう大丈夫。僕たちの関係には若井が最も必要としていた、無条件の愛という名の最強の「おそろい」ができたのだから。
僕は、若井と繋いだ手を軽く握り、甘く冷たい、僕にとって最も特別な味のいちごミルクをゆっくり飲み干した。
次回予告
[🌹エピローグ:新しいルーティーンは、愛の確認]
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コメント
2件
あんらっまぁ。くっついてホント良かったぁ〜
最終話まど一気見しました!✨ 心情の変化っていうんですかね…目に見えて幸せ過ぎました!🍓🥛