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1.後方支援
各国からデンジの心臓を狙って刺客が来る。そうは聞いたものの、未だその気配はない。
対魔4課は宮城公安や民間からの応援と共にアキ、天使がデンジを護衛しているらしい。恐らくバディのパワーも一緒だ。
コベニ、暴力ペアは周りを警戒しつつ通常通りの悪魔討伐。院瀬見やリヅ、イサナも同様の役目に回された。
「先輩、討伐おわりました」
「サンキュー」
「なんの悪魔で通したらええですか」
「…ヤドカリ…?」
グチャグチャになって死んでいる悪魔は背中に大きな巻貝を背負っている。戦闘中はその巻貝をドリルのように回転させて攻撃してきた。
「気をつけろよお前ら、刺客が既に来てるかもしれねぇ」
振り向きながら院瀬見が言うと、その注意を聞き流し、ヤドカリの悪魔の前で静かに手を合わせるイサナが目に入った。
「海。行くで、何してんねや?」
「…ヤドカリさん…かわいそうだから」
「はぁほんまに…そんなん言うてる場合やない─」
「大丈夫だ。海洋生物だから仲間意識があるんだろ。討伐はしたんだから気が済むまでやらせとけ」
イサナを無理やり連れていこうとしたリヅを止める院瀬見。警戒を促したのは院瀬見自身だが、イサナの心が痛む気持ちも理解できる。まだ今はやりたいようにやらせればいいのだ。
「それより…」
隊員たちの心境には不釣り合いな、清々しすぎるほど澄んだ青空を見上げる。
敵がじりじりとこちらに忍び寄っているかもしれないというのに、一向にそれを感じられない。昔からなにかと勘が鋭い院瀬見だが、そのあまりの「違和感のなさ」に違和感を持った。
刺客襲撃の話を聞いた院瀬見はあの後、京都公安の天童へ電話をした。
『その話ならこっちでも既に出とる。うちの上司が…なんやっけ?デンノコ悪魔くん?の援護で呼ばれとるから、黒瀬と3人で向かうことになってるんや』
「…上司…スバルさんか?」
『よう知っとるな』
「会ったことはねぇけどな。何人もの指導に携わってきた実力者なんだろ」
『まぁな』
「…でも気をつけろよ、そっちから東京に来るまでの間に狙われる可能性だって十分ある」
『…私のこと心配か?』
「……当たり前だろ」
受話器の向こう側から天童が小さく笑ったのが聞こえた。
『…刺客追い払ってやること終わらしたら、また2人で飲み行こな。約束や』
「あぁ、待ってる」
──⋯
「天童、黒瀬…無事に来いよ…」
院瀬見はもう一度空を見上げて呟いた。
数時間後、院瀬見は天童の訃報を聞いた。
2.また1人
本部へ戻り、デスクで事務作業をしようとしたところでそれは起こった。
「─は?」
院瀬見はその訃報を電話で受けた同僚から聞いた。
「射殺だったらしい。どこからのかはわからないが、恐らく刺客にやられたものだと─」
「なんで護衛をつけなかった?歴戦の実力者と称されるスバルさんが来るなら最低限”護衛の護衛”はつけておくべきじゃなかったのか?」
涙を奥底に我慢しながら院瀬見は言った。怒りがふつふつと湧いていた。
護衛にまた更なる護衛をつけるなんて馬鹿な話だ。みんな忙しなく動いて出払っているのだからそんな特別なことをしている余裕など到底ない。分かっている。本来なら院瀬見もきっとそう言うであろう。
おかしくなってきているのだ。両親や弟だけに留まらず、幼い頃からの親友、それに加えて新人の頃から仲良くしていた仲間を失った。冷静でいられるわけがない。
「なんでもっと警戒しなかった?どうしてもっと厳重な警備体制を整えなかったんだ?」
どうして死ななければならなかったのか。
どうして大切な人ばかり先に死んでいくのか。
理不尽な怒りを同僚にあらん限りの力でぶちまけた院瀬見は我慢しきれず、嗚咽を漏らしながら膝から崩れ落ちた。
3.デパート
「デンジの援護…ですか?」
同じ頃、作戦の伝達役を務めていた上司から新たな仕事を任された。完全に立ち直れていない院瀬見と、それを見守るイサナが席を外しており、上司からの話はリヅが聞いた。
「正確には直接的な援護ではなく、遠くから尾行するだけだが…行けるか?」
「分かりました」
軽く会釈をして足早に院瀬見たちの元へ向かう。
リヅはこの時点でデンジが守られているのではなく、刺客をおびき寄せるための餌として使われているということに気づいていた。
(利用できるものはなんでも利用するってことやな…)
いかにもデビルハンターらしい作戦だと思いつつ、リヅは院瀬見のいる部屋の扉を開けた。
「デンジの援護に回れっちゅう指示やった。院瀬見先輩は大丈夫か?」
「…大丈夫だ。行ける」
院瀬見はうなだれた頭を起こした。
「大丈夫…?休んでたほうが…」
イサナが心配そうな表情で院瀬見の顔を覗き込む。が、院瀬見はそれを避け、椅子から立ち上がった。
「…天童が死んだ。父さんも母さんも弟も、仲のいい友達だってみんな死んだ」
「……」
「みんな私が側にいない間に死んだ。私が側にいれば、少なくとも死ぬことはなかったかもしれないのに」
「…そうだけど…」
「行くぞ」
院瀬見は拳を握りしめ、目の前の扉を強く睨みつけるように視線を上げた。
「これ以上、大切な人間が殺されてたまるか」
やってきたのは都内某所のあるデパート。デンジら一行は中に入っていった。後ろを尾行していた院瀬見ら3人はデパートの出入口付近で辺りを警戒しながらしゃがんで待機中だ。
「…出入口は今のところ特に問題なし…か。中に入ってく人がいないのは何故だ…?」
その時、1人の一般人らしき姿がデパートに向かって歩いていくのが見えた。
「いるよ、買い物にきた人」
姿を捉えたイサナが小声で囁き、指をさす。
デパートに入っていく人の姿が2人、3人とどんどん増えていき、それを見て院瀬見の持った違和感は消えた。
だが、その一般人らしき人の様子がおかしいことにリヅが気づいた。
「…リヅ、どうした?」
「あの人たち…。歩く速度…リズムも足音も…みんなおんなじや…」
「…まさか…」
「何かに操られとるかもしれん」
「おい待て…これ…」
「─!?」
院瀬見が視線を向けたその先では、何十体もの操られた人間が一箇所でごった返していた。
4.操られ人間
「やべぇぞデパート内に侵入してる!デンジを狙う気か…!」
「海!いくで!」
事態は急転した。3人は一斉にデパート前まで飛び出した。
「狼!」「クラゲ!」
院瀬見、イサナはそれぞれの手持ちを呼び出し、リヅは素早く抜刀する。3人揃って一気に攻撃をしかけ、瞬く間にその場にいた数人を殺した。
「気をつけろよ!さっき生身の人間が操り人形にされてるのが見えた!こいつらに触れられた瞬間仲間入りだ!」
院瀬見は内ポケットから出したメスを思いきり投げつけながら周りに注意を促す。今自分が殺した操り人形たちも元は人間だったのだ。心が痛むがもうそんなことを言っている暇はない。
「リヅ!イサナ!まだ動けるよな!?私らはこのままこいつらの数を減らすぞ!!」
「了解!」
人形に触れられないように細心の注意を払いながら倒していく3人。ねずみ算式に増えていく人形をなんとか食い止めないといけない。
「3人だと数が足りねぇ…イサナ!本部に連絡して応援を要請してくれ!この数じゃ捌ききれねぇ!」
静かに頷き、一時離脱するイサナを尻目に院瀬見は攻撃を続ける。
しかしその視界の傍らで何かが光ったような気がした。
「…!?」
黒い影が物凄い速さでこちらに迫ってくる。
「2人とも伏せろ!!」
「!?」
院瀬見の大声を聞き、リヅとイサナは混乱したまま素早く伏せた。
ヒュン!!
風を切るような鋭い音と衝撃が3人の頭上を走る。黒い影はそのままスピードを落とさずデパート内に消えた。
「…リヅ、イサナ、大丈夫か…?」
「あぁ、早よこいつら片付けんと─」
そう言ってリヅが身を起こそうとした次の瞬間。
人形たちの頭や胴体が次々と切断され、ボトリと地面に落ちた。