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1.やってきた
「なん…っ」
絶句する院瀬見たちの目の前には、首や胴が切断されてピクリともしなくなった人形たちの亡骸が転がっている。
院瀬見が倒したのではない。となると…。
(人影…さっきの影は人影だったのか…?そいつが倒した…?まさか…こんな一瞬で…?)
予想もできない急展開に自問自答を繰り返す。と同時に、院瀬見の上着のポケットに入った無線機が音を立てた。
『俺だ』
「岸辺隊長…!」
発信源は岸辺だった。電波が悪く、ところどころ音が荒れている。
『今東山たちと一緒にデパートに向かってる。そこはこっちがやるから、お前たちはデパートの中を片付けろ』
「あの」
『?』
「さっき何者かがとんでもない速さでデパート内に侵入したんですが…そいつが私たちの見ていない間に操られた人間を全員なぎ倒して…」
『…もう来てるんだな』
「え?」
『クァンシが来てる。仲間の魔人もすぐそばにいるはずだ、警戒しろ』
「…了解」
簡潔な指示のみ出され、通信は切られた。
「刺客…」
院瀬見はアキから聞いたことを思い出した。
『ソ連からの刺客だったレゼに続いて、今度は中国から刺客が来ようとしてる』─。
魔人が来る前に急がなければ。
「リヅ、イサナ、デパートに入るぞ、外は岸辺隊長たちがなんとかしてくれるらしい」
「了解」
3人は人形の亡骸を飛び越え、店内に入った。
2.連携プレイ
デパート内一階。
中国の刺客─クァンシによってバラバラにされた人形は店内にも数えきれないほどいた。獲物を探して店内を行き交う人形が数人。亡骸をお構いなしに踏みつけ、仲間内で殺し合いを始める人形が数十人。
「この程度なら想定内か…2人ともいけるか?」
「うん」「いつでも」
2人の返答を聞き、院瀬見が先制を仕掛けた。
3人はおおまかな作戦を決めていた。
院瀬見は病の悪魔の力、リヅは刀、イサナはクラゲ、と、それぞれ毒を用いた攻撃を使うことができる。それ故、まずは3人の毒の攻撃で人形の動きを鈍らせ、行動不能に陥らせてから狼に仕留めさせるという作戦だ。リヅは毒を打ち込むだけでなく、そのまま殺すことも可能であるため狼がとどめを刺す手間も多少は省ける。3人の連携プレイだ。
「おい!」
「!」
院瀬見が声でおびき寄せ、人形の気を引く。
「お待ちかねの獲物だぜ、来いよ」
言い終わる間もなく、人形は束になり一目散に走り寄ってきた。
その人形の束に向かって、院瀬見はメスを一面に投げつけ、リヅは大きく跳んで頭上から斬りかかり、イサナはクラゲを放つ。
「狼!」
すかさず狼が人形の首を引きちぎる。リヅも正確な手さばきで胴や頭を斬り落とした。ボトリボトリと次々音を立てて転げ落ちる。
「次行くぞ」
3人は狼を引き連れ、店の奥へと走った。
3.暗闇
どのくらいの時間が経っただろう、一階にいる人形は大方倒し尽くした。かなり動いたが3人とも平気な顔をしている。数々の死闘を潜り抜けてきた彼女らは、この程度で疲れなど全く出ないのだ。
「上の階に行こう、きっとみんなそこにいる」
電源が破壊され、動かなくなったエスカレーターを一段飛ばしで駆け上がる。事が起こったのはその時だった。
「は…」
瞬きをしたその瞬間に、元いたデパートの明るい空間が消えた。
その代わりにあったのは、辺り一面闇に包まれた静寂だった。
「…停電…?そんなはずは─」
壁も床も天井もない、そこにあるのはただ真っ黒な闇だけ。闇だけがひたすらに続いている。
「なんだ…これ…」
暗闇に目が慣れようとしていた瞬間に、再び光が戻った。
ゆっくりと目を開けば、そこに広がるのは先程のような暗がりではなく、草花の生えた丘。終わりが見えない。どこまでも続いた不気味な緑。頭上には一面に扉が隙間なく並んだ異様な光景があった。
そしてすぐそばに見慣れたスーツの男女。
辺りを見回して状況の確認をしているのはアキ。の隣にそれぞれ並ぶ天使、コベニ、暴力。向かいにいるパワー、横たわって動かないデンジとビーム。院瀬見の隣で混乱した様子を見せるリヅとイサナ。そして知らない男が3人、女が3人。
「院瀬見…」
「なんなんだここ…誰かの技の領域か?」
「…違う、俺たちも突然ここに落とされた」
となれば、誰かの罠にはめられたと見てまず間違いない。
「…リヅ、イサナ、大丈夫か?」
院瀬見は自身の後ろに倒れていた2人に声をかけた。アキも倒れたデンジに気づき、胸のスターターを引っ張った。
「イったあアアア!!」
デンジは目を覚ました。が、どうやら血が足りないようでチェンソーが上手く生えていない。
院瀬見はもう一度辺りを見回した。見たことのない6人の男女。男2人は自身と同じスーツを着ている。恐らく援護を要請したという宮城公安だろう。もう1人は外国の若い男。誰だろうか、分からない。
女3人のうち、2人は髪が独特な形をしていたり、パワーのようにツノが生えていたり、人間とは違った風貌だ。恐らく中国の刺客が連れている魔人だろう。となると残る1人─一つ結びにした銀髪と、右目の黒い眼帯が特徴的な女。
(こいつがクァンシか)
アキがクァンシに向かって警戒した様子で刀を向けている。デパートにいたとき戦っていたのだろう。院瀬見もそれを注意深く見ていると、クァンシが口を開いた。
「一時休戦だ、魔人たちの様子がおかしい」
「!」
院瀬見は急いで後ろを振り返った。
「ゔ……おぇ…」
「……」
「リヅ!イサナ!どうした…大丈夫か!」
リヅとイサナはその場でうずくまっていた。2人とも顔色が悪い。リヅは気分が悪いらしくえずいている。イサナこそ何も言わないものの、肩や手が震えて脂汗をかいている。
「天使!ここがどこなのかわかるか!?」
アキに声をかけられた天使はこちらに顔を向けずに言った。
「僕たち終わりだ…」
「え…」
「ここ、地獄だ…地獄の匂いだよ…」
「……」
「信じられないけど…何か悪魔の力で地獄に落とされたんだ」
言葉を失った。
4.地獄旅行
地獄─神の裁きによって悪行者が送られる場所、死後の世界。
“死後の世界”。その世界の地に今、隊員たちは立っている。
強大な悪魔の力のせいなのか、魔人たちは全員話すことすらままならないほどに衰弱している。リヅもイサナも気を抜けば気絶してしまいそうだ。
クァンシの仲間らしき、頭にリボンをつけた魔人が怯えた声で言った。
「わたわ、ワタシたち、ヤバい悪魔に見られていますぅ…」
「悪魔…」
「ここからずっと先に…銃の悪魔なんかよりずっとヤバい…根源的恐怖の名前を持つ悪魔たちが私たちを見ています…」
「……!?」
「私たちは彼らに敵意を向けられた瞬間死にます…クァンシ様ぁ…じ、じっ…自殺の許可を…」
涙ながらに訴える魔人をクァンシがなだめた次の瞬間だった。
「あっ…ああ〜!!終わった!終わった!来ちゃった…!」
頭上に並んだうちの、大きな一枚の扉が音を立てて開いた。
中から出てきたのは黒い液体のようなもの。
「来る…」
隊員たちは身構えた。
「闇の悪魔…」
液体はべちゃりと床に落ちた。
5.闇の悪魔
何かがいる。
延々と続く草原の先に、黒く巨大な人影が見えた。
院瀬見は見逃さなかった。扉から黒いものが落ちたその場所から人影が生まれた。魔人たちがより一層うめき声を上げて苦しんでいる。
これは魔人でなくても、院瀬見のような人間でもわかる。
あの人影は”危険”どころの話ではない、と。
隊員たちの足元で、どこから現れたのか、小さなカエルがゲコ、と鳴いた。
次に瞬きをしたその一瞬で、その場にいた全員の両腕が切断された。