テラーノベル
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第3話「夜に零れる、本音」
部屋の電気をつけないまま、らんはベッドに腰を下ろした。
静かすぎて、耳鳴りがする。
昼間のスタジオの音が、嘘みたいだった。
「……はぁ……」
息を吐いた瞬間、胸の奥がずきりと痛む。
無意識に、深く吸おうとして——
「……っ」
空気が、入らない。
「は……はっ……」
喉が狭くなったみたいに、息が引っかかる。
胸が上下して、心臓の音だけがやけに大きい。
「……落ち着け……」
自分に言い聞かせるけど、うまくいかない。
——余命。
——一年。
思い出した途端、呼吸がさらに早くなる。
「……ひっ……」
喉の奥が震えて、変な音が漏れた。
目の前が滲む。
「……やだ……」
小さく呟いた声は、誰にも届かない。
ベッドの端に手をつき、前屈みになる。
胃のあたりが、きゅっと縮んだ。
「……う……」
口元を押さえる。
吐くほどではないけど、込み上げる感覚が気持ち悪い。
「……っ、は……」
呼吸は浅いまま。
涙が、ぽたぽたと床に落ちる。
「……まだ……歌いたい……」
声に出した瞬間、嗚咽が混じった。
「……こさめ……」
頭に浮かぶ、あの明るい声。
「……みこと……すち……」
心配そうな目。
「……なつ……」
真っ直ぐで、優しい言葉。
「……いるま……」
見抜くような視線。
「……言えない……」
唇を噛みしめる。
「こんなこと……言ったら……」
——空気が変わる。
——笑えなくなる。
——シクフォニが、終わるかもしれない。
「……は……っ」
また、息が乱れる。
胸を押さえ、必死に呼吸の数を数える。
「……いち……に……」
うまく数えられない。
「……っ、は……ひっ……」
嗚咽が止まらなくなって、肩が震える。
「……俺……怖い……」
声は、ほとんど泣き声だった。
「……一人になるのも……」
でも同時に、
「……知られるのも……」
ベッドに倒れ込み、顔を腕で覆う。
「……ごめん……」
誰に向けた謝罪かも、分からない。
しばらくして、少しだけ呼吸が落ち着いた。
涙で濡れた視界のまま、天井を見る。
「……明日も……」
小さく、息を吸う。
「……歌わなきゃ……」
それが、自分に残された唯一の答えみたいだった。
——終わりが見えていても。
——声が、震えても。
「……まだ……」
喉が痛むのをこらえて、呟く。
「……俺は……ここに、いたい……」
静かな夜は、何も答えなかった。
ただ、らんの荒れた呼吸だけが、部屋に残っていた。
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コメント
1件
余命系で一番好きな作品かも。 続きたのしみにしてます!