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──と、『源治さん』とまでは、はっきりと言えないまでも、
「げ、ん……、げんじぃ……」
誓が、おぼつかない口ぶりで声を発した。
「ああーこれは……」
言ったきり、源治さんが片付けの手を止め、感激した様子で立ちすくむ。
「うれしすぎますね……確かに」
目尻に浮かんだ涙を指で拭い、
「……何というか、小さい頃の坊っちゃまに、そっくりで……」
かつてを懐かしむように源治さんが言うと、まだあどけない貴仁さんへ思いが及んで、ふっと笑みがこぼれた。
「坊ちゃまが、私を初めて呼んでくださった時にも、やっぱり源治さんとは言えずに、”源じい”になってしまって。それ以来、私の呼び方はずっと源じいでして」
微笑ましそうに喋る源治さんに、
「……私の子どもの頃の話は、いいから」
気恥ずかしそうに、彼が口にする。
「でも貴仁さんの”源じい”は、子どもたちが引き継いでくれそうで」
クスクスと笑って口にすると、
源治さんが、「私も、そう呼ばれるのが何よりですから」と、顔をほころばせるのに、
「……幼い頃の呼び方は、意外と抜けないもので、今になってもそう呼んでしまうが、源じいが気に入っているのならな……」
貴仁さんが、照れたように笑って話した。
皆が笑うのを見て、子どもたちもキャッキャッと楽しそうな笑い声を立てて、家の中がふんわりとした柔らかな空気に包まれるのを感じた……。
お父さんに、源治さんと、みんなが家族でいる幸せはこの上もなく、
結んだ誓いのように、いつまでもずっと止めどなくあふれる愛に満ちていたいと、
寄り添って並ぶ愛しい彼の肩へ、胸を込み上げる想いのままに、そっと頭をもたせかけた……。
終