あの夏が飽和する
トントン:【】
グルッペン:「」
「昨日人を殺したんだ」
グルさんはそう言っていた梅雨時ずぶ濡れのまんま部屋の前で泣いていた
夏が始まったばかりというのにグルさんはひどく震えていた
これは あの夏の日の記憶だ
「殺したのは隣の席のいつも虐めてくる彼奴、 もう嫌になって肩を突き飛ばして打ち所が悪かったんだ、もうここには居られない、どっか遠いとこで死んでくる」
そんなお前に俺は言った
【それなら俺も連れてってや】
グルさんは少し驚いたような表情を浮かべながらも承諾してくれた
財布を持って
ナイフを持って
携帯ゲームもカバンに詰めて
【いらないものは全部壊していこうや】
あの写真も
あの日記も
今となっちゃもういらないな
人殺しのお前とダメ人間の俺の旅だ
そして俺らは逃げ出したこの狭い狭いこの世界から
何もかも全部捨ててお前と二人で遠い遠い
【 誰もいない場所で二人で死のう、】
もうこの世界に価値なんてないな
【人殺しなんてそこら中湧いてるんやから
グルさんは何も悪くない
グルさんは何も悪くない
】
そういいながら罪悪感に押しつぶされそうなグルさんを慰めた
結局俺ら誰にも愛されたことなど無かったんや、 そんな嫌な共通点で俺らは簡単に信じあってきたグルさんの手を握った時微かな震えも既に無くなっていて、
誰にも縛られないで二人線路の上を歩いた
金を盗んで
二人で逃げて
どこにも行ける気がしたんだ
今更怖いものは俺らにはなかったんだ、
額の汗も落ちたメガネも
【今となっちゃどうでもいいさあぶれ者の小さな逃避行の旅だ】
いつか夢見た優しくて誰にも好かれる主人公なら汚くなった俺たちも見捨てずにちゃんと救ってくれるんかな?
そんな夢なら捨てた
現実を見ろよ?
〃シアワセの四文字なんてなかった今までの人生で思い知ったじゃないか〃
【自分は何も悪くねえと誰もがきっと思ってる】
あてもなく彷徨う蝉の群れに
水も無くなり揺れ出す視界に迫り狂う鬼たちの怒号に
バカみたいにはしゃぎあい
ふとグルさんはナイフを取った
「トン氏が今まで傍にいたからここまでこれたんだ」
「だからもういい」
「もういいから」
「死ぬのは俺一人でいいんだ」
そしてグルさんは首を切った
まるで何かの映画のワンシーンだ
白昼夢を見ている気がした
気づけば僕は捕まって
グルさんがどこにも見つからなくって
お前だけがどこにもいなくって
そして時は過ぎていった
ただ暑い暑い日が過ぎてった
家族もクラスの奴らもいるのになぜかお前だけはどこにもいない
あの夏の日を思い出す
俺は今も今でも歌ってるお前をずっと探しているんだ
お前に言いたいことがあるんだ
九月の終わりにくしゃみして
六月の匂いを繰り返す
君の笑顔は君の無邪気さは頭の中を飽和している
【誰も何も悪くない、君は何も悪くはないからもうええよ投げ出してしまえ】
そう言って欲しかったのだろう? なあ?
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