「妊娠!? 中絶したということ?」
「ボクは妊娠なんてしていない!」
フェイクに決まってるのに、僕も彼女もつい大声を出してしまった。僕らは完全に陸の術中にはまっていた。
「去年の年末に親戚の法事だと言って学校を休んだときに、本当は病院で中絶手術を受けてたんじゃねえの? 秋ごろにビッチにせがまれて中出ししまくったから、中絶代の用意はしてあった。だから金を出さなくて済んでラッキーって喜んだもんだぜ」
「本当に法事だよ!」
挑発に乗ったら負けだと分かってるのに、彼女だけでなく僕の我慢も限界に達していた。僕ならいくら侮辱されても構わないが、これ以上愛する彼女が侮辱されるのを見過ごすわけにはいかない。
「だ、黙れ!」
「おれだって別に話したくて話してるわけじゃない。大中寺はおれに対して、映山紅にひどいことしたクズだって憎んでるんだろ? 確かにおれはクズかもしれないが、映山紅の嫌がることは一度だってした覚えがない。初めて声をかけた日にもう落ちたチョロい女だと思っていたから、血がにじんだシーツを見て処女だったと知って正直驚いたぜ。初めてを捧げた相手が陸さんでよかったって映山紅に泣きながら言われたときは、それでもおれなりに感動したんだぜ。だけどさどんな過激なプレイを求めても断らねえし、そのうちどんどんおれに依存するようになってくるし、なんでもするからボクを捨てないで! なんてすがってくるような女を恋人扱いできないのはなんとなく分かるだろ?」
血がにじんだシーツ? 初めてを捧げた相手が陸さんでよかった? それを彼女に泣きながら言われた?
全部僕が経験できなかったものだ。正直陸がうらやましくてたまらなかった。口に出したら笑われて馬鹿にされるだけだろうが、僕が知り得なかった彼女の初体験の話をもっともっと教えてほしい! でもこれ以上聞かされたら嫉妬に狂って憤死してしまいそうだ――
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