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「何言ってるのよ!逃げた事には変わりはないのよ!」
目の前でヒステリックに同じ事を叫ぶリリアを見て、ナーシャはリリアに理解してもらおうと思ったのが間違いだと気付いた。
どう話したところで、リリアは自分の聞きたいことしか受け付けない。リリアにナーシャの気持ちは分からないし、ナーシャもリリアの気持ちは理解できない。
世の中には相容れない人はいるのだと理解して、それが異父とはいえ姉妹だった事がナーシャには残念で堪らなかった。
「私に言いたいことを言って気が済んだ?」
諦めたナーシャの言葉は、リリアの望む言葉ではない。リリアはナーシャに謝罪をしてほしいのだ、そして元に戻してほしいと、いやナーシャが戻すべきだと思っている。だからこの言葉はリリアの感に触った。
「はぁ?何を偉そうに!ナーシャの《《くせに》》!」
それを聞いて、ナーシャは改めてリリアにとってのナーシャは、同じ母から生まれたのに軽んじてよい対象に思われていたのだと感じた。
「黙れ!控えろ!」
突然、低く唸るような声が執務室に響いた。
それと同時に、ナーシャは嬉しさが込み上げる。義母の執務室の開いた扉には、背中を付けて腕組みをしてリリアを睨むジェストが立っていた。
「あっ!」
リリアがジェストを見て、思わずというように一声発して、口元を手で隠すように覆って怯えるように震え始めた。
そんなリリアの声は聞こえたが、様子などナーシャの視界には入らない。
久しぶりに見る精悍な夫に、ナーシャは釘付けで嬉しさが込み上げる。
(ジェスト様、会いたかった)
そう心の中で思ったら、知らずうちにお腹を擦っていた。それに気付いたジェストは、ナーシャがお腹が痛いのかと慌てて、ナーシャの隣に座っていたテリューズを押しのけて自分の体を滑り込ませてきた。
「ナーシャ、大丈夫か?」
「大丈夫です、ジェスト様おかえりなさいませ」
ナーシャの声にジェストは気持ちが高揚したのも束の間、ここが何処かを直ぐに思い出して、対面で震えるリリアを見据えた。
「お前、自分の立場分かっているのか?」
「そ、それは⋯」
「まさか成人前だから、許されるとか思ってないよな?散々侯爵家で説明したもんな」
ジェストのリリアに向ける言葉は、とても貴族令嬢に対する言葉には思えなくて、ナーシャの方が困惑してしまう。
そんなナーシャの顔を見て、ジェストはまたもや慌ててしまい、ナーシャに誤解されたくないという思いから説明を始めた。
「ナーシャ誤解しないでくれ、もうこの娘は貴族令嬢ではないんだ」
妊娠中のナーシャに要らぬ心の負担をかけたくなくて、王都での事は時間が経ってから話すつもりだったジェスト。リリアの暴走した子爵領への訪れで、それが水の泡と課したジェストは、もう一度ギリッとリリアを睨みつけた。
「どういうことですか?」
ジェストはナーシャの質問に、彼女の背に手を回して労るように擦りながら説明をしてくれた。
ナーシャが出奔した事に気付いたスティーブは、騎士団に届け出てナーシャを捜索していたのだが、そんなスティーブの元に、王宮から除籍完了の通知が、あの次の日に届いた。本来なら数日後に届く予定だったが、スティーブが騎士団に届け出た為、早急に送る事にしたという。
そしてナーシャが、ルオン公爵の養女になり即日でジェストと婚姻したことを知った。
不当だと訴えたスティーブに、今度は学園からナーシャが卒業した事を報せる通知も届いた。
その事で、既にナーシャが成人の資格を持ち、それに伴い色々な手続きを終えて完全にスティーブの手が出せない事を知った。スティーブにはナーシャを探す公の理由すら無くなっていた。
そこへトーラス伯爵に連れられて、ソフィアがやって来る。
|トーラス伯爵《彼》もまた、オリジエル侯爵家を陥れる為、機会を狙っていたらしい。
そして、彼から知らされる。
リリアはスティーブの子供ではないこと、ナーシャが正真正銘スティーブの子である事を。
スティーブは、ナーシャの髪色が金髪だった事で、ナーシャが自分の子ではないのではないかと疑っていた。それは一時でも妻だったソフィアの素行の問題でもある。
ソフィアがオリジエル侯爵家を追い出されたのは、ソフィアが浮気をした事と育児放棄、それと散財だった。
ナーシャを身篭ったと聞かされる前に、ソフィアがルオン公爵に近付いて色目を使っていた事があったからでもある。
オリジエル侯爵家の血筋で今まで茶髪以外の子女が生まれていなかったのに、ナーシャだけが金髪だった。それはルオン公爵家出身のミゼラがいるから、不思議なことではないのに、一度疑心に落ちたスティーブには、ナーシャが娘に見えなかったのだ。しかも、ミゼラがナーシャを可愛がり、ナーシャもミゼラを慕い、しかもセシルよりもナーシャの方が出来のいい姿は、スティーブにとっては長年腹立たしくて堪らなかった。
リリアを引き取るとき、ソフィアにトーラス伯爵家でリリアが虐げられている、それはスティーブの子供だからだと言われて、渋々ではあったが引き取った。離婚したあともスティーブは、なんだかんだと誘われて、流されるままソフィアと関係していたし、リリアは茶髪で青い瞳というスティーブと同じ色を持っていたから疑ったりはしなかったのだ。よく見れば、その色は王国では一般的でも有り、しかもソフィアのすぐ側にその色を持つ騎士が居たのに、スティーブはまたもや調査などせずに流されるままだった。
トーラス伯爵は、娘の顔をリリアに依って傷を負わされたのも、そもそもオリジエル侯爵がソフィアと離婚したことが原因だと恨んでいた。昔上司だったソフィアの祖父に、拝み倒されて婚姻を結んだのも、離婚がなければなかった事だとトーラス伯爵は、スティーブを恨んでいて、彼を絶望させる機会を窺っていたのだった。
それを聞かされたスティーブは、急に胸を押さえて倒れた。
彼は心臓発作を起こしていた。
コメント
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うわ、もう胸がギュッと苦しくなる展開…。リリアのヒステリーとナーシャの諦めの対比が痛かったです。でもそこに飛び込んできたジェスト様の「黙れ!控えろ!」がめちゃくちゃかっこよくて、思わずガッツポーズしました。そしてまさかの血筋の真実…スティーブが心臓発作で倒れるラスト、因果応報すぎて言葉が出ませんでした。marukoさんの描く家族の歪みと真実の暴かれ方がどんどん深くなってて、続きが気になって仕方ないです🤍