下駄箱で生徒たちが互いに挨拶や会話を交わしながら上履きに履き替えている中、 沈垣も同様友人達に適当な挨拶を交わしながら下駄箱に靴をしまい、上履きに自身のかかとを合わし終えたちょうどその時 、耳馴染みのある、爛々としていて周りより一際よく透き通った声が背後から聞こた
「沈先輩、おはようございます」
沈垣は振り返って穏やかな笑みを浮かべると、後輩からの挨拶に応える
「おはよう、冰河」
いつものように、 互いの教室がある上階を目指し階段までの廊下を並んで歩き始めた2人は、他愛もない雑談を始める
…そしていつものように、周りから痛いほどの視線を向けられる。
なんと言っても、この男、洛冰河は超・絶!美人なのだ
おおよそこの世のどんなに美しい俳優やインフルエンサーと並んだとしても、彼は霞むどころか相手より目立ってしまうのではないだろうかという程の破壊力であることは、 芸能界の人間にあまり詳しくない沈垣でも自信を持って断言出来る
本人も自分の顔の良さとその破壊力をこの16年間生きて自覚したらしく、普段はマスクをつけて生活しているのだ。(不遜なんて言ってあげるなよ、美人すぎるのも大変だろ?)
艶やかな黒髪。少しだけ長い襟足と顎の辺りまでの長さのセンター分けに、重心が下に置かれた天然パーマが彼の髪の豊かさ、そして可愛さにいい味を出している
細く整った眉は少々つり上がっている一方で、双眸を持つぱっちりとした大きな両目は目尻が少し垂れ気味で、上下には長いまつ毛が伸びているこの様子はさながら可憐な美少女を思わせる
目の少し下からはマスクをつけているため見えないが、額や隙間から除くきめ細やかで滑らかな肌や、鼻の高さなど隠しきれない美しさが溢れ出ている
人にはそれぞれ好みがあれど、冰河を前にすればその顔に見入ってしまうだろう
ここまでどんな誰よりもずば抜けた美貌を持った彼のオーラは、当然マスクなんかじゃ隠しきれず、今この状況の通り学校でも大変注目されている
彼の晒されている美しい顔に魅了され褒め称える声、彼の隠された顔半分について議論する声、彼が注目されていることを妬む声
そして、彼の隣にいる沈垣に疑問を抱く声
正直、自分の見た目はそこまで酷くはないと信じている
太っていても痩せすぎてもいない、体育会系ではないためスラッとした体を持っているし、情熱と言うほどのものは注いでいないが、一応身なりはきちんと整えているのだ
とんでもない美貌の持ち主と清潔感はあるフツメンが並んでても、そこまでおかしくはないだろ?そうだよね?
つまるところ、噂話をしている者たちが一番興味を持っているのは洛冰河の隣にいる沈垣の見た目ではなく他にあり、それは洛冰河の人間関係に由来するものだった
洛冰河はこの高校に入学する前からその美貌で注目を浴びており、入学した当初は彼とお近付きになろうとする女子生徒が大勢寄せ集まり、高身長で体格もいいため運動部の勧誘が絶えず、真面目で賢くそれでいて愛想も良いため教員たちからも気に入られ、人当たりもよい彼は皆からの人気者だった
だが彼と話しているうちに、周りの者は彼が自分たちとの間に見えない壁を作っていることに気がつく
やはりこれほど美しく完璧な者は自分たちとは相容れないのかと思うようになり、洛冰河は次第に遠くから眺めるような存在になっていった
だからこそ洛冰河とこれほど近くにいれる存在は珍しく、そんな彼と近づけなかった自分たちにはどのような違いがあるのかという疑問からくる沈垣への興味 なのだ
色々な囁き声が四方から聞こえるが、沈垣はこうやって噂話をされようがあまり気にしないタチだったし、なによりこのように注目されるのはもう慣れっこであった。
なぜなら、こんなことはもう前世で幾度も経験したことだからである。
俺の前世の名は沈清秋。清静峰の元峰主であり、洛冰河の師であった
そしてこちらの洛冰河は、今世の自身のひとつ年下の後輩であり、こちらをよく慕ってくれている人物であり、沈垣の前世の夫なのだ!
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