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第一印象は、さいっあく。
ーそれでもいつしか憧れ(?)、パパの仇を取り戻すためにも必死に追いつこうとした背中がある。
——その太刀筋は、まさに「最強」だった。
「遅ぇよ四ノ宮! そんな大ぶりじゃ、怪獣の的当てやってるのと同じだ!!」
「……ッ!!」
第1部隊の専用訓練場。
私の専用武器である巨大な斧による全力の斬撃を、鳴海隊長は涼しい顔で、ただの訓練用木刀一本で軽々と弾き返した。
(速い……!! まったく動きが見えない……ッ!)
息が上がり、膝をつきそうになる私を見下ろす、十字の瞳孔。
普段はゲームばかりしているダラけた背中が、この時ばかりは信じられないほど大きく見える。
(そうだった。……悔しいけれど、この人は正真正銘、日本のトップ。私が教えを乞うべき、最強の討伐者なんだわ……!)
私は額の汗を拭い、再び斧を構え直す。
「もう一本……! お願いします!!」
「フン、その目つきだけは褒めてやる。かかってこい!」
そう。あの時の鳴海隊長は、確かに最高にカッコよくて、私の目指すべき「最強の師匠」だった。
数日後の、今日までは。
「ーーーで、何でこうなったのよ」
私、四ノ宮キコルは、手にしたスーパーのレジ袋を床に落としかけながら、虚無の表情で呟いた。
「けほっ、ゴホッ……! ぉぉ……きこるぅ……」
第1部隊隊長室(兼・鳴海弦の私室)
部屋に入った瞬間、ツンと鼻を突くのは、山のように積まれたエナジードリンクの空き缶と、カップ麺の残骸の匂い。
そして、部屋のど真ん中にある万年床(ゲーミングチェアの真横)で、毛布にくるまってイモムシのように丸まっている、情けない前髪の男。
「ちょっとバカ師匠!? 部屋の温度低すぎますって! クーラー効かせすぎですよ!!」
「……だって、ゲーミングPCが熱持つから……」
「PCより自分の体温の心配をしなさいよ!!」
長谷川副隊長から「鳴海が熱を出してダウンした。すまないが、四ノ宮から様子を見てきてくれないか(私は溜まった書類の処理がある)」と頼まれ、嫌な予感を抱えながらやってきたが……
想像以上の惨状だった。
私はため息をつきながら体温計を鳴海の脇にねじ込む。
「ぁぐっ?!」
ピピピッ、ピピピッ。
「……39度2分。立派な高熱じゃないですか。原因は?」
「……新作のFPSが発売されたから……3徹して、エナドリとグミだけで生活してたら……急に視界がグルグルしてきて……」
「自業自得よバカ!! 小学生でもそんな不摂生しないわよ!!」
数日前に抱いた尊敬の念を全額返金してほしい。
日本の防衛力(トップ)が、ゲームのやりすぎで機能停止しているなんて、世間が知ったらパニックになるわ。
「あーもう! 長谷川副隊長に『キコルに看病頼むと甘えるから、厳しくやってくれ』って言われた意味がわかりました! ほら、まずは水分取って! ポカリ買ってきましたから!」
私がペットボトルのキャップを開けて差し出すと、鳴海隊長は毛布から半分だけ顔を出し、ものすごく嫌そうな顔をした。
「……嫌だ。ボクは、いつもの『ギガント・エナジー(魔剤)』じゃないと喉を通らない……」
「熱で死にかけてるのにカフェインと糖分の塊を要求すんじゃないわよ!! いいから黙って飲みなさい!!」
「むぐっ!?」
私は強制的に鳴海隊長の口にポカリを流し込んだ。
「ぷはっ! ……てめぇ四ノ宮、上官に向かってなんてこと……!」
「今は上官じゃなくてただのワガママな病人です! いいから寝ててください、今お粥作りますから!!」
私は袖をまくり上げ、地獄のように散らかったキッチン(?)を片付けながら、レトルトのお粥を温め始めた。
(……なんで私が、エリート防衛隊員になってまで、大の大人の介護をしてるのよ……)
ブツブツ文句を言いながらも、熱で苦しそうに息をする隊長の背中を見ると、どうしても放っておけない。
……なんだかんだで、強くなるためのヒントをくれたのも、不器用ながら私を気にかけてくれているのも、この人なのだ。
「……ほら、できましたよ。卵も落としておきましたから。冷めないうちに食べて……って、ちょっと!!」
お粥を運んでベッドを振り返ると、鳴海隊長が毛布を被ったまま、震える手でスマホの画面をタップしようとしていた。
「何やってるんですか!!」
「……ソシャゲの……デイリーミッション……。あと5分で日付が……連続ログイン記録が、途切れる……ッ!」
「意地でも寝なさいよゲーマー廃人!!」
私は鳴海隊長の手からスマホをひったくり、画面を強制スリープさせた。
「あぁぁっ!! ボクの、ボクの無償石がぁぁ!!」
「うるさい! スマホは熱が下がるまで没収! ほら、あーんして!」
「……ボクは子供か! 自分で食え……あふっ」
「黙って食べなさい!!」
私はスプーンにすくった熱々のお粥を、文句を言う鳴海の口にフーフーして突っ込んだ。
「……はむ、……モグモグ」
「……どうですか。味、薄いかもしれないですけど」
50
#無気力組
鳴海隊長は、口をもごもごと動かした後、ポツリと呟いた。
「……四ノ宮」
「はい」
「……塩気が足りねぇ。コンソメ味のポテチ砕いて入れてくれ」
「一生寝てろっっ!!!!!」
私のお粥と鉄拳制裁(軽め)により、鳴海隊長が翌日にはケロッと全快してグラウンドに現れたのは、また別のお話。
私の尊敬の念は、もうマイナスを振り切っている。
(おわり)