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夜が明ける少し前、日本は目を覚ました。
どこか冷たい空気が部屋に残っている。誰かが出て行ったあとのような、音もなく空虚な感覚だけが、布団の隙間から染み込んでくる。
布団から手を伸ばせば、隣のベッドが冷えていた。
「……また、いないんだ」
小さく呟くと、日本の声は誰にも届かないまま壁に吸い込まれていった。
兄の日帝は、最近朝になるといないことが増えた。夜中にどこかへ行く。理由は言わない。ただ、必ず日本の頭を撫でてから消える。指先の感触だけが残っている。心に刺さるような、優しさのふりをした鎖みたいに。
彼らは家族だった。
形の上では、普通の五人兄弟。けれどもう、親はいない。
子どもだけで残されたこの家で、日帝が長男としてすべてを背負っていた。四つ子の長男、という響きすらもう笑えない。
日本は五人の中で唯一、年が違う。
でも家族だ。兄弟だ。そう言い聞かせなきゃ、心が崩れてしまうから。
日帝がいない朝は、胸の中にぽっかりと空白が広がる。でも日本は知っている。あの人はいつも、日本だけには優しくて、日本だけを見ていた。
ーーだから。
他の誰かにその目を向けているところなんて、見たくない。
ゆっくりとベットを出た。朝の光はまだ来ていない。このまま、日帝を探しに行こうと思った。冷たい部屋を出て、音のない廊下に足を踏み出す。
日帝の温もりを、まだ感じてたかったから。