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報告書175
山道を歩き、研究所へ戻っているときだった。隣を歩いていた職員R0071jpが転倒した瞬間、彼の姿は突如として消えた。付近100mを重点的に数km先まで確認したが彼の手荷物ですら、発見には至らなかった。現時点では彼が「The Backrooms」にNoclipした可能性が最も高いと判断した。そこで、この事象が再現可能なのか同地点で転倒する検証を行なったが、再度Noclipは確認されなかった。しかし、再度発生する可能性を否定できないため、この地域の長期的な観測と、発生現場への立ち入りを禁止する措置を取るのが適当だと判断した。今回Noclipが発生した場所は、近くの電柱に書かれていた住所から佐賀県稲備町北稲備七丁目だと分かった。
記述 職員R0113jp・N0057jp / 2001年7月14日
発生現場は████████、████████の██であるとされる。この報告書を記述したR0113jpとN0057jpは██████で、█に████████に█████と██される。この情報は部外秘とする。但し、一部情報を削除した上で部外に情報を公開することを許可する。
追記 B.D.S.O.日本支部 佐賀本部
2024年10月6日
僕はバックルームズについて調べてみることにした。インターネットで調べてみると、
B.D.S.O.。正式名称は「バックルームズ開発支援機構」。バックルームズの開発を支援する為に結成された国際的な組織。当初は住居や倉庫などの建築を行なっていた。しかし、バックルームズの危険性が明るみになったことを踏まえ、現在はバックルームズの研究や、ノークリップしてしまった「放浪者」の救助も行っている。
世界中で行方不明者が増加しており、これにバックルームズが関係しているという。そのため、各国は対応を急いでいる。大多数の国家はB.D.S.O.と協力し、対策を打ち出した。そのおかげで行方不明者の増加を食い止めることに成功した。しかし、ゼロにすることは不可能に近い。
恐怖だけではない。国家はバックルームズを「利用」することも考えた。利用は良いことばかりではないのが世の常だ。そういった悪用を防ぐため国際法がつくられた。国際法では締約国はバックルームズ内に領土の主張をできない、軍隊を駐留させることはできない、国籍を問わず放浪者の保護をしなくてはならない、研究施設や保護施設、事務所の設置を認めるなど、これにより、あやふやだった境界線がはっきりしたのだった。
——という感じだった。
2024年10月7日
目を覚ませば視界いっぱいにアルファベットが広がっていた。どうやら寝落ちしてしまったらしい。昨日は日曜で、深夜3時くらいまでパソコンをいじってたっけ?それなら寝落ちするのも無理ないかぁ……
顔を上げるとモニターには猿が打ったような文字列が延々と続いていた。推定数十万文字。めんどくさいし、後で消せばいいよね?
「僕めんどくさいの大っ嫌いだから。」
そんな独り言を言いながら視界の隅に時計が見えた。7時半を指してるようにも見えたが……もし本当に7時半ならば学校に遅刻してしまう。恐る恐る見たところ、僕の見間違いではないことが明らかになった。僕はパソコンの電源を消し、教科書やら筆箱やらをリュックに詰め込み大慌てで支度をした。本当はシャワーを浴びたかったけど、そんな時間はない。
支度が終わるやいなや階段を駆け下りた。1階に降りるとまずニュースの声が聞こえてきた。ニュースはバックルームズへ転落しない対策を紹介しているみたい。
次にお母さんの声が聞こえてきた。
「いつまで寝てんのよ。もう間に合わないでしょ。」
「起こしてって言ったじゃん。」
「数十回は起こしましたけど?それでも起きなかったのはあんたの方でしょ。」
「はいはい、わかったよ……僕が悪いんでしょ?時間もないしもう行くね。」
「ちょっと、ご飯は?」
——呼びかける声を気にせず家を出た。無駄だと分かっていた。でも、なぜか口答えをしてしまう。僕は家ではいつもこんな感じだ。別にお母さんが嫌いな訳ではない。でも、なぜか言い返してしまう。
学校に着いた。駅まで走った甲斐があり、何とか遅刻は免れた。学校に着いてからは今日もいつもと変わらない時が過ぎていった。僕の得意教科は物理と数学だ。国語は日本語だし?何とか理解できる。しかし、英語はダメだ。理解できないことが多すぎる。僕もまずいとは思っている。だけど、何から始めればいいかもう分からないよ……英単語を覚えればいいのかな?
寝不足もあって、ちょっと眠たかった。特に午後。けど、授業は何の変哲もなく終わっていった。
そして放課後になった。SHRが終わった途端、僕は友達の涼月サキに会いに行く。サキは可愛くて、それに成績も性格も良い。お喋りが好きだからなのか、男女問わずみんなから好かれているっぽい。
「サキ、久しぶり〜」
「マリちゃん、数十分前に会ったばっかりなのよ?」
「そうだっけ?僕には10分も1日も変わらないけどな。」
「も〜、いつも私にデレデレなんだから!そんなにデレても私とは付き合えないわよ?高嶋マリン——」
「うっさいわ。別にデレてないから!それに百合も興味ないからね?」
「ホントに?」
僕たちはこうした会話を数十分は続けただろう。いっつもこの時間は楽しく、あっという間に過ぎていった。僕って話すのが好きなのかな?そろそろ話題がなくなってきたというところで僕たちはバイトに向かうことにした。バイトの内容はバックルームズという空間を少し調査するだけ。疲れるけど結構時給が良い。最初に危険が伴うとか言われたけどこれっぽっちも感じたことはない。確かに、1人だとちょっと怖いかもしれないけど、バイト時はみんなでいるから怖くないのだ。
僕たちは高校がある佐賀市から、B.D.S.O.の研究所がある伊万里市までいつも通っている。運賃はB.D.S.O.が出してくれる。どうやら、人手不足らしいので、待遇を良くする方針みたい。
(不規█な振█、点█する█光灯、ジーと█る蛍█灯、響く█笛。)
「起きて……もう着くわよ……」
かすかな声が聞こえてきた。サキの声だ。そこで、僕は寝てしまったことに気づいた。
「わかった〜、起きるよ。」
電車ではほとんどの時間眠っていた。だから、移動中の記憶はほとんどない。サキがいなかったら終点まで乗ってたかも?1時間は寝たし、これで眠気は覚めた。
しかし、なんか脳裏に……乗ってる電車も蛍光灯が切れかかってたし。それが夢にでてきただけかな?しかしちょっと頭が痛い気がする。そんなに気になんないけど。
僕たちは研究所に着くとカードをタッチして施設に入った。番号は僕がN1277jp、サキがN1278jpだ。どうやら、NはNon-regular employment(非正規雇用)の頭文字、jpはそのまんまで日本を意味しているそうだ。
研究所にはバックルームズと通じるゲートがある。調査は僕とサキ、それと職員R0270jpさんの3人で行う。R0270jpさんの本名は宇和島健太というらしい。サキが聞いたんだけど僕は別に本名なんか知ったこっちゃない。そんな感じで様々なことを頭の中で思いながら、僕はふと思いついた疑問について聞いてみた。
「サキはバックルームズって怖くないの?」
「う〜ん。少し怖いわよ?みんなでいてもどことなく恐怖心が湧き出てくるもの。あなたに誘われなければこんなバイトしてなかったと思うわ。」
「そーなんだ。僕には分からないや。みんなでいたら怖くないからさ。」
「油断大敵よ。」
油断大敵……別に油断はしてないと思うな。怖くないだけで。そんな他愛もない会話をしてたら、R0270jpさんの声が響いた。
「よぉし、準備完了だ。君たちは防護服を着たら、そこの荷物を運んでくれ。」
「分かりました〜」
「分かりましたわ。」
僕たちは防護服を着た。ついでに非常用の飲料なども持った。万が一のためにね。
荷物を持った僕たちはR0270jpさんについていき、ゲートを潜った。眼前には一面黄色い部屋が広がっている。
「今日はアルファ地点とチャーリー地点のカメラを回収した後、エコー地点へと向かう。分かったか?」
「分かったわ。」
「りょーかいです。」
この景色も見慣れたもんだ。もう、とっくのとうに恐怖心は薄まっていた。
僕たちは無事にアルファ、チャーリー地点のカメラを回収し、よくわかんない大型の装置をエコー地点に向けて押していた。この装置が何なんだかは、どうせ聞いたって理解できっこない。それに、アルバイトだし指示されたことをやればいいだけだ。
「サキ、仕事が終わったら一緒にご飯でも食べよ?」
「もちろ……」
言葉が遠くなる。入り組んだコードに躓き、地面が眼前に広がる。でも、痛みは一切ない。代わりに真っ暗闇の無音の世界。一瞬の出来事のはずが鮮明に覚えている。どうやら、ノークリップしてしまったらしい。何が起きたのか?その結論が出る前に、すでに全身は寒気に覆われていた。
見慣れた黄色い壁、耳障りな蛍光灯、湿ったイヤな空気。景色はさっきまでいた場所と何ら変わらない。だが、決定的に異なる点がひとつだけあった。それはさっきまでいた仲間が誰一人いないことだ。幸い非常用の飲料、食料はある。けれど、そんなピースをはめたところで心は満たされるわけがない。僕は今まで感じたことのない恐怖心に包まれていた。
トンネル効果。それは粒子が、通り抜けられないような壁をすり抜けてしまう現象。人には起きない現象なんだけど……ここでは平然と起きてしまう。バックルームズは物理現象が通じない、極めて異質な存在だ。冷静さを失えば命はない。そう脳は理解する。だが、脳と切り離されたような感覚の身体は、言うことを聞いてはくれなかった。
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えれめんたる
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