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【irxs】医者パロ

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【irxs】医者パロ

10 - 第9話 些細なことだけど①

♥

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2025年02月26日

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【お願い】


こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります

この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します

ご本人様方とは一切関係ありません


小児科医青×天才外科医桃

のお話です


今回から少し長めでシリアスなお話になります

名前のついたモブも多数(?)出てきますので、苦手な方はお気をつけください

お付き合いいただけたら嬉しいです


白視点





中庭に出た途端、ふわりと甘い花の香りが舞った。

定期的にきちんと植え替えられているせいか、毎日足を運んでいるというのに香りに慣れることはなく、しっかりと匂いを感じる。


すんと鼻を鳴らして白衣の裾をはためかせ、ポケットに手を突っ込んだまま歩いた。

中庭の真ん中、ベンチに座っている一つの影を見つけてそちらに近寄る。



「山田さん、寒くない?」



声をかけると、膝の上で両手を重ね合わせていた年配の女性が振り返った。

ゆっくりとこちらを振り仰ぎ、それからにこりと笑ってみせる。



「大丈夫よ。先生、今日も元気そうねぇ」

「それだけが取り柄やからね」



普段からそうしているように、断りの言葉すらなく山田さんの隣に腰かけた。


彼女はこの小さな庭園で、花を愛でるのを日課にしている。

慈しむように目を細めて。

だけどたまに、その眼差しは目の前の花ではなく、何か別のものを映しているようにも見えることがある。



「痛みはどう? 大丈夫?」

「今は大丈夫よ。先生が出してくれたお薬が効いてるみたい」

「そっか、良かった」



弧を描くように唇を持ち上げて笑んだ僕の顔を、山田さんは微笑を浮かべて見つめた。


それから「ねぇ先生」と小さく続ける。



「孫がね、昨日面会に来てくれたの」



山田さんには確か、幼稚園児くらいのお孫さんがいる。

元気な男の子で、面会に来てはうちの病棟を走り回り看護師さんに怒られていたっけ。



「それでね、言うのよ。『おばあちゃんいつ帰ってくるの』って」



穏やかなその声は、こちらでは汲み取れないほどの複雑さを含んでいる。

彼女がどう答えてほしがっているのか、はたまた答えなんて期待していないのか…こういう時、自分には相手の気持ちが測り知れなくて悔しくもある。



「…山田さんのことが大好きなんやね、お孫さん」



気の利いた言葉なんて言えるわけがない。

やっとの思いでそう口にした僕に、山田さんはもう一度にこりと笑った。

「そうなの」と、今度は本当に嬉しそうに。


その時の笑顔に、自分の気の利かないなりの返事が間違いでなかったと知る。そう思って内心で安堵の息を漏らした。





ここは、この大病院の緩和ケア病棟。


病気が進行し積極的な治療が困難になった患者に対して、せめてもと肉体的・精神的な苦痛を和らげてあげる場所だ。

入院期間も限られているから、お孫さんが望むようにいつか山田さんは自宅療養に切り替わるだろう。


それでも…、自宅に戻ったその先のことは、本人はもちろん医師にすら分からないし保証なんてできない。



少しでも心穏やかにいられるようにか、他の科とは違って小さいけれど手入れされた庭園がある。

病棟の中、ロビーのような場所ではクラシックやヒーリングミュージックなんてものが静かに流れている。


山田さんのように、この庭園がお気に入りの人も多い。

目を細め、うっとりとした表情で花を愛でる視線は、きっと今までの自分の人生を思い出して脳内に描いているんだろうと思う。



「…あ、ちょっとごめんね」



その時、白衣の胸ポケットに入れていたPHSが鳴った。

山田さんに謝り、「はい」と応じるとナースの上擦った声が聞こえてくる。



『先生、来てください! 井上さんの部屋からコールです!』



それだけでぷつりと切れた通話。

即座にベンチから立ち上がった。



「ごめん、山田さん。また来るね」



もう一度詫びた僕を、彼女はにこりと微笑んで送り出した。






駆け込んだ病室で、先に着いていたナースや他の医師と必死でできる限りの処置をした。

それでも停止していた心拍が戻ることはなく、やがて瞳孔が開いてしまっていることを確認せざるを得なくなる。


「14時48分」と告げる声が、自分のものではないように耳に返ってきた。

震えるな、震えるな…。

悲しくて辛いのは、僕よりも、これからここに呼ばなくてはいけないこの人の家族たちだ。




井上さんは、80歳近いおじいさんだった。

昔はきっと頑固だったんだろうな、でも年を取って大分穏やかになったんだろうなんて思わせる人柄だった。


若い僕たちに叱咤するように大声を投げつけるけれど、その言葉の節々には愛情を感じる…そんな人だった。


緩和病棟によくふらりと顔を出すまろちゃんも、井上さんのお気に入りだった。

「若いもんが猫背で歩くな!」と背中を叩かれていたこともある。

年配の方とは言えかなりの力があるものだからまろちゃんは本気で痛がっていたし、僕はその顔を見て大笑いしていた。



…こんな日が来ることは分かりきっていた。

彼に余命を宣告していたのも僕自身だ。


一時保管する霊安室に、エンゼルケアを施した井上さんのご遺体が運びこまれた。

ご家族はこれから駆けつけてくるだろう。

それまでの間、スタッフが去り誰もいなくなったその薄暗い部屋で僕は井上さんの横に立ち尽くした。



「…っ」



こういう時、自分は緩和医療科の専門医失格だと思う。

向いていないとすら思う。

今まで何人も見送ってきたというのに、この胸の痛みに慣れることはない。

仕事を仕事と割り切れず、旅立っていく一人一人に感情を揺さぶられる。



もっと冷静に、見送れるようにならなくてはいけないはずなのに。



ず、と鼻をすすった瞬間、キィと扉が開かれた。

ここまで慌てて走ってきたのか、息を切らせたまろちゃんがそこにいる。

肩を上下させて荒く呼吸しながら、小走りに寄ってきた。



「…ごめん、間に合わんかった」



井上さんがかわいがっていたまろちゃんに、うちの科の誰かが連絡してくれたんだろう。

首を横に振ったけれど、今にも泣きそうな表情を見られたくなくて僕は顔を伏せたままだった。

そんな僕の隣に立ち、まろちゃんはこちらに手を伸ばしてくる。

肩をぐいと引き寄せられ、もう片方の手が頭に添えられた。



無言で慰めてくれるかのようなその行動は、とてもまろちゃんらしいと思う。

同じように悲しみを覚えているはずなのに気丈に振る舞えるまろちゃん。

僕とは大違いだ。

井上さんが知ったら「泣くな!」なんてまた怒られるんだろうか。



「大丈夫やで、まろちゃん」



何とか唇を持ち上げて、無理矢理笑顔を作ろうとしたけれどうまくいったとは言えなかった。



「それにほら、こんなとこないちゃんに見られたら僕が怒られるやん?」



からかうように言ったのは、せめてもの虚勢だ。

冗談めかした話に持っていきたかったけれど、まろちゃんは笑ってはくれなかった。

ただ真顔のまま僕の肩を抱く手にぐっと力をこめる。



「こんな時に怒るやつちゃうから」



…分かってるよ、そんなこと。



まろちゃんの手のぬくもりが余計に胸に響いて、ついにこらえきれなくなった涙が一筋流れ落ちた。





医局に戻れる顔になるまで、まろちゃんは黙って傍にいてくれた。

今日の診察は終わっているとはいえ、まだまだ自分だってやることはあるだろうに。


まろちゃんと別れて持ち場に戻りがてら、話の途中でほったらかす形になってしまった山田さんの様子を見に病室へ向かった。

相変わらずにこにこと穏やかな笑みを浮かべる彼女と2,3言葉を交わし、そしてその後は執務スペースに赴いて電子カルテを開いた。



この後もまだ、気になる症状のある入院患者の回診がある。

やるべきことは山積みなはずなのに、頭のどこかでまだ別のことを考えてしまう。


あの時こうしてあげたらもう少し事態は変わったんだろうか、あの時あっちの薬剤を選んでいたらもっと痛みを和らげてあげられていたんだろうか。

最期の瞬間、苦しまずに済んだんだろうか。

考えても仕方がないことだと分かっているのに、それでも思い浮かぶのは井上さんのことばかりだった。



それをまるで見透かしたかのように、机の上に投げっぱなしだったスマホが鳴った。

ブブ、とバイブ音が低く響く。


それを手に取って目線を落とすと、グループトーク画面にメッセージが届いていた。



『今日あにきの家でこたつ鍋パするから。仕事終わった奴から集合ー』



脳内で掠れ気味のイケボが再生される。

ピンク色を彷彿とさせるそのメッセージに目を通してから、僕は再びそれを机に戻した。









「あ、来たしょうちゃんー」

「おつかれー」



ゆうくんの家に着いた僕を出迎えたのは、いむくんとりうちゃんの2人だった。


ゆうくんはきっとキッチンで鍋の準備を進めているんだろう。

出汁の香りが漂ってきて、空腹中枢を刺激する。

…そのはずなのに、食欲は一向に湧かない。

それでもこの誘いを断るなんてこともできなかった。


何故なら、きっと今日急遽集められたのは僕のためなんだろうと気づいていたからだ。



…まったく、こいつらは人が傷心の時にそっとしておいてやろうっていう考えには至らんのかな。

そんなことを考えては思わず苦笑いが漏れる。

本当は今日は、誰かと騒ぐなんて気分じゃないんよ。



だけど、それすらも全部お見通しなんだろう。

それで敢えて集められたんだろう。

わざと騒がしく盛り上げようとしているような天才組2人の向こうに、言い出しっぺのないちゃんの姿が見えた。

リビングの方からこちらに顔を出し、「おつかれ」と低い声が告げる。



こちらを見据えるないちゃんは、感情の読めない無表情だった。

だけどすぐに、大股でこちらへ歩み寄ってくる。

いつもより険しい剣幕を感じ取って、僕は思わず焦りを感じた。

…え、何か怒ってる??




…あれか! やっぱり霊安室でまろちゃんが僕を慰めようと肩を抱いたり頭を撫でたりしたから…。

ひやりと背中を冷たいものが駆け抜ける気がした。



「な、ないちゃんちょっと待って。あれはいろいろと深い理由があって、僕とまろちゃんは決して怪しい関係では…」



…いや、待てよ。あの霊安室での一件を誰かに見られていたわけもない。

言い訳をしながらもそう思い直した時には、ないちゃんはもう僕の前まで辿り着いていた。

そうしてそのまま、長い腕がこちらに伸びてくる。



「…な、いちゃん…」



呼びかけた声は飲み込まれた。

僕の言葉なんて全部無視するように、ないちゃんは伸ばした腕で僕の肩を抱き、ぎゅっと強めに抱きしめてくる。

ぽんぽんと後頭部を軽く叩くように撫でられた。



誰かと騒ぐなんて気持ちになれなくて、今日は一人になりたかったはずだった。


それでもそれを許してくれない大事な仲間たち。


そんな強引とも取れるような優しさに、僕はこの時ようやく本当に嗚咽の声を漏らして泣いた。






(続)

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