善悪は慌ててペスに駆け寄り、携帯用ウォーターボトルに入った濃い赤紫の液体をペスの口へと流し込んだ。
この液体はアスタロト謹製の赤ワインサパ入りである。
人間以外の生き物には錯乱のデメリットよりも、強壮効果によるメリットの方が強いらしく、気つけ薬代わりとして今回用意した物であった。
コクコクコク !
効果は覿面(てきめん)である、パチりと目を開けたペスであったが、取り憑かれた事がよほど恐ろしかったのか、顔馴染みの善悪の懐(ふところ)に顔を埋めてクンクン鼻を鳴らしている。
ペスの頭を撫でながら善悪はコユキに言った。
「某はペスが落ち着いたらお詫びにシャトーブリアンを食べさせて、音成さんにお礼を告げてから戻るのでござる、コユキ殿はシロクロチロを実寸大フィギュアへ納めておいて欲しいでござる、ねえ、大丈夫でござるか?」
「おけい! あれよね、色に合わせて入れてあげればいいんでしょ? 任しといてよっ!」
生まれてこの方気を付けたり、注意を払った事の無い幼馴染の自信満々な言葉に一抹の不安を覚えた善悪は慌てて言うのであった。
「えっとね、一応…… そうだっ! アスタを呼んで一緒に見て貰って欲しいのでござるよ、あの、一応ね!」
「あー、そうなの、分かったわよ、アスタと一緒に収めればいいのね…… んじゃやってくるわよ……」
「頼むでござるよ……」
その後三つの魔核を幸福寺へと持ち帰ったコユキは、気を付けつつも善悪との約束だから仕方なくアスタロトを呼んで助言を聞きつつ、魔狼達を新たな依り代に収めて行ったのである。
「いやいやいや、その子はチロじゃんか? コユキ! 黒い狼はクロだろうがっ!」
「へ? そうなのん? どれでも似たような物じゃあないのぉ? んもう、面倒だわっ!」
アスタロトは言うのであった。
「コユキ…… もう良いよ…… ほら、あっちで休んでいていいよ…… お饅頭でも怖がって食べてればいいよ(邪魔なだけだし)、後は我に任せてさっ!」
「ああ、そうなの? んじゃ頼むわねん! アスタ! ああ、お腹が空いたわぁ!」
この、クズめがっ!
しかし、魔狼三匹にとっては、キメ細やかなアスタロトが担当になった事で無事顕現する事が出来て、ウィンウィンな結果に終わったのであった、良かった良かった。
ウ、ウヲォォォーン!
大きく鳴き声を上げたチロは満足げに言うのである、その姿は茶色ながら大陸狼のフォルムの儘(まま)な、結城(ユウキ)|昭(アキラ)監修、吹木(フイギ)悠亜(ユア)謹製のこの世に一つ、たった一つの二つと無い逸品であったのだから、当然の歓び、咆哮だったと言えるのではないだろうか?
二キロ四方の犬という犬が失禁、所謂(いわゆる)粗相(そそう)をしてしまう程であった。
市販品を大きくした個体、大陸狼の白、及び黒の特注品、併せて四十万オーバーの原寸大に身を収めた二頭の悪魔、フェンリルのシロと、ケルベロスたるクロも、満足な笑みを浮かべてコユキに向けてほほ笑むのであった。
「むぅ、しっくりくるな、ありがとうルキフェル様!」
「な、な、悪くないよな? これ、良いですよ! ルキフェル様!」
コユキも答えた。
「モグモグ、良かったわ、んじゃ善悪が帰ってくるまで、モグモグ、境内で大人しくしていてよね! 勝手に表に行っちゃダメよぉ! 分かった? モグモグモグモグ、獣どもぉ? モグモグモグ」
獣たちは答えるのであった。
「「「はいっ! りょ!」」」
「ふぅう~、全く手が焼けるわね…… モグモグモグ、あ、それとアスタも協力あんがとねぇ! モグモグモグ」
いや…… アンタ何もやってないんじゃないの? 食べてただけでは?
そんな私、観察者の当然の疑問は一定方向に流れ続ける時間軸の中では届くはずもなく、コユキは食べ続け、狼たちは歓びの遠吠えをあげ続け、アスタロトは周辺の片付けを始めて、いつも通りの日常が繰り広げられて行くのであった…… まあ、いいよね♪
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