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「公爵閣下、バイオレッタ様から伝令です」
通信兵から報告を受けたアレクは、わずかに目を細めた。
「……そう来たか」
それだけ呟くと、すぐ近くの騎士へ指示を飛ばす。
「一番道幅が狭くなったところで、崖上へ合図を送れ」
「はっ!」
北西の崖を見上げる。
「合図は一度でいい」
そして、剣を握り直した。
***
(帰りたい……)
ギルフォード軍の下級兵は、重い足を引きずりながら谷道を進んでいた。
ここ数日、まともな食事は出ていない。給金も、聞いていた額の半分にも届かなかった。高給につられて入った自分が馬鹿だった。
(帰ったら、こんな軍すぐ抜けてやる)
そう思った、その時だった。頭上で、何かがきらりと光った。
「……ん?」
赤い小石のようなものが、足元へ転がる。拾い上げた兵士は、目を見開いた。
「これ……宝石じゃないか?」
その声に、周囲の兵士たちが一斉に足を止める。
パラパラパラパラッ!
谷の上から、赤い光の雨が降り注いだ。
「宝石だ!」
「こっちにも落ちてるぞ!」
「拾え! 今のうちに!」
「おい、隊列を崩すな! 列に戻れ!」
指揮官が怒鳴る。けれどもう誰も聞いていなかった。
***
時間は、少し前にさかのぼる。アイリス領主邸の裏山に、領民たちが集められていた。
彼らの前に置かれているのは、畑で使う魔法種まき機。広い畑に、種を均等にまくための農具だ。
「バイオレッタ様、本当にこれを使うんですか?」
農夫の一人が、不安そうに尋ねる。私は頷いた。
「ええ。ただし、まくのは種ではないわ」
フレッドが布袋を開く。中に入っていたのは、赤くきらめく小さな石だった。
「これは……宝石ですか?」
「屑石よ」
一粒を摘まみ上げた。
「宝石として売るには加工費の方が高くつくけれど、遠目には十分だわ」
農民たちが、顔を見合わせる。
「それを、谷道へまくんですか?」
「ええ」
私は北西街道へ続く山道を見下ろした。
「アレクなら、ギルフォード軍を狭い谷道へ誘導するはずよ」
あの道なら、大軍は広がれない。そして、今日は風がある。
「風は、狭い場所を通るほど速くなるの。谷を抜ける風に乗せれば、屑石は広く散るわ」
前世でビル建設の資料を読んだ時に学んだ、ベンチュリ効果。まさか、その知識を使うことになるとは。
「それにギルフォード伯爵家は、兵への給金を出し渋ることで有名よ」
私は布袋の中の石を見つめた。
「彼らは宝石を無視できないわ」
「そんなことで、進軍が止まるんですか?」
「止まらなくてもいいわ」
「隊列が乱れれば、それで十分よ」
Jasmine
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コメント
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第75話、読み終えました!「宝石の雨」が屑石とは…バイオレッタさんの発想力に脱帽です。ベンチュリ効果を戦術に使うなんて、しかも風向きまで読み切った冷静さがかっこよかった。アレク様との連携もグッとくるし、隊列が乱れる瞬間の臨場感にゾクゾクしました。お腹すいて不満だらけの下級兵たちの心理もリアルで、思わず笑っちゃいましたね。次が気になる展開をありがとうございます!🌷