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###番犬くんと優等生###
<第八章> 歪んだ謝罪
“束の間の平穏と新たな影”
龍崎が空き教室から去ってから数日。春夜の学校生活は、かつての日常を取り戻したかのように見えた。もう、放課後に彼の監視を恐れて震えることも、夜中に手錠の音に怯えることもない。食事も、トイレも、すべて自分の意思で、好きな時に好きなだけできる。
春夜は、その自由を謳歌した。好きなように授業をサボり、気の合う仲間とつるんで、些細なことで笑い合った。誰にも縛られず、自分の好きなように生きる。それが、春夜にとって何よりも尊いものだった。彼の目には、かつてのヤンキーとしての強い輝きが戻り、その存在感は以前にも増して周囲を圧倒した。
だが、春夜の心のどこかには、拭い去れない恐怖が燻っていた。それは、龍崎のあの謝罪が残した違和感だった。なぜ、あの龍崎が、あんなにも簡単に自分を解放したのか。なぜ、あんなにも完璧な支配を、あっさりとやめたのか。春夜の頭では、その理由がどうしても理解できなかった。
(まさか、本当に諦めたのか……?いや、そんなはずねぇ……)
龍崎の瞳の奥に宿っていた、あの冷たく、獲物を見定めるような輝きが忘れられない。彼の完璧な計画性、そして春夜の心の奥底を見透かすような狡猾さ。あの男が、たった数週間の抵抗で諦めるはずがない。春夜は、自分が解放されたことを喜びながらも、心のどこかで「これは嵐の前の静けさだ」と感じていた。それは、いつかまた、あの男の影が忍び寄るのではないかという、漠然とした、しかし確かな不安だった。夜中にふと目が覚めるたび、まだ自分の手首に手錠の冷たさが残っているような錯覚に陥り、思わず震えることもあった。
そんな、不安定な日常を送っていたある日のことだった。
ホームルームが始まり、担任教師が落ち着かない様子で教壇に立った。
「みんなに紹介したい生徒がいる。今日からこのクラスに転入してきた、流風くんだ」
ざわめくクラスメイトの視線が、教室の入り口に注がれた。
ドアが開き、そこに現れたのは、息を呑むほどの美しさを持つ少年だった。しなやかな黒髪は光を反射し、透き通るような白い肌。そして、人を惹きつけるような深い瞳。その整った顔立ちは、学校のトップである龍崎に匹敵する、いや、ある意味で龍崎とは異なる種類の、底知れない魅力を放っていた。
「流風、自己紹介を頼む」
担任の言葉に、流風はにこやかに口角を上げた。その笑みは、龍崎のそれとは異なり、無邪気で、しかしどこか妖しげな光を宿している。
「流風です。皆さんと仲良くなれたら嬉しいです。よろしくお願いします。」
流風の視線が、教室の中をゆっくりと巡った。クラスメイトたちは、彼の美しさに目を奪われ、静まり返っている。しかし、春夜は、流風のその「龍崎と同じくらい整った顔」を見た瞬間、背筋に冷たいものが走った。それは、ただの美形に対する反応ではない。流風の瞳の奥に、龍崎のそれとは異なる種類の、しかし確実に「何か」を秘めているような冷たい輝きを感じ取ったのだ。
春夜の心臓が、嫌な音を立てて波打った。自分がようやく手に入れた自由。しかし、その背後には、まだ見えない龍崎の影が潜んでいる。そして今、目の前に現れたこの転校生は、その影をさらに濃くするような、不穏な予感を春夜に抱かせた。流風の登場が、春夜の束の間の平穏を、再び揺るがし始めるのだった。
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