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めう💭🎀
59
「絶対嫌だ」
朝一番。
マナの声が屋敷に響いた。
ライは鏡の前で腕を組む。
「駄目です」
「嫌だって」
「本日の舞踏会は重要です」
「めんどくさい」
「毎年仰っています」
「だってつまんないもん」
マナはソファに転がった。
今夜、この地方の有力貴族たちが集まる大規模な舞踏会が開かれる。
当然、緋八家の当主であるマナも出席しなければならない。
だが本人は全く乗り気ではなかった。
「行かなくてもいいじゃん」
「駄目です」
「ライが代わりに行って」
「当主は私ではありません」
「ちぇー」
ライは慣れた様子でため息をついた。
そしてマナの正面へ立つ。
「マナ様」
「なに」
「三十分以内に着替えます」
「命令?」
「お願いです」
「却下」
「命令です」
「ずるい」
結局その一言で押し切られる。
マナは不満そうにしながらも立ち上がった。
「ライの鬼」
「執事です」
「同じ」
「違います」
そんなやり取りをしていると、自然と二人とも笑ってしまった。
⸻
夜。
舞踏会会場は豪華なシャンデリアで照らされ、多くの貴族たちで賑わっていた。
マナはすでに疲れていた。
開始からまだ三十分。
なのに帰りたい。
「帰りたい」
「駄目です」
隣に立つライが即答する。
今日は執事兼護衛として同行していた。
いつもの執事服ではなく、護衛用の正装だ。
黒を基調とした服装は妙に似合っていて、マナは少しだけ気に入らなかった。
「なんでそんな格好似合うの」
「仕事ですので」
「モテそう」
「興味ありません」
「ふーん」
本当に興味がなさそうだった。
その時だった。
「マナ様」
女性の声が聞こえた。
振り向くと、同年代くらいの令嬢が立っていた。
綺麗な金髪。
上品なドレス。
明らかに良家のお嬢様だった。
「ご挨拶に参りました」
「どうも」
「以前からお会いしたいと思っていたんです」
「へえ」
マナは適当に返事をする。
だが相手は気にせず会話を続けた。
その様子を少し離れた場所からライが見ていた。
「……」
面白くない。
別に主人が誰と話そうが自由だ。
自分には関係ない。
そう思う。
思うのだが。
なぜか視線がそちらへ向いてしまう。
「マナ様、お好きなものは?」
「紅茶かな」
「まあ、素敵ですわ」
「そう?」
「ぜひ今度――」
会話は続く。
マナは愛想笑いを浮かべている。
だがライには分かった。
退屈している。
今にも逃げ出したそうな顔だ。
それなのに。
なぜか胸の奥が少しざわついた。
⸻
その頃マナも別のことを考えていた。
(ライどこ行ったんだろ)
さっきまで近くにいたはずだ。
護衛なのだから当然なのだが。
少し離れただけで気になる。
「マナ様?」
「ん?」
「お聞きになっておりますか?」
「ごめん、聞いてなかった」
令嬢が困った顔をする。
その瞬間。
後ろから聞き慣れた声がした。
「失礼いたします」
ライだった。
「そろそろ次のご挨拶のお時間です」
完璧な執事の笑顔。
だがマナは分かった。
少し機嫌が悪い。
「本当?」
「はい」
嘘だった。
マナには分かる。
長い付き合いなのだ。
けれど助け舟はありがたかった。
「じゃあ行くね」
令嬢に手を振り、ライとその場を離れる。
人混みから抜けた途端。
マナは吹き出した。
「ライ」
「何でしょう」
「嘘ついたでしょ」
「何のことでしょう」
「予定ないじゃん」
「あります」
「ない」
「あります」
「ない」
ライは黙った。
そして小さくため息をつく。
「……面倒そうだったので」
「助けてくれたの?」
「護衛の仕事です」
「優しいじゃん」
「違います」
マナは笑う。
するとライが少し視線を逸らした。
「……あの令嬢」
「ん?」
「気に入られたようでした」
「そうかな」
「そう見えました」
「別に興味ないよ」
ライの動きが止まる。
「そうですか」
「うん」
「なぜです?」
「んー」
マナは少し考えた。
そして。
「ライといる方が楽しいし」
さらりと言った。
一瞬。
ライの思考が止まる。
「……」
「ライ?」
「いえ」
心臓がうるさい。
だがそんなことは悟らせない。
「光栄です」
いつもの執事の顔。
けれど。
二人だけになった馬車の中では違った。
帰り道。
向かい合わせの席に座る二人。
静かな空間。
窓の外には夜景が流れていく。
「疲れた」
マナが背もたれに寄りかかる。
「お疲れ様でした」
「ライも」
「私は大丈夫です」
「嘘」
「本当です」
「絶対疲れてる」
マナは身を乗り出した。
顔が近い。
ライは思わず視線を逸らす。
「近いです」
「避けた」
「避けてません」
「避けた」
子供みたいな言い合い。
そして。
ふとライが小さく笑った。
「……お前な」
タメ語。
マナが嬉しそうに目を輝かせる。
「出た」
「二人きりだからね 」
「もっと話して」
「調子に乗るな」
そう言いながらも声は優しい。
マナは満足そうに笑った。
その顔を見ていると。
ライは改めて思う。
舞踏会なんかより。
誰と話している姿を見るより。
こうして笑っている顔の方がずっと好きだと。
まだその気持ちに名前は付けられない。
けれど。
二人の距離は確実に少しずつ近付いていた。
コメント
1件
いやー、今回も良かったわ!舞踏会の退屈そうなマナと、それを察して助け舟出すライの絶妙な距離感がたまらん。馬車の中でのタメ語、あれだけで二人の特別感が滲み出ててグッときた。嫉妬してるっぽいライの心情、まだ名前つけられない感じが逆にリアルで刺さる。次が待ち遠しい🔥