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まさに元夫が想像だにしなかった私の新しい家族を目の当たりにして
驚き困惑している様を横目に、私は別のことに心を捉われていた。
それは……。
元夫との離婚の第一の原因は単身赴任だったのだと彼にそう答えた。
私は真の理由から目を逸らして……
心の奥底に仕舞い込んでいる本当の理由を
元夫に突き付けることが出来なかった。
私にはそんな勇気も度胸もない。
第2子である息子が産まれてからずっとレスだったこと
そして何より、はっちゃけ女子社員の動画で知った夫の本心。
家族になった妻とのSEXなど有り得ない……のひと言が
私を恐怖のどん底に突き落した。
元夫の本心を初めて知った時、私はまだ30代初めだった。
まだ若いのにこの先一生夫婦の営みがない?……しない?
こんな屈辱的で恐ろしいことがあるだろうか!
そしてこんな夫婦にとってプライベートでデリケートな話を
ただの会社の頭のイカレた女子社員に、思わず口が滑ったにせよ
ペラペラ話してしまうなんて。
もうこんな男、捨ててしまいたいって、本気で思った。
そしてその後は、もう誰かが私の気持ちと行動を後押ししてくれてるの?
っていうくらい、次から次へと失望させられることが起きて気が付くと
迷うことなく……捨てたいじゃなく捨てようっていう気持ちになってた。
私とはこの先、SEXしないと決めてる元夫。
もしその気になった時には外注するのか?
そんなことが頭を駆け巡りはしたが……
聞きたい?
聞きたかった?
ううん、聞こうと思うほどの元夫に対する情熱はあの頃、もはや
カケラもなかった……と思う。
聞いてみたい? イマサラダ
ついさっきまで悩ましいと思いつつも、どこかに……
どこか狙って隙間を……
自分をその隙間に捻じ込むことは出来ないだろうか
そんなことを本気で必死に考えてた自分をこの時殴りたくなった。
これってとっくに詰んでる話じゃないか。
もはやこの家に俺の……俺の入り込める隙間などないのだと
今度こそ理解した。
この8年間忙しいのに無理して帰らずともよい、思い切り仕事を頑張って
という妻の言葉を心からのものだと真に受けて、俺は嬉々として
好きな仕事に打ち込み手応えを感じもし、その成果も上げた。
収入も増えるし部下だって増える。
役職にも付いた。
大団円で凱旋門を潜り抜けるような気持ちで自宅に帰ってみれば
我が家と思っていた家は他人のモノになり、我が子と思っていた
子らは俺を父親として認識していなかった。
こんな現実が待ってるって分かっていたら単身赴任などしなかったよ
由宇子。
家族を失ってまで選ぶような仕事なんてないさ。
俺は従兄弟と子供たちを見た後、由宇子の顔を見た。
由宇子の表情と目が俺に今まで言葉にしてこなかった何かを
語りかけてきた。
こうなってみて、赴任前のことがいろいろと走馬灯のように
俺の脳内を駆け巡りはじめた。
当時(の)
大したことと捉えていなかったことが……
説明したから解決済みとしていたこととかが……
いろいろと急に蘇ってきた。
単身赴任する少し前のことだが、ある日誰かから
由宇子へタレコミという名の手紙が送られて来たことがあった。
それは俺が会社の馬場真莉愛という女子社員と歓送迎会の後
某ホテルへ一緒に入り一夜を共にしたという内容のもので。
由宇子は俺に聞いてきた。
「確か歓送迎会のあった夜は飲み過ぎて帰れなくなって
ビジホに泊まったって、翌日昼前に帰ってきたあなた……
そう言ってたけど、泊まった時あなたひとりじゃなかったのね?」
敢えて自分が言うほどのことでもないと、言わずにいたことだが
何もなかったのだし笑い話にするつもりで事の顛末を正直に俺は話した。
「それがさ、悪酔いしたからこりゃあ駄目だと思って目についたラブホに
即効入ったんだけど、会社の性質の悪い女子社員が一緒に付いてきたみたいで
ドアを開けて部屋に入った途端、後ろからそのままベッドに押し倒されて
しまったんだよな。
笑うだろ?
飲み過ぎて体調不良になった男を襲うなんて普通じゃないよ全く」
「ふ~ん、それで?」
「何してんだよお前って言って、ひっぺがして
俺はすごく眠かったからそのまんま寝たよ。
後のことは知らん!」
「知らんて、次の日は?」
「俺のほうが先に起きた。彼女はグースカまだ寝てた」
「で?」
「でっ? って、俺はとっとと1人で帰って来た……おしまい。
何もなかったよ、モチロン。
ホテル入ろうとした時にその女子社員が俺の後から付いて来てた
みたいだから、それを見てたヤツがいて邪推して君に知らせて
きたんじゃないのかな。
何も疚しいことはないんだから気にしなくていいんだよ、由宇子」
31-2
「どうして……
どーして、その女と一緒の部屋で一晩一緒になんかいられたの?
どうして笑いながら普通に話すの?
私の気持ちは考えないの?
酔ってたって男女が一晩一緒に1つの部屋で過ごしたんでしょ?
何もないって有り得ない!
どうしてすぐに女を置いて他の部屋に行かなかったの?」
「酔って気持ち悪くなって早く横になって眠りたかったから
また別の部屋に移るっていうのは、その時考えつかなかった……な。
そもそも俺がその気にならないと行為に及べないんだから
そっちの心配はしてなかったし。
男にその気がない場合、大事にならないさ」
「今回は酔い過ぎてそんな気にもならなかったでしょうけれど
もし、ほろ酔い気分の時に襲われてその気になってたとしたら?
そういうのは考えないわけ?
その相手が常日頃から可愛くて出来ればお手あわせ願いたい子だったら?
据え膳いただかずに我慢できちゃうの?
あなた、危機感なさ過ぎじゃないの?」
「何なに……焼餅まだ焼いてくれんの?
大丈夫だって!
女房思うほど亭主モテもせずって言うじゃないか。
さっ、この話しはこれでおしまいにしよう。
そんな手紙気にしなくていいさ」
確か、最後はそんなふうに由宇子に畳み掛けて手紙の件を
終わらせたっけ。