「カッコいいよね、付き合いたいかもー」
「でもあの人長続きしないらしいよ。しょっちゅう新しい彼女連れてるって」
「だけどさー、あの人と別れた後の子ってみんなさー、綺麗になってるよねー」
「私それ目当てで付き合いたいー、とか言って」
「あははー、それマジ最悪最低」
そうだ。私はその最低最悪だ。
昇降口横の倉庫前の段差。そこが俺と気の合う仲間達の溜り場になっている。
「あ、あれナオの元カノじゃね?」
「どの元カノ?」
仲間達が言う。俺は付き合いが長続きしない。あの子は夏にフラれた子、あっちはクリスマス前にフラれた子。ここにいると大体の下校生徒が見れるから当然元カノ達のオンパレード。でも見るのは嫌じゃない。みんな胸を張って綺麗だ。
俺は女の子が綺麗になって行くのを見るのが好きだ。だから自分の彼女には、綺麗になる手伝いをする。服装、髪型、美容、仕草とか。話しながら影響与えて、変わっていく女の子を見るとゾクゾクする。でも、どう言う訳か綺麗になった彼女達は俺から離れて行く。理由は色々。他に好きな男が出来た、やりたい事が出来たetc.
みんな、「ナオを卒業」して行く。
俺には、女の子を綺麗にする以外にもう一つ好きな事がある。恋する女の子ウォッチ。誰かに恋焦がれる女の子を見守るのが好きだ。自分でもよく分からない性癖だと思う。そういうのもこの溜り場にいると沢山見れるから、フラれっぱなしでも割と楽しく過ごせている。
そんな中、急に目の前に降って現れた彼女に凄く驚かされた。
「大鳥先輩、私と付き合って下さい!」
入学したままの完全なる校則通りの良い子ちゃん。ぱっと見中学生。その子には見覚えがあった。同じクラスのモテ男、荒山をずっと見ていた子だった。どこに居ても人だかりが出来る荒山を、少し離れた所から物欲しげに見つめる視線。
自分に自信がないんだなと思った。俺が手を加えたら変身して自信が持てそうだな、とも思った。気の弱そうな、自分1人では何も出来なそうな子に見えた。その子が、だ。
俺に「付き合ったら綺麗になれる」という噂がある事は知っていた。その噂を信じて、好きでもない俺に告白してきた。
弱そうな見た目で信じられないような行動を取る、そのギャップに、俺は落ちた。
「俺でいいの?」
いつもなら告られても言わないような台詞が口から出た。
恥ずかしそうに俯いて、逃げたいのを必死にこらえてる姿に、もう彼女以外見れなくなった。
連れてった美容院では
「ナオあれ本気だろ」
と速攻見抜かれ、従姉弟のネイリストには
「可愛いくし過ぎるとまた逃げられるけどいいの?」
と心配された。顔に出てたんだろうか。
校門で荒山を見た時の彼女の少し嬉しそうな顔が痛かった。荒山の話をした時に初めての笑顔を見せてくれた。悔しいやら、直視がキツい程可愛いやらで自分が分からなくなった。
一緒のショッピングはヤバいくらい楽しかった。脳から何か出てるんじゃないかって感じで、歯止めが効かなくなって、彼女を疲れさせてしまった。
祝日のデートの私服姿も申し分なく完璧で、ああ「仕上がった」と思った。
眼の中に、エフェクトみたいに光を入れた顔。これが俺の自分自身へのご褒美と決めている。だから別れを察知した時はそういう場所に誘う。夏なら花火。冬ならイルミネーション。それ以外の季節ならプラネタリウム。
彼女の目はとても綺麗だった。本当に星空が全部集まったみたいに見えた。でももう、見納めにしなきゃならない。綺麗で嬉しい気持ちと、最後で悲しい気持ちが混ざった何とも言えない感情。見てたら彼女に気づかれてしまった。言い訳じみた事を説明して見続けた。
送って行った家の前、唇にはしない、という誓いを破ってキスをした。涙目の彼女が愛おしくて仕方がなくなってしまったんだ。
明日、俺はまたフラれるんだ。
「ヒロコちゃん覚悟を決めたらしいよ?」
友達のコジがそう言った。
ヒロコちゃんとはサッカー部のマネで、入学以来ずっと荒山に想いを寄せているという噂の女子だ。
「2年越えの想いでしょ?流石に重くて俺なら無理だな」
外野は言いたい放題だ。呆れつつも俺は「急がなければ」と思った。
立ち上がって教室の後ろに向かって呼び掛ける。
「おいサッカー部、ちょっと顔かせ」
荒山が顔を上げる。俺達は廊下に出た。
昇降口をくぐるのが怖い。それでも私は覚悟を決めて顔を上げ、足を前に運ぶ。
「リン!」
ナオが呼ぶ声がした。いつもの場所で座っていたナオが、私を見つけると駆け寄って来る。
「今からちょっと話せる?」
私は頷いた。ナオは私の手を引いて、倉庫の横から裏側を通り抜けて校庭に向かう。
丁度良い。私からも話そう。覚悟を決めて。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!