「ナオごめん。私・・・」
そう言い出した私の言葉をナオは遮った。
「リン、謝らなくて良いよ」
と。
「サッカー部、今日告られるよ。マネに。だから行っといで」
ナオは作ったような穏やかな笑顔で言う。
「ナオ、どうしてそんな事・・・」
全部知ってたの?私が好きなのはナオじゃなくて荒山先輩だって。いつから知ってたの?もしかしたら最初から?だから「俺で良いの?」って聞いたの?私がナオに「好き」って言ってないって気付いてた?私どうしてもそれだけは言えなかったの。最低最悪だよ私。ごめんなさい。ごめんなさい・・・。
涙が出そうだった。言葉が続かない。
風が動いた。ナオは、我慢で震えてる私の両肩に手を置いて顔を覗き込む。
「リン、綺麗だよ。だから自信持ってサッカー部に告ってきな。俺とは、終わりにしよ」
ナオはイケメンだ。性格もイケメンだ。凄く優しい。どうして私、ナオじゃないんだろう。
「短かったけど、すげー楽しかった。リンありがとね」
私は頷く事しか出来なかった。
ナオは、手に少し力を込めて私の肩をクルっと回して反対を向かせる。
「マネに先越されないようにサッカー部捕まえといた。3階の物置前。行っといで、リンちゃん」
背中を押された。ナオは私を見ている。後ろ手じゃないバイバイ。
「ありがとう」
振り向かないで呟いた。振り向かないで走り出す。とんでもなく優しくて大きくて、切なくて悲しい応援。受け取って、成功させない訳にはいかない。
行こう。前に進もう。
「サッカー部か」
物陰から翔の声がした。
「ナオいつもここでフラれるのな。テンプレなん?」
続けてコジの声。うるせー。
「ペース早えーと思ったら終わるのも早かったな。4日?最短じゃね?」
友也の声と共に物陰からゾロゾロと出て来る仲間達。何しに来たんだコイツら。
「サッカー部にフラれて戻って来て欲しいとか思ってんだろ」
笑いながら肩で小突いてくる。
「戻って来たら泣ける」
そう、それはリンが失恋したって事だから。
「戻って来なくても泣ける」
そう、それは俺が失恋したって事だから。
カラカラと笑い出すコジと友也を翔が軽く殴った。
その時、風を切り裂く様にして何かが背後から飛んできて友也の頭にヒットする。
「いって!何だこれ」
上履きだった。形からして右足の。
「ああ、最近流行ってんだよコレ。シンデレラ戦法」
翔が言う。
「当たった奴は上履きの持ち主探さなきゃなんないんだろ?」
「めんどくせ」
「でもコレ書いてあるよ」
1の5 鈴原。
「新手の呼出しだな。サッカー部やナオレベルには使ってはいけないルールらしい」
人が苦労してる間に変な事が流行り出したものだ。
「なら翔も使ってはいけないレベル?」
「俺は別枠なんじゃね?怪我したら事務所から請求行くし」
「流石現役モデル」
「まぁな」
フラれた傷心の横でいつも通りの雑談。正直有難い。
「じゃ、俺行くわ」
友也が上履き片手に離れて行く。
「行くのかよ」
足取り軽く鼻歌なんか聴こえて来る。痛い思いしたのに、なんだかんだで上機嫌だ。
「あの、大鳥先輩、少し良いですか?友達が話したいって・・・」
いつもの溜り場に引き返す途中で女の子に声を掛けられた。
「おい、次が来たぞ」
「ナオすげー」
「でもさ、普通こうだよな。呼出して静かな所でコッソリ告白。それ考えるとやっぱリンちゃんすげーわ」
「コジ、少しは空気読め。ナオどうする?今は断るか」
「いや、行く」
リンは進む。俺も止まらない。それで良いよな。
高3の後半戦。青春は加速する。