「彼女と・・・僕は・・・・」
ジンが呟き・・・ゴクリと桜が唾を飲んだ、もうジンから目が離せない、彼はこの計画を降りようとしているのだろうか?
「実は・・・浜崎さん・・・実は・・・僕と彼女は・・・」
ジンが床を一点見つめして言う・・・いまや桜の心臓は激しく鼓動している
「恋に落ちるはずがないのに・・・僕の方が先に恋に落ちました・・・社内では秘密にしていましたし、デートは・・・いつもお互いの家ではなく・・・ホテルに泊まっていました・・・なので近所や僕の社員は僕達の仲を・・・知りません」
「ほう・・・それは如何に?」
浜崎が首をかしげる
「だって・・・考えても見てください、僕は会社のトップです、彼女はとても優秀で、昇進を控えていました、社長の僕と恋愛中に昇進なんて・・・周りは仕事とプライベートを一緒にするので彼女の評判に傷がつきます・・・当然です、なので二人の関係は極秘シークレットにしていました」
「昇進?」
いちいち桜が驚いてジンの言い分をオウム返しで叫ぶ
「なるほど・・・」
浜崎が首をかしげる
「それでは秘密の恋を桜さんのご両親には?お話しましたか?」
「こっ!今週末に私の実家へ結婚の報告をかねて彼と一緒に帰省します!祖父の89歳の誕生日なんです!おっ・・・驚かせようとおもって」
慌てて桜が言う、なんとか最大の問題はクリアしたようだ、やっぱり彼はこの偽装婚を続ける気だ
「それは結構!ご両親も安心なさるでしょう、え~と・・・桜さんのご実家は兵庫県・・・淡路島!素晴らしい所ですよね」
「はい!そこへ彼を連れて行きます!」
「ええっ?」
今度はジンが驚いた、桜が目を剥いて無言で歯を食いしばっている、顔芸で「話をあわせろ」とジンに語っている、顔が怖い!
「は・・・はい!行きます!そうなんです!彼女の実家へ!行く・・・行くのか?そう!行くんですよ!!淡路島かぁ~!いやぁ~楽しみだなぁ~」
アハハとジンが頭を掻く、浜崎は素早く書類に書き込み、スタンプをパンッパンッと鳴らして書類に何枚も押している、やっと意志が通じて全身脱力する桜とジン
「よろしいでしょう!次のお二人の面談は来週の月曜の午前11時に行います、それまではビザ発行は
仮申請発行所をお渡ししておきますね」
浜崎が机に肘を付き、口の前で手を組んだ、二人を見据えて丸眼鏡の奥で瞳が鋭く光った
「良い週末をお過ごし下さい」
移民管理局の拘束から「仮ビザ発行券」を手にして脱出した時は、二人はげっそりして疲れ切っていた
審査官・浜崎の鋭い質問に追い詰められ、汗と緊張で桜の背中はびっしょりだった
やっと解放されて移民局脱出した途端、ジンが突然笑い出したのだ
桜は真っ赤になった、なぜなら、ジンが笑う理由が分かっていたからだ
偽装婚の質問で浜崎から夫婦の営みの頻度を聞かれ、桜は咄嗟に「毎日」と答えてしまった
もちろん、新婚なんだからと瞬間的にイメージした桜の頭の中では「新婚=ラブラブ=毎日」という単純な図式が浮かんで言っただけなのに
それがジンとの新婚さんの夜の生活の頻度の認識がズレていたのだ
「あ・・・あの・・・ですね・・・あくまであの回答はですね、世間一般に見て・・・ということで、決して私の願望とかではなくて・・・」
桜は人差し指を突き合わせながら、シドロモドロと弁解したが、ジンはくっくっくっと体を折り曲げて笑い、涙まで浮かべている
「ゴメン・・・ゴメン」
彼は謝りながらも、笑いを抑えきれない様子だ
「もう!いつまで笑ってるんですか!」
桜はほっぺを膨らませて拗ねた、ジンの笑顔は普段のクールなCEOの顔とは別人で、まるで少年のようだった、ようやく笑いを収めたジンが、涙を拭いながら言った
「腹が減ったな・・・
- ところで君は、お好み焼き焼ける?」
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