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職員室 / kymrch

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職員室 / kymrch

1 - 職員室 / kymrch

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2024年09月24日

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onkn / kymrch


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「先生、それなに?」

「珈琲」

ガラガラの職員室。

期限過ぎの提出物を溜め込んだせいで、呼び出されていた。


「へえ、…」

「なに、怖い怖い…」

先生は、どこか引いたような顔で、俺を見た。

教師とは思えない。同級生みたい。


「いいなあ、俺も水じゃないやつ飲みたい…」

「水も美味しいよ…多分」

苦笑いで、話題を逸らすな、と先生は笑う。


学校は基本水。隠れてスポドリとか入れてくる奴がいるが、まあ面倒くさい。


それか購買で買うか。金の無駄だと思って、未だ買っていないが。


「毎日水は飽きる…」

「家で飲めばいいじゃん、家で」


「学校がいい」

「なんで?笑、こだわり?」

「そんなとこ」


適当に返事を返す。



ガラガラの職員室は、少し肌寒くて。

体温が、どんどん空間に呑まれていった。


「寒い…」

「あー、職員室はクーラーが良くきくからね」

そう残すと、先生はすっと立ち上がった。

音を立てて、コートが広がる。


「どう?」

「あ、暖かい…です」


途端の彼の行動に、顔が紅く染まる。

普段付けない敬語が、勝手に付いた。


「よかった」

そう笑って、何が終わってないんだっけ、と彼は名簿を漁った。


そっか。提出物やりに来たんだ。

忘れるところだった。

いや、忘れてたに入るのか、これは。



諸々確認をしている彼の横で、俺はコートの温度に溶けていった。


学生の俺にしては、大人のコートは大分大きい。

困難なく俺を包み上げた。


彼の席の横で、椅子に座り、小さく蹲る。



「何も終わってないじゃん」

「そだよ」

暫くの沈黙を切り裂くように、彼は口を開いた。


「当たり前みたいに返さないでよ」

まるで何もおかしくないと返す俺に、苦笑いを浮かべ、手を焼いていた。



途端、耳に障る音が響く。校内チャイムだ。

そのチャイムは、会議の為に教員を呼ぶ音だった。


「ごめん、会議だ…六時までには戻る」

「俺何してればいいの」


「課題以外に何があるの」

「はーい…」


韻を踏んで素早く返されてしまう。流石。


ガラガラとした扉の音を最後に、職員室は静まり返った。



俺一人。冷えきった部屋。





約一時間たった。

時計の針は五時三十分を指さしていた。


あと三十分。

頑張ろうかと思ったが、手に握ったシャーペンは、静かに筆箱に入った。




彼の年齢は教員の中では若い方だ。

二十代。


生徒との年齢の差が少ないにしても、約十年はある。




遠いな。




もしもう少し早く、いや彼と同年代に生まれていたら。

自分を彼に吐き出せただろう。


吐き出すことも、怖くなかっだろう。


人の心理と法が、俺の内部を一つ一つ破壊していく。



当たって砕けろ、なんて言葉はあるけれど、まず世の中は当たることすら許してくれない。


砕きなんてしてくれない。


彼に自分を伝えようものなら、素早く拒絶され、そっと捨てられる。



彼は教師だから。




ふと目に入る暗い色をした液体。

吸い込まれそうな、暗い色。


彼が飲んでいた珈琲。


ホットで飲んでいたはずの珈琲はかなりといっていいほどぬるく、冷め切っていた。


静かにカップを手に取り、口に近づける。


珈琲の香りが鼻腔を突き抜けていき、慣れない強い匂いに頭がクラクラとする。



彼と同じ手で持ち、指を引っかける。


そっと口に流し込んだ。




苦い。


そう感じてしまう自分と、気に止めることも無く当たり前のように飲む彼の姿が浮かび上がり、また差を感じる。


そのまま勝手に自己嫌悪に浸った。







ねえ、実際に口をつけたらどうする?

なんて言ってくれる?


拒絶?歓迎?無心?


考えても分からない。答えが出てこない。




教えてよ。







教員、なんでしょ。













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