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「すぅ……はぁ……」
ユキは胸の奥まで空気を満たし、吐き出すと同時に紅蓮の双剣を握り直した。
その瞳は、迷いも怯えも映さず、ただ標的だけを捉えている。
「キシャァァア!」
先陣を切った一匹が、槍のように尖った尻尾を突き出して突進してくる。
「ふっ……はぁッ!」
ユキは一歩踏み込み、尻尾の突き上げを紙一重で回避。
その反動のまま、紅く燃える刃を振り抜いた。
「キシャァァ!?」
高熱により切断面からは血の代わりに、焦げ臭い煙が立ちのぼる。
「ユキは……みんなのために!」
炎をまとった双剣が弧を描き、タナトスの首を断つ。
「これが……ユキのみんなを護る力です!」
少女の歳とは思えぬ機敏さで、二匹目、三匹目をも瞬く間に斬り伏せた。
「【運命を変える力】……それは、彼女が備えていたものじゃない。掴み取ったものだ」
そう呟く声に、キールの目から一筋の涙がこぼれる。
「おいおい……泣くなよ」
「これが……泣かずにいられるか。私の娘がここまで強くなったんだ……
その道が、どれほど険しかったかを思えば……」
拳を握るキールの肩が、小さく震えていた。
「……まぁ、これからの苦労はもっと厳しいだろうけどな」
ユキが最後の一匹を倒し、炎が消えると同時に、その小さな体は力尽きるように崩れ落ちた。
⸻
《???》
「おいおいおい……見ろよ、エミ!ツクヨミじゃねぇか!」
「……ほんとだ」
暗がりから現れた二つの影が、ニヤつきながらその名を呼んだ。
「……何だ、君たちか」
「『何だ君たちか』じゃねーだろ、フヒャヒャ!
おいおい、あの高貴な夜の神様が人間の武器なんかに【神聖】してるとか、笑わせんなよ!」
「『人間なんて愚かで興味ない』って言ってたのに……ね」
ツクヨミは面倒そうに眉をひそめる。
「うるさいな……そんなこと言うなら、君たちだってそうじゃないか」
「あ?お前知らねぇの?まぁ、興味もないだろうしなぁ」
「……ちっ」
「仕方ねぇから教えてやるよ。俺達を使ってるのは【神の使徒】だ。
てめぇみたいな神と違って、格が違うんだよ」
「ふーん?それで?」
「……『それで?』だと……殺すぞ」
「はぁ……君に合う主人なんて、どうせ碌でもないだろうに」
「……お前、今俺の主人を侮辱したな……」
「だから?」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて……」
「「ちっ」」
暗い空間に、剣呑な沈黙が落ちた。
「相変わらず、仲が悪い……」
「はん。こいつと仲良くなんて出来ないね」
「僕も同感だ」
そう言ってツクヨミは呟く__
「……どうせこの世界は『ピリオド』で滅ぶ……仲良くした所で__」