テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
何度も何度もナイフとフォークを落としては拾い、その繰り返しでゼンティの食事は全く進まない。
またしても落としてしまったフォークをゼンティが拾う前に、リィラがそれを片手で素早く拾う。
そして、もう片手の自分のナイフを加えてゼンティの皿のハンバーグを小さく切る。それをフォークで刺すとゼンティの口元に運ぶ。
「……ほら。ゼンティ、口を開けて」
ゼンティは赤い瞳を丸くして驚いた顔を向けたが、すぐに嬉しそうにして口を開けた。
リィラにハンバーグを切って食べさせてもらう姿はまるで子供だが、ゼンティが嬉しそうなのはそれだけはない。
「ふふ、やっと僕を名前で呼んでくれたね」
獣魔のくせに、そんな些細な事で嬉しそうな顔をするのが意外で……センティを殺された憎しみすらも霞んでいく気がした。
やっとゼンティに全ての食事を食べさせ終えると、リィラはほっとして息を吐く。全く世話の焼ける王だ。
なんで自分はゼンティの餌になったり食事を食べさせてあげているのか。そんな事を考えていたら、なぜか足元がくすぐったい。
テーブルの下を覗くと、黒くてフワフワした小さな生き物が足に顔をすりつけていた。
「えっ……子犬!?」
リィラが驚いて声を上げる。その声に反応してゼンティもテーブルの下に目を向ける。
「あぁ、可愛いでしょ? 抱いても大丈夫だよ。この子は優しいし毒に強いから」
この城で飼っている子犬だろうか。リィラが抱き上げて膝の上に乗せると、ぬいぐるみのようで確かに可愛い。
真っ黒で艶のいい毛並みと丸い顔、赤い瞳。膝の上で二本足で立ち、リィラが顔を近付けるとペロペロと頬を舐めてくる。
「ふふっ……可愛い」
「あ! リィラちゃんが笑った! 可愛い!」
リィラは子犬を可愛がり、ゼンティはリィラを可愛がっている。毒を持つリィラは動物とも触れ合った事がないので、つい気が緩んでしまった。
ついには子犬がリィラの唇を舐め始めたので、妬いたのかゼンティが膨れた。
「こら! 美味しそうだからって味見しすぎだよ! ほら、アレンの所に行きな」
ゼンティが少し離れた席に座るアレンの方を指差すと、子犬は素直にリィラの膝から飛び降りた。
そしてアレンの所まで駆けていくと、今度はアレンの膝の上にピョンと飛び乗った。子犬はアレンにかなり懐いている。
そんな微笑ましいシーンを見たリィラの心は温まり、表情も氷が溶けたように柔らかくなる。
「可愛い子犬……ゼンティのペットなの?」
「子犬じゃないよ、魔物だよ。僕の妹」
「え……妹?」
何の冗談だろうかと思ったが、ゼンティの顔を見ると嘘を言ってるようには見えない。
「獣魔族は生まれてから成人するまでは獣の姿なんだよ」
そういえば、さっきアレンも教えてくれた事だった。
さらにゼンティが説明を加えてくれた。このベスティア王国に住むのは成人した獣魔のみだが、王族は例外であると。
成人前の獣魔は、野生の魔物として森に生息しているという。いずれ全ての獣魔族に人間の体を入手させて王国に迎え入れるのが目標らしい。
……つまり、そのために人間を捕食するわけで、それだけの犠牲者が出る事になる。
そんなリィラの心も知らず、妹の姿を見つめるゼンティの優しげな瞳は兄の顔だ。
「子犬みたいに見えるけどね、あの子はもうすぐ成人するレディだよ」
「……妹さんの名前は?」
「成人前だから、まだない。リィラちゃんが仮の名前を付けていいよ」
これもアレンが言っていた。成人したら人間を捕食して、その人間の『体と名前』を得るのだと。
しかし突然、名前を決めてもいいと言われても困る。呼び名がないのは確かに不便だが、お姫様の命名は責任重大だ。
真剣に考えて黙り込んでいると、静まり返る食堂の中で子犬に話しかけるアレンの声だけが小さく聞こえてきた。
「姫様、あちらの女性はゼンティ様専用の嗜好品です。味見してはいけません」
話の内容はともかく、アレンは子犬と会話ができるらしい。魔物どうしだから当然かもしれない。
「アレンさんは姫様って呼んでるから、名前はヒメで……どうかな」
リィラの安直な案だったが、これならアレンも呼び方を変えずに済む。
意外とゼンティはその名が気に入ったようで、素直に喜んでいる。
「いいね、それ! 可愛い! 妹の名前はヒメにするよ!」
もはやゼンティが可愛い。本当に彼も魔物なのだろうか。
夕食が終わるとリィラは大浴場に連れて行かれて、3人のメイドたちの手によって綺麗に全身を洗われた。
入浴が終わると寝間着を着せられて、そのままゼンティの自室へと連れていかれた。
この流れは……どう考えてもアレだった。
「待ってたよ、リィラちゃん。ふふ、綺麗になったね」
銀色のキングザイズのベッドに敷かれた純白のシーツの上で、ゼンティは肘をついて寝ながら微笑んでいる。
真っ白なシャツの前ボタンをいくつか外した胸元の色気も含め、彼の全てが息を呑むほどに美しい。
だが、リィラはゼンティのベッドの前に立ち尽くして両手の拳を握りしめている。
「なんか、全身を綺麗に洗われて……こんな服着せられて……なんなの?」
リィラが着ている寝間着は純白のキャミソールワンピースで、肩から胸元までの肌を露出している。しかも薄いシルク素材で下着と変わらない。
これは、どう考えても夜伽。ご奉仕しろという事だろう。
「僕とお揃いで白が似合うね。リィラちゃんの紫の髪がよく映える。綺麗だよ」
この魔物は家畜にも口説くのだろうか。センティの人格と笑顔を駆使するのは卑怯だとリィラは強く思う。
「さぁ、僕のリィラちゃん。美味しく食べてあげるから、こっちにおいで」
それはどっちの意味なのだろうか。単純に餌として食べられると分かっていても、どこか淡い期待をしてしまうのが悲しい。
赤い瞳の魔力に吸い寄せられるようにしてベッドに近付けば、すぐに片腕を掴まれて強引に引き寄せられる。
バランスを崩してゼンティの正面に倒れこむと、すかさず口に封をされてしまう。
「んっ……ふ……」
昼間と同じ感覚。ゼンティに口内を荒らされて、唾液と体内の毒素を吸い上げられていく。
抵抗しても無駄だから、せめて現実から目を逸らそうとして目を閉じるが、余計に水音と吐息と唇の熱を感じてしまう。
この行為に依存性でもあるのか、リィラの身体は二度目にして彼の吸引に嫌悪を感じなくなった。
「……ごちそうさま。美味しかったよ。リィラちゃんの味は最高だね」
いつ唇が離されたのか気付かなかったくらいに、リィラもゼンティの味に夢中になっていた。その事に気付いて頬を赤らめた時には、もう遅い。
ゼンティは自身の唇を指先で軽く拭うと、リィラの体を背中からベッドに押し倒した。彼の力が強いのではない。毒を奪われた直後のリィラは体に力が入らない。
「さ、ここからが本番。この体に慣れてないけど、なるべく優しくするからね」
優しく微笑みながら、ゼンティは野生的な赤の瞳でリィラの体すらも捕食しようとしている。
……センティの命を奪われて、自由を奪われて、毒を奪われて。なぜ、憎い魔物に純潔まで奪われるのだろうか。
今日は一度に多くの事が起こりすぎて頭の整理なんてできない。なのに、ゼンティの魔力に支配されたのか嫌悪感だけはない。
戸惑いと恐怖で毒の涙を流せば、それは格好の餌食となってゼンティの舌で舐め取られる。
「あぁ、美味しい。リィラちゃんの体はもっと美味しいだろうね」
花の蜜を吸うように、甘く激しく味わいながら。
今宵、獣魔王ゼンティは、リィラという純潔の花を貪るようにして食らい尽くす。