🖤蓮side
💚涼太とね
🖤うん?
💚別れようと思うんだ
🖤え?
阿部ちゃんはうつむく。
間接照明しかないような薄暗い個室で表情がよく見えないが、とても悲しそうなのはわかった。
💚目黒と二人で頑張ろうって言ったのに……ごめんね?
言葉が出ない。
俺は黙っていた。
💚涼太は、すごく俺を大事にしてくれるの。
……でもそれが辛いの…
我慢できなくなったのか、とうとう阿部ちゃんは肩を震わせて泣き出した。
阿部ちゃんの肩を抱く。
ハンカチを渡す。
阿部ちゃんは受け取って、目頭を押さえる。
涙が後から後から溢れてくる。
嗚咽でしばらく話すこともできない。
俺は黙って待った。
少ししてから
ぽつり、ぽつりと阿部ちゃんが話し始めた。
💚亮平side
涼太が初めてうちに泊まってくれると言ったあの日。
俺が泊まるように我儘を言ったのは、翔太からのLINEを見てしまったから。
涼太が本当に自分のものか確かめたくて、いつも優しい涼太に甘えた。
涼太は拒絶せずに受け入れてくれたけど、俺は逆に怖くなってしまった。
💚ほんとに、いいの?
❤️いいよ
💚俺が泊まって、って言ったから泊まるんじゃないの?
❤️……
💚ねえ涼太。ちゃんと俺を見てる?
❤️見てる
💚嘘
❤️見てるよ
💚翔太のことが好きなんじゃないの?
言った。
とうとう言ってしまった。
絶対に言うまいと思っていたこと。
涼太は答えない。
話題が変わるのを待ってるのだと思った。
本当にずるい…。
❤️阿部の気持ちに応えたいと思ってる
💚付き合おうって言ったのは涼太だったよね?
❤️阿部を好きになりたい
💚俺は翔太の代わりじゃない!!!
感情が高ぶり、つい大きな声が出てしまう。
涼太はとうとう黙ってしまった。
悲しそうに俺を見ているだけだ。
俺は泣いた。
💚帰って
❤️阿部…
💚お願いだから、今夜はもう帰って
そう言って泣きじゃくる俺を前に、オロオロとしているだけの涼太。
ざまあみろ。
もっともっとうろたえればいいんだ。
悲しくて悔しくて、でも一番は寂しくて、そんな俺の気持ちもわからないくせに。
涼太はしばらく困っていたが、俺があまりにも帰れと言うので、仕方なく出て行った。
❤️また連絡する
…パタン🚪
これがあの日のすべて。
俺は自分で何もかもぐちゃぐちゃにしてしまった。
涼太のことを信じられないのに、涼太の隣りにいるのは辛かった。
涼太のひとつひとつに、自分が一番じゃないことを感じることが悲しかった。
涼太といるのに、ずっと一人みたいで寂しかった。
俺のそんな失恋話を目黒が黙って優しく聞いてくれている。
何も口を挟まずに、誰よりも親身になって。
今は目黒の存在が、ただありがたかった。
❤️涼太side
阿部とはあれから連絡を取っていない。
阿部の言ったことが全て図星だったから。
でも
阿部の気持ちに応えたい気持ちも紛れもない本心だったと思う。
翔太を忘れようとしたこの数週間。
俺は阿部の優しさに、健気さに、何度も救われてきた。
一緒にいると本当に安らぐと思った。
翔太といると、強く激しい感情が毎秒襲ってきて、時に苦しかった。
冷たい態度を取られたかと思うと、急にあっけらかんとしていたりするのが日常で。
翔太の思わせぶりな態度に何度も期待しては失望するの繰り返し。
思い返せば、俺の人生は翔太に振り回されっぱなしだったように思う。
しかし阿部は違った。
阿部といると、俺はずっと穏やかにいられた。
安心して二人で過ごすことができた。
陽だまりのように、阿部はずっとニコニコしてくれていたから。
それなのに、なぜ翔太のことを思い出してしまうのか自分でもわからない。まるで仕組まれた運命のように、あの美しい幼なじみからどうしても目が離せないのだ。
エレベーターの前で翔太に呼び止められた時には、正直胸が躍った。
自分だけを見ている愛する人の視線に、愚かにも内心喜んでしまう自分がいた。
だからもう本当に終わりにしようと思った。
もう苦しむのはやめよう。
そして何より阿部のひたむきな気持ちを裏切りたくなかった。
❤️その結果がこれか…
あれから阿部に何度かLINEを送っているが、既読すらつかない。
ブロックされてるのかもしれなかった。
かといって電話を掛ける勇気も出ない。
声を聞いてまた泣かれてしまったら、もう本当に終わりのような気がした。
未練がましく阿部とのトーク画面を開く。
自分の送ったメッセージに未だ既読がついてないことに落胆していると、思いがけず携帯が震えた。
たまたま携帯をいじっていたので、そのまま電話に出てしまった。
翔太だった。
💙涼太、話がある
❤️俺にはない
切ろうとすると、
💙今、お前んちの前にいる。降りて来い。来るまで待ってるから。
それだけ言うと、翔太の方から電話を切ってしまった。
夜も深い時間、外は氷点下に近い寒い日。
家の前まで来ていると言うのには驚いたが、そのうち痺れを切らして帰るだろう。
俺は携帯をテーブルに置いて、棚からウイスキーを取り出した。
明け方になっても全く酔えずに、何本瓶を空にしたかわからない。
そろそろ日が上る頃だろうか。
あれから携帯は鳴ってない。
阿部からも翔太からもその後連絡はなかった。
俺は期待せずにカーテンを開けて外を見た。
❤️翔太…?
薄暗い街灯の下で、見慣れたシルエットが見える。
その人影は、ずっとそこにいたようだった。
寒いのだろう、時々上着の襟を立てて、首を押さえている。
俺は部屋を出た。
❤️何してんの
💙おお、やっと出てきたか
翔太の歯がガタガタいっているのがわかる。
笑おうとしているが、顔が引き攣っていた。
❤️風邪引くよ?
💙もう引いたかも。すげー寒い。
翔太は鼻を啜った。
❤️バカなの?
💙そうかもな
沈黙。
❤️何しにきたの?
💙お前に、話、聞いてもらおうと思って
❤️目黒と付き合い始めたことなら知って…
言いかけると、
💙いやお前それ違うから!
と翔太が全否定した。
💙付き合ってねーし、付き合う予定もねーわ
❤️……
💙俺の話をちゃんと聞け
❤️目黒とキスしてただろう
💙あれはめめが勝手にしてきたんだよ。めめからなんて聞いたか知らねーけど!
❤️は…?
キスが衝撃的すぎて、前後のことはよく覚えていなかった。
翔太は順を追って説明した。
💙…だからめめとは何にもないの!
本当だろうか?
あの後も親密そうにしていたが…
そんな俺の気持ちを翔太はあっさり見破る。
💙お前、疑ってるな?
💙俺とめめはただの友達だよ。恋愛感情は持ってない。だから、キスがバレたのは恥ずかしかったけど、後ろめたい気持ちなんてこれっぽっちもない!
翔太は真剣に言う。
そして一呼吸置いた。
💙で。本題はこれからなんだけど…
翔太は乾いた唇を舐めて、言いにくそうに俺を見る。
💙阿部ちゃんと涼太のことはもちろん知ってるし、邪魔するつもりもない。
でも、ひとつだけお前に聞いてほしいことがある。
翔太の緊張が伝わって来る。
こんなにまっすぐに目が合ったのはいつ以来だろう。
翔太は続けた。
💙俺、お前が好きみたいだ
聞き間違い?
❤️なに、言ってんの…?
💙だから、俺、知らない間に涼太のこと好きになってたみたいだ
❤️本当?
💙本当…って、あっ!!!
思わず抱き締める。
翔太は苦しくてもがいている。
でも力は抜いてやらない。
嬉しくて嬉しくて、それどころじゃなかった。
欲しくて欲しくて堪らなかったものが、今こうして手元に返ってきたのだから。
💙くる…しいって!
❤️翔太
💙なんだよ?
❤️俺のほうが、ずっと好きだよ…
俺はそのまま唇を重ねようとするが、 翔太は激しく抵抗した。
力いっぱい殴ってきたので、猫パンチでもまあまあ痛かった。
💙バカ!やめろ!!!
❤️…何で拒むの?
💙阿部ちゃんに悪い!てか、見損なった!お前、浮気とかするやつだったのか!
❤️……浮気じゃない……
💙?
❤️ちゃんと話す。とにかく家に入ろう。
日が上り、明るくなって、少しずつ人が通るようになってきた。
抱き締めた翔太の身体も氷のように冷たい。
俺は家に翔太を招き入れた。
そして俺は、今までのことを正直に話した。
💙バカなの!?
翔太は思いっきり俺を罵倒する。
💙お前、わけわかんないことすんなよ!!!
❤️ごめん
💙ごめんじゃねーよ、俺に謝るな。
❤️でも、翔太を失ったらもう生きていく意味がないから…
💙…まったく。呆れるわ、お前ってやつは。
憎まれ口を叩きながらも、翔太の顔が耳まで赤くなっている。
照れているのがわかって可愛い。
💙阿部ちゃんとのことはお前がちゃんとケリをつけろ。さもないと、もうお前とは口をきいてやらない。
❤️翔太…
💙ちゃんとしてきたら、その時は考えてやる
❤️何を?
💙お前とのこと!
そうぶっきらぼうに言い捨てると、翔太は勝手に人のベッドに入って、布団を被った。
💙寝る!10時になったら起こせ!!
そして翔太はそのまま、本当に眠ってしまった。
疲れているのがわかった。
心なしか痩せた気もする。
阿部となんとかして話そう。
ずるいと言われても、罵られても、恨まれても、殴られても、俺は翔太を諦めきれない。
そのことが今、よくわかった。
二人きりの空間で、こんなに近くに、愛しい人がいる。
俺には過ぎた幸せだと思った。
大袈裟じゃなく、死んでもいいと思った。
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