テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「藤城くん? ……あ、違うの。私は!」 そう言葉を発したこいつは立ちあがろうとするが、体はついていかないのか膝から崩れ落ち、両手を床に付く。
「おいっ!」
椅子に座らせようとこいつの体を抱き抱えるが、その体は以前よりも明らかに軽く、俺は思わずこいつの顔を見上げてしまった。
目が合った途端、こいつは俯いてしまい、両手の平で目元を抑え、肩を震わせる。
「と、とりあえず横になった方が良いから。看護師さんを呼んでくるから、待てるか?」
「だ、大丈夫! 歩ける……よ」
言葉とは反対に、はぁ、はぁ、と息を切らせ、俺を止めるために掴んでる手は力が全然入っていない。
その姿に嫌でも察しちまう。もう体は限界なのだと。
「……っ、未来!」
その声と共に、こっちに向かって駆け寄ってくる女性。挨拶などしなくても分かる、こいつの母親だろう。
こちらに顔を向けたかと思えば、潤んだ目を逸らし、俺にこいつを頼むと言い残し看護師さんを呼びに行ってくれた。
俺が何も出来ない中で、手慣れたようにあいつ血圧や意識を確認する看護師さんにより、少し休んだ方が良いとあいつは車椅子に乗せられ、部屋に戻って行った。
「す、すみませんでした。俺のせいです。未来……さんに、急に会いにきたから……驚かせてしまって……」
あいつを看護師さんに託した母親はこの場に残り、ただ俺を見据えている。
そんな母親に俺はひたすらに頭を下げ、ただ謝ることしか出来ない。
……なにやってんだよ、俺は!
自分の感情のままあいつの元に現れて、驚かせて、取り乱させて。
本当に俺って奴は!
どれほど罵声を浴びせられても仕方がないと身構えたが、返ってきた言葉は意外なものだった。
「もしかして、藤城くん、ですか?」
「……え? あ、はい」
どうしてあいつの母親が俺を知っているのか分からねぇが、その目には涙が溢れていて、「来てくれてありがとう」と声を震わせていた。
俺がこの病院に来たということは……と、あいつがひたすらに隠してきたことを話してくれ、全てを知った。
コンコンコン。
数時間後、俺は教えてもらった病室をノックする。
「はい」という返事にそっとドアを開けると、そこには毛糸の帽子ではなく、肩までの髪にピンクのカーデガンを羽織り、ベッドのギャッジを上げてもらい、そこに保たれるこいつの姿があった。
先程までの真っ青な頬や唇には赤みがあり、キラキラ輝いていることから化粧をしたのだと見て取れる。
そんな姿にドクンドクンと高鳴る心臓は、何でだか分かんねぇけど心地よく感じちまう。
全くよ、なんだよこのへっぽこな心臓は。
「あ、座って」
指差された付き添い用の椅子に座ると距離は一気に近まって目線が同じになり、こいつはやたら手をもじもじと動かして、目の焦点が合わずキョロキョロしてやがる。
そんな姿に俺の心臓は、より一層鼓動を速めてきて、うるせぇの何のって。
ずっとこいつを探していたのに、どうしても会いたくて走って来たのに。いざ対面できちまったら、俺は何も口にできねぇ。
胸が詰まってしまって、頭の中がまとまらなくて、情けねぇぐらいに目も喉も痛くて。
やっぱ、こいつも同じなのか、目を泳がせて、唇を噛んで、ふぅっと息を吐いて俯いちまった。
突然、誰に何も言わずに消えてしまったこいつ。
ツレにも別れも告げず、よほどの覚悟だったのだろう。
俺の顔を見た途端に泣き出して、こいつが必死で作ったであろう防波堤を一気にぶっ壊して、より傷付けてしまった。
ダメだ、頭の中が整理できねぇ。
謝りてぇことが多すぎて、話したいことがありすぎて、聞きたいことがありすぎて、こいつのこの先が知りたくて。
頭の中がパンクしそうだ。
「こんな俺にも、親友と呼べる奴が一人だけいた」
「字が書ける頃から、物語を自由帳に書いててなぁ。もう、楽しくて仕方がなかった。ま、それを知ったクラスのやつらには笑われたがな」
「だけどアイツ……、達也だけは笑わないと言ってくれた。僕も、書いてるって」
頭に溜まった言葉を抜こうと口から出していくと、あまりにもくだらねぇ昔話が出てきやがった。
具合が悪いこいつの時間を消費してはいけねぇと口に手をやりると、「藤城くんの思った通りに話して」と言ってきやがって、俺の痛すぎる物語を話していく。
感情のまま論点もなく、ただ思ったままに。
だがこいつは、一つ一つに頷いて話を聞いていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
1,649
664