TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

トリカブト

一覧ページ

「トリカブト」のメインビジュアル

トリカブト

11 - 第11話 「勇魚」

♥

3

2023年02月12日

シェアするシェアする
報告する

1.平和

「あ゙ー…海行きてぇ…」

「いや唐突すぎん?」

院瀬見が椅子に腰掛けながら全力でふん反り返る。背中がボキボキ鳴る音がする。今日は比較的悪魔が少ないので、院瀬見とリヅの2人は報告書をまとめていた。

「いや、だって最近どこも出かけてねぇじゃん…有給もまだ使ってねぇしよ……なぁリヅこれやってくんねぇ?」

「─って今までに言われてきたもんを今全部やっとるとこなんやけど」

リヅがため息を吐く。リヅのデスクは院瀬見の真後ろにある。

「そう言えばオオカミ様、あの後どうなったん?」

コーヒーの缶を上に投げてはキャッチを繰り返す院瀬見に聞く。飲みすぎや、寝られへんくなるで、とリヅが呟く。

「すっかり良くなってたよ。今は自分の森で寝てんじゃねーの?」

「そですか…良かった」

院瀬見とリヅは再びパソコンへと向かった。

2.なにかの予感

「よっし終わりー!休憩休憩!」

院瀬見が思いっきり伸びをした。再び背中がボキボキ鳴る。院瀬見はコーヒーの缶を捨てにゴミ箱のある廊下へ出た。

「院瀬見」

誰かに呼ばれたような気がして振り返る。そこには天使の悪魔との任務帰りの早川がいた。

「よォ、私のゴーストを殺しやがった早川くん」

「蛇女の手先になってたんだぞ?ゴーストが死ぬのと俺が死ぬのどっちがいい?」

「お前」

「おい」

早川の眉間にシワが寄った。天使が様子を見に来たリヅにペコス、と頭を下げる。

「さっきマキマさんが探してたから行った方がいいぞ。華も一緒にって」

「僕も?」

顔だけ廊下に出しているリヅが自分を指さす。なんの話だろうか。

「マキマの呼び出しとありゃしゃーねーな。リヅ、行くぞ」

二人はマキマの部屋へと向かった。

3.バディ登場?

コンコン、と扉をノックする。

「どうぞ」

「「失礼します」」

院瀬見、リヅが同時に部屋に入る。マキマは座ったまま二人を見上げた。

「急に呼び出してごめんね。大事な話があったからさ」

「大事な話…ですか」

リヅがそのまま聞き返す。マキマが静かに頷く。

「単刀直入に言うね。紹介したい子がいるんだ。入って」

二人の後ろにある扉がガチャ、と開く。そして、足音が止まった。

「おま…!!」

院瀬見はその顔に見覚えがあった。

「そう、今日から新しく仲間になった海ちゃんです。仲良くしてあげてね」

それは、前にリヅが倒した深海の悪魔─海だった。

3.勇魚

「いやいやいや…え?え?」

院瀬見は訳が分からずに驚く。リヅも黙ってはいるが、明らかに驚いた顔をしている。

「正確に言えば今はもう海ちゃんじゃないね。今の名前は”イサナ”。だからそう呼んであげて」

「イサナ…」

海…イサナは静かに頭を下げた。

「あと、これから院瀬見ちゃんとリヅちゃんにはイサナちゃん合わせて”トリプルバディ”になってもらうことが決まりました」

「…はい?」

院瀬見が素っ頓狂な声を上げた。院瀬見とリヅは教育する側とされる側の関係であって、決してバディではなかったはずだ。

「…いつからこんな奴とバディに?」

リヅが院瀬見を指さして聞いた。

「誰が”こんな奴”だテメェ」

院瀬見はリヅを横目で睨みつける。

「リヅちゃんは多くの功績を残しているし、もう教育係は必要ないかなって」

「はぁ…」

院瀬見は理解も納得もできないようだ。自分はマキマに「多くの功績を残している」なんて言われたことがない。

「任務のときは海…イサナと一緒に行かなくちゃならないんですか?」

リヅがイサナの両肩に手を置き、標準語で聞く。リヅは上司であるマキマの前では関西弁ではなく、標準語で話す特徴がある。

「そうだね。厳密に言うと院瀬見ちゃんとリヅちゃんがイサナちゃんの教育係になるって感じかな」

マキマが人差し指を立てる。イサナは2人の後ろでキョトンとしている。

「じゃあ早速だけど、ここの廃墟に悪魔が住み着いてるらしいから、イサナちゃんと行ってきて」

マキマは手元に置いてあった地図を指さす。

院瀬見、リヅ、イサナは部屋を出ていった。

4.テスト

「海、僕のこと…覚えてへんか?」

任務地に向かう途中、リヅはずっとイサナに話しかけている。

「そいつもう海じゃねぇからな」

「分かっとるわアホ」

イサナと自分との対応の落差が酷い、と院瀬見は思った。ちょっと悲しい。

「はぁ…さすがに覚えてへんよな…」

「逆に記憶ある方が珍しいからな。しゃーねぇ。そいつはもう海じゃなくてイサナなんだ」

「じゃあなんで姿は変わってないん?」

リヅが少しムッとしたように振り向いた。確かにリヅの言う通り、イサナの姿形は全くもって変わってない。黒髪のショートヘア、長い前髪、深緑と青のオッドアイもホクロも。本当に何一つ変わっていないのだ。

「…コイツ全然喋んねぇじゃん…」

「なぁ海…ホンマになんも覚えてへんか…?」

リヅがまた大きなため息を着いた。その時。

「…ハナちゃん」

「─!?」

イサナが喋った。突然に、なんの前触れもなく、リヅの名を呼んだ。

「海…!!」

「うみ…?」

「…ん?」

リヅは抱き締めようとした手を止めた。

「うみって誰?」

「わーお」

院瀬見が真顔でリアクションをする。リヅは少し残念そうな顔をした。

「そうか…そら前世の名前は覚えてへんわな…何だったら覚えてんねや?」

イサナは少し考えて、それからゆっくりと指をさした。

「え…!」

指をさした先にいたのはリヅだった。前世でもリヅのことを覚えていたイサナだ。今回でも覚えているのだろう。リヅは嬉しくなって堪らず抱きついた。

「海〜!!」

「うみってだれ…」

抱きしめられながらイサナは呟いた。

「イチャコラすんな悪魔ども。着いたぞ」

着いた先には、恐ろしく暗い廃墟があった─。

loading

この作品はいかがでしたか?

3

コメント

3

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚