テラーノベル
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「セフレにならなってあげる」
思ってもなかった言葉が出てきて、ぱかんと開いた口が暫く閉じなかった。
そんなタイミングで、「おはよー」という声と共に楽屋の扉が開いたもんだから、何がなんだかわからないまま反射的に立ち上がった。
そんなオレの腕を掴んで引き寄せた彼は、
「終わったら待ってて」
そう耳元で囁いて、
「おはよう、阿部」
楽屋に入ってきた人物の元へと去っていった。
あの間のいろいろが頭の中をぐるぐるして、撮影の合間ただただあの言葉が反復していた。
セフレ…、せふれ?
せふれって、なんだっけ?
あれだよね?身体の関係だけの友達…
…舘さんと?
セフレ……?
それって、抱いていいってこと?
キスだけじゃなくて、あんなこととか、あんなとこまで……
いや、したいけども!
セフレとしてじゃなくてさ、オレがしたいのは……
「ラウール?どうした?」
低音ボイスでハッとする。
めめが心配そうにオレの顔を覗き込んでいた。
「めめっ!え、何?」
「今日はやけに静かだから、何かあったのかと思って」
「そう?オレだって、静かなときくらいあるよ!」
「…何かあった?」
兄のように慕っているめめには何か見透かされているようで、必死に誤魔化した。
「ううん!何も?むしろ絶好調!」
ーーー絶好調なのは本当。
「……………お前嘘が下手なんだから、ムリするなよ?」
「嘘ついてないし!」
「……まぁ、いいけど。いつでも相談乗るから」
「ありがと、めめ」
相談したいのは山々だけど、できるわけないじゃん、こんな話……
ーー終わったら待ってて
…撮影終わったらってことだよね…?
何があるんだろう?
何にしても、話が途中になっていることに変わりはないから、納得できるまで話はしたい。
不安と妙な期待感でドキドキしながら、撮影は続いた。
「お疲れっしたー」
「おー!おつかれ〜」「早ぁ!」「お疲れさまー」
撮影も無事終わり、相変わらず楽屋を出るのが早いしょっぴーを皆で見送る。
舘さんは…やっぱり遅くて、これまたおっそいめめと何やら楽しそうに話しながらメイクを落としている。
2人だけの時間軸を生きてんのか?
ぼやっとしてたオレですらほとんど帰り支度済んでるのに…。
待っててって言った割に急ぐことはしないんだね。うん、舘さんらしいよね。
2人の様子をじっと見てたら、鏡を通して舘さんと目が合った。
ドキリとしてオレが目を逸らすと、振り向いて
「ごめんね、ラウール。もう少し待ってて」
笑顔で平然とそんなふうに言うんだから…
ギャップっていうの?あの時は確かに色気が含まれてたのに、今はただメンバーと話すテンションで、これまでのオレが知ってる舘さんだ。
「うん。なるはやで頼むよー」
オレもなるべく今まで通りを装って返事をした。
舘さんの隣でオレたちの様子を見ていためめが、少し驚いた顔して舘さんに話しかける。
「…2人でどこか行くんすか?」
「うん、ちょっとね。一緒にご飯行こうって約束してて」
ん?ご飯?
めめにはそういう体で通すのか
「え、いいなぁ。俺も行きたい…」
「ふふっ。目黒はまた今度一緒に行こうね」
「絶対すよ?久しぶりに舘さんと飲みてぇ〜」
「いいねぇ。そういえば、最近できた店でさ…」
おいおい、また2人の世界かよ!
あの2人の空間は外界とシャットアウトされるのか?
それに…なんか、この2人が一緒にいると、その落ち着いた雰囲気のせいか『大人』って感じの空気纏ってて…
悔しいけどかっこよくて、モヤモヤするけど憧れる。
………っもう!
「お腹空いたからなるはやでー!!」
「あ、ごめん笑」
「ラウールうるさい」
気付いたら、楽屋はオレら3人だけになっていた。
「じゃあ、お疲れさまっした」
あれからどんだけ経ったかもう時間すら見てないけど、漸くめめが支度を終えて楽屋を出た。
「「おつかれー」」
いや、マジで疲れた…。
「…俺たちも行こうか」
めめを見送った声より少し低めのトーンで、僅かな笑みを浮かべた舘さんに促される。
「あ…、うん」
行こうって、どこへ…
いきなりホテルとかないよね?
え、でもそうなったらどうしよう…
心の準備が……
「何緊張してんの?」
「いや、別に…」
「ふふっ。個室の店予約しておいたから、ご飯行こ。そこなら、ゆっくり話せるから」
良かったーーっ!
ご飯だー!
めめにそういう体で言っただけだと思ってたら本当にご飯だったー!
安心したらめちゃくちゃお腹空いてきた…
こういうとこが、オレまだまだ子供だなぁって、ちょっと悔しくなる。
舘さんに連れられて入ったのは、しっとりと落ち着いた雰囲気の、まさに大人の隠れ家的な佇まいの店。
プライバシーが完全に保護された個室も落ち着いてて、ここなら確かにゆっくり話ができそう。
提供されてる料理はそんなにかしこまったものばかりではなく、おつまみからがっつり系まで様々だ。
「いい雰囲気の店だね」
「でしょ?アルコールの種類も豊富だし、料理も美味しいよ」
舘さんのお薦めの料理と、がっつり食べたかったからご飯ものと、飲み物はソフトドリンクを、舘さんはビールを注文した。
「飲まないの?」
「お酒飲むと、オレちゃんと話できなくなりそうだから、今日はやめとく」
「そっか」
ドリンクとお通しが運ばれてくると、控えめに乾杯してグラスに口を付ける。
舘さんは喉を鳴らしながらビールを呷ってた。
さすが酒豪。その飲みっぷりには惚れ惚れする。
暫くすると料理が運ばれてきて、美味しそうな匂いに鼻腔がくすぐられて、お腹がきゅうっと鳴いた。
「食べようか。お腹空いたでしょ?」
「うん。いただきますっ」
「いただきます」
料理はどれも美味しくて、今は食欲を満たすことに集中した。
ペコペコだったお腹もだいぶ満たされて落ち着いた頃、オレはあの話を持ち出した。
「あのさ、舘さん。楽屋での話なんだけど…」
「ん?」
「あのー、あれ…って、どういう意味?」
「ああ、セフレのこと?」
さらりと言っちゃうんだね…
まあ、そのことなんだけど。
「それ、どういう意味?オレとは、付き合えないけど、そういう関係ならいいってこと?」
「まあ、そうだね。言ったでしょ?特定の人、作りたくないって」
「……他にも、いるの?そういう人」
「今はいないよ。ご無沙汰って言ったでしょ」
今は。ってことは、前はいたんだ。
「ずっと、そんな感じで誰かと付き合ってんの?」
「そうね。恋人未満くらいが、メンタル的に楽だから…」
メンタル…?
「それって、過去に何かあったってことだよね?」
「……まあね。詳しくは言わないけど」
何があったのさ…
この人絶対言わないだろうな。わかってる、わかってたけど…
「誰かを好きになるのが怖い?」
「…これ以上詮索しないでくれる?」
その話題にストップをかける舘さんは、悲しそうな笑顔だった。
人には知られたくない過去があるのはわかる。
でも、その過去のせいで自分に嘘をつきながら傷付けて生きていくのは違うと思う。
忘れられないなら、忘れさせてくれる人を見つけるのもありなんじゃないの…?
オレが舘さんのそういう人になれるか分かんないけど…
でも…
「引いた?」
俯いて黙り込んでしまったオレを、舘さんの穏やかな声が顔を上げさせた。
「ううん」
思いっきり首を横に振る。
「…オレの気持ちは、変わってないから」
真っ直ぐ舘さんの目を見て言い放ったオレに、彼は小さく溜め息をついて、呆れたように吹き出した。
「何でそんなに俺に拘るかな?好意を寄せてるの知っててセフレになろうなんて提案するアラサーだよ?最低でしょ」
…何で、そんなに自分を傷付ける言い方するんだろう、この人は
「悪いことは言わないから、身を引いたほうがいいよ」
「人を好きって気持ちは、簡単には諦められないよ。例え絶対無理な状況になっても、それですぐに諦められるものじゃないでしょ?」
「……子供だね」
「悪かったね、子供で!でも、ちゃんと人を好きになれる、愛することができるよ、オレは」
「…何それ」
「セフレでも何でもいいよ。舘さんの傍に居られるなら、オレ何でもいい。でも!いつか絶対惚れさせる!!」
「……はあ?」
「オレとずっと一緒に居たいって、思えるくらい惚れさせる!他が見えなくなるくらい、オレしか見えなくなるくらい…舘さんの一番になってみせるからね!」
「想いが重いなぁ」
「セフレって複数作る?」
「は?いや、基本1人。そんなに相手できるほど暇じゃないし、取っ替え引っ替えなんて気持ち悪いから」
そこは恋人と変わんないスタンスなんだ。
やっぱり、好きになるのが怖いのかな…?
「オレが舘さん好きなのは構わないよね?」
「あんまり好ましくないけど…」
「舘さんが提案したんじゃん」
「そうだけどね…」
「じゃあ決まり!オレ舘さんのセフレになる!」
何の宣言だこれ…
朗らかに最低なこと口走ってるわ。
「はあぁ…。もう…。引くと思ったのに」
自分の思い通りにいかなかった舘さんは、大きく溜め息をついて頭を抱えた。
「残念だったね。オレ結構しつこいから、覚悟してね?」
「…そう。……わかった」
顔を上げた舘さんは、向かい合ったオレの手にそっと自分の手を重ねて視線を合わせた。
「じゃあこの後、俺の家来てくれる?」
重ねた手の指先が、オレの手の甲をするりと撫でる。
やらしい手つきに思わず息を呑んだ。
コメント
6件

恋愛に傷ついてちょっと自暴自棄気味な舘様はラウちゃんに堕ちるのか楽しみです🤭
ふわぁあ…♡/// 続きがすこぶる気になります✨✨

ほう!家に!