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その頃紗奈は…
マンションの部屋には、静かな時間が流れていた。
紗奈はリビングに一人で座っていた。
ふと立ち上がる。
「……何か、しなきゃ」
小さくつぶやく。
生活しなきゃいけない。
そう思って、紗奈はキッチンへ向かった。
冷蔵庫の前に立つ。
手を伸ばそうとした、その時だった。
手が小さく震えた。
「……あれ」
胸が苦しくなる。
息がうまく吸えない。
生活しなきゃ。
ちゃんと生きなきゃ。
そう考えた瞬間、頭の中がぐるぐるしてくる。
足元がふらついた。
「っ……」
紗奈はキッチンの台に手をついて、なんとか立っていた。
でも、体が動かない。
結局、何もできないままリビングに戻ってしまう。
ソファに座り込んだ。
「……だめだ」
小さくつぶやく。
まだ、普通に生活することすら怖かった。
紗奈は膝を抱える。
部屋は静かだった。
時計の音だけが聞こえる。
ふと、部屋を見回す。
ここは安全な場所のはずなのに
一人になると、胸の奥がざわざわする。
「……陽葵」
無意識に名前がこぼれた。
自分でも少し驚く。
陽葵がいるときは、少しだけ安心できる。
でも今はいない。
静かな部屋の中で、紗奈はただ時間が過ぎるのを待っていた。
早く帰ってきてほしい。
そう思ってしまう自分に、少し戸惑いながら。
紗奈はソファに座ったまま、じっとドアの方を見ていた。
「……だめだ」
紗奈は小さくつぶやいた。
まだ、普通に生活することすら怖かった。
夕方になって
玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー」
陽葵の声だった。
その声を聞いた瞬間、紗奈の肩の力が少し抜ける。
陽葵はリビングに入ってきて、紗奈の様子を見る。
「……紗奈?」
紗奈は少し困ったように笑った。
「ごめん……」
「ご飯、作ろうと思ったんだけど……」
言葉が途中で止まる。
陽葵はすぐに気づいた。
紗奈の少し震えている手に。
陽葵は優しく言った。
「もー」
少し笑いながら、頭を軽くかく。
「無理しちゃだめだよ」
陽葵はキッチンの方へ歩いていく。
「こういうのは俺がやるから」
冷蔵庫を開けながら言う。
「紗奈は、そこで座ってて」
その言い方は、特別なことじゃないみたいに自然だった。
紗奈はその様子を静かに見ていた。
キッチンから聞こえる、料理している音。
普通の生活の音。
不思議と、胸の苦しさが少しだけやわらいでいく。
紗奈はソファに座ったまま、小さくつぶやいた。
「……ありがとう」
陽葵はキッチンから答える。
「当たり前だよ!」
紗奈は少しだけ笑った。
部屋の中の空気は、さっきより少しだけあたたかくなっていた。
紗奈にとって、 ここは少しだけ居心地のいい場所になり始めていた。