テラーノベル
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#第6回テノコン
戦闘開始から既に20分が経過している。ポチの方は初撃を凌いで調子こいていた眼鏡を早々に仕留めて、応援に駆けつけてきたヒーローの相手をしている。
眼鏡の方は腹部に穴は空いているがまだ死んではいないようだな。あの手のタイプの敵は放っておくと後々、面倒になる傾向がある。早めに仕留めておきたいが、ポチの方は予測より早く到着したヒーローの相手で忙しい。
かくいう俺も太陽の相手をしているから、トドメを刺しにいく余裕はない。
これもまた想定外。
───俺の予想よりも太陽が強い。
あの眼鏡の発言が嘘でないのなら実戦経験は殆どない筈だ。事実、まだ動きになれていないのは戦っていると分かる。体の動かし方も、能力の使い方もぎこちない。だと言うのに俺と渡り合っている。
「バカげたセンスだな」
元々才能がある奴なのは知っている。特にスポーツ面ではどの部活に入っても活躍出来るスペックは持っていた。にも関わらず選んだ部活は吹奏楽部だったし仕事として選んだのは美容師だ。
いつも変な道ばかり歩む奴だった。
そんな奴だから、今こうして俺と戦う事になっている。
普通の選択肢をするような奴ならヒーローという道を選ばない。家族の事を思っても、恐怖が先に勝つ。普通じゃないから特別になれる。
そういう事だろ、太陽?
「『シャドウ•スピア』!!!」
やり投げのように背を大きく仰け反らせた後、右手に持つ黒い槍を俺目掛けて投擲する。威力、スピード、ともに申し分ない。当たりさえすれば怪人を倒すことが出来るだろう。
当たりさえすれば。
「また、躱されたやと!」
槍の軌道は線ではなく点だ。当たり判定は少なく、軌道も単調。投げる動作から既に軌道はある程度読める。どれだけ威力があろうと、どれだけ早かろうと、攻撃が単調ならば躱すのは容易い。
この辺も実戦経験の少なさが出ているな。地面に突き刺さった黒い槍を拾い、同じような動作で投げ返すが、当たる直前で霧散する。
「無駄や!俺の能力で作ったもんは俺の意識で消すことが可能や」
仮面のせいで表情は読めないが声の質から得意気になっているのが分かる。分かりやすく力に酔っているな。これもヒーロー歴が浅い者にはよくある事だ。
ヒーロースーツが齎す力は膨大だ。身体能力の向上だけではない、個々に持つ能力に特別感を得るヒーローは多いだろう。特に少年心を胸に秘めた太陽のような男の場合は、ヒーローに対する憧れからそれがより強く表に出る。
それが悪いとは言わない。自分が特別だと思えば思うほどその想いはヒーロー活動への活力になる。怪人と相対しても恐怖を抱かず、立ち向かう勇気となる。ヒーローに必要な感情だ。
───慢心、過信へと繋がらなければな。
他の怪人たちと同レベルだと相手を見くびって俺やボスに殺されたヒーローは山ほどいる。
───お前はどうだ、太陽?
大きく跳躍した太陽が、特撮で見たライダーのような蹴りを放ってきた。正直に言って避ける事は容易い。だが、ここはあえて受け止めよう。受け止めて、攻撃へと繋げる。
「なっ!!」
必殺技のつもりで放った太陽の蹴りを片手で受け止め、逃がさないように足を掴んでそのまま地面に叩き付ける。
「またか」
だが、手応えがない。見れば叩き付けた地面に体が沈んでいる。沼や水面、液体の中に沈むように地面の中───いや、影の中へと沈んで衝撃をいなしている。
───影を操る能力。
それが太陽のヒーローとしての能力。俺と太陽の影が不自然に浮き上がり、針のような鋭利な形に変化したと思うと一直線に俺へと迫ってくる。
掴んでいた太陽の足を離して、その場から距離を取るが影はどこまでも追いかけてくる。
「面倒だな」
逃げ切れないと判断して迫ってくる影を手刀でなぎ払えば、ガラスが割れるような音と共にいとも容易く砕け散る。
砕け散ったとはいえ、元は影だ。砕けた影はまた一つに混ざり合い、太陽の元へと戻っていく。
───本当に面倒な能力だ。
俺と太陽の戦いが長引いているのはこの能力を俺が攻略できていないからだ。太陽の能力は自身の影を操り、攻撃にも防御にも転換できる攻防一体の能力。
射程は太陽を中心に5メートルといったところか?意外と短いように思えるが、他の影と自分の影が重なる事で操れる範囲が変化するようだ。街灯の光によって建物の影が出来ているこの場では、操れる影はあまりに多い。
俺の視界の先で太陽が影の中へ潜ったのが確認出来た。一番厄介な能力はこれだ。回避や隠密に使えるのはもちろんだが、この能力は防御に使ってこそ輝く。
───太陽の能力は使い方によって性質が変化すると推測しており、攻撃に使う際は切れ味や破壊力が増す一方で耐久性が極端に下がる。
防御で使う場合は影に攻撃性能がなくなる代わりに、影に潜ったり、相手の攻撃を影で吸収することが出来る。
当たると確信した拳が影に吸収され、影の中へと沈んでいく感触があった。水や泥水を殴っている感触に近い。殴った勢いのまま、そのまま沈んでいく感覚だ。
「ん?」
足元の影が不自然に動いた。
異変に気付くと共にバックステップで後ろへと跳ぶ。次の瞬間には、先程まで俺がいた場所目掛けてアッパーカット狙う勢いで、太陽が飛び出てきた。
今のように影に潜って移動して、奇襲を仕掛ける。利便性の高い能力だ。
攻撃が躱される事に舌打ちをした太陽が、回避行動を取った俺を見据えて、構えると共に肉薄してきた。
「次は肉弾戦や!!」
言葉ではそんな事を抜かしているが、拳や蹴りと一緒に足元の影が動いている。体の動きだけでなく、影の動きにまで気を向けなければならない。本当に面倒な能力だ。
───ザザザザっと普段と違うノイズが頭の中に走る。ただの連絡ではない。緊急のものだな。
「こちらクロ、どうした?」
「避けながら話す余裕があるんか!ボケェ!!」
太陽の攻撃を躱しながらこめかみに人差し指と中指を添えて応答する。連絡の相手は予想通りマッドサイエンティストだ。
『作戦終了!作戦終了だぜ!素体は十分に揃ったのもあるから今すぐ帰還せよ』
「予定とは違うな、何があった?」
『ボスがヒーローにやられて敗走中だぜ!ボスの方に割いていたヒーロー共が駆け付けて来る前に撤収だよ』
どうやらボスが負けたらしい。前回と同じように数で押されたか?
「了解した。ウルフに連絡は?」
『既に入れてあるぜ!今回の作戦に使った怪人たちも続々と帰還してきてる。怪人全員の帰還を確認後、ウルフもアジトに帰る手筈だぜぃ』
「なら、ウルフの帰還を確認したらポチの首輪に付けている瞬間移動装置を遠隔で起動しろ。ポチが帰還したのを確認したら俺も続く」
『フォリ様に任せておきたまえ!それと助手君も早めに帰還しろよ。どうもボスを負かしたヒーローは例の『金ピカ』らしいぜ。来る前に逃げるが吉さ!』
───ザザッというノイズの音と共にマッドサイエンティストの声が途切れる。
状況報告で聞いていた限りでは今回の作戦で捕らえた囚人たちの数は271人。予定よりも少ないが、これ以上無理しては不要な犠牲が出るだけだな。
太陽の攻撃を躱しながらタイミングを待っていると、ヒーローと交戦していたポチの首輪が光り、一瞬にして姿が消えた。
俺やウルフと違い、ポチは瞬間移動装置を起動する事が出来ない。理由は単純で、使い方が分からないからだ。怪物へと変異したとはいえ、元はただの犬。覚えさせればいずれは使えるだろうが、現状ではまだ瞬間移動装置を1匹で使う事は出来ない。
俺やウルフが近くにいる時は構わないが、交戦等の理由で離れている際にポチだけを逃がす手段として、首輪に特注の瞬間移動装置が付けられている。マッドサイエンティストのパソコンのリンクしており、遠隔で起動できるという優れものだ。
「ここまでだな」
ポチが帰還したという事は、この島に残っている悪の組織の一員は誰一人いないという事だ。
今この場にいるのは俺と交戦している太陽と、応援に駆けつけてきたヒーロー共。マッドサイエンティストの報告に偽りがないなら、これから続々とヒーロー共が集まってくるだろう。
その中にはボスを負かした金色のヒーローがいる。もっとも、此処にやってくるのかどうかは疑問だがな。
何故だが知らないが、金色のヒーローはボスがいる現場にしか現れない。ボスだけを狙っている。
俺の勘でしかないが、金色のヒーローは最短で悪の組織を潰そうとしているんじゃないか?怪人をいくら倒そうと、ボスがいる限りいくらでも量産ができる。逆を言えば、ボスさえ倒してしまえばこの戦いに決着が訪れる。効率厨のようなヒーローだな。
心中で笑っていると、先程までポチと戦っていたヒーロー共が俺を囲んでいる。
「もう、お前に逃げ場はないぞ仮面の怪人!」
「そうだ!仲間もいない。一人で俺たちと戦うつもりか?」
太陽の攻撃を躱しながら数を数える。ざっくりとだが、30はいるな。太陽が俺の近くにいるからフレンドリーファイアを恐れて攻撃はしていないが、数を揃えた事で勝ちを確信しているようだ。
「もう終わりやで」
「そう思うか?」
太陽が影に潜ると共に、俺目掛けてヒーロー共が爆撃のような攻撃を開始する。炎、風の刃、電撃、爆撃、光線、水圧、様々な能力が俺を殺そうと迫ってくる。
包囲した上での一斉攻撃。勝ちを確信しているが故に、一箇所逃げ場を作ってしまっている。それが誘いの可能性もあるが、それならそれであえて乗ろう。
ヒーロー共の攻撃が当たる前に足に力を込めて垂直に飛び跳ねる。
ただの人間なら数メートル跳ぶのが限度だが、怪人である俺は数百メートルくらいは優に跳ぶ。
───ヒーロー共はこう言ったな。仲間はいない。お前は一人で戦うつもりかと?
今この島には怪人は俺一人。他はヒーローしかいない。善良な市民は全て避難済み。なら、別に構わないな。
普段は不要な破壊はしないように心掛けている。善良な市民に被害を与えたくない、それだけの理由で。
怪人として考えればあまりに甘い。
だが、それが唯一俺の中に残る人間としての善良。それを捨ててしまえば俺は本当の意味で人間ではなくなってしまう。
「死にたくないなら逃げる事だ。まぁ、声など聞こえていないだろうがな」
右腕に力を込める。
体の中を張り巡る『力』を一箇所に集める。
この『力』に名称はない。
言ってしまえばこの『力』は、怪人へと変異した事で手に入れた力の奔流そのもの。
───怪人細胞の力。
右腕を流れ右手の掌から押し出されるようにその『力』は放出され、俺のイメージ通りに球体としての形状を作る。
頭上へと掲げた球体の大きさは300メートルは超える。どす黒く禍々しさだけを兼ね備えた破壊の塊。
少年漫画の主人公が使う元気な玉とは真逆。ただ、壊す。ただ、殺す。それだけを突き詰めた殺意の結晶。
技名はない。
躊躇いもいらない。
太陽への別れを込めてこの一撃を放とう。
「さよならだ」
───アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ湾に浮かぶ小島。アルカトラズ島。
監獄島とも呼ばれたその島が37人のヒーローと共に、地図上から消失するという前代未聞の事件が起きた。
唯一の生き残りであった新人ヒーローの報告を受け、『ヴレイヴ』本部は『仮面の怪人』への方針を転換。
その危険性から悪の組織のボスと同格として扱うものとし、旧世界の英雄───『ワールド』に討伐を要請。
───承諾を確認。
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