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にこにこ
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yozakura🌸
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うわああああ第4話もエモすぎた〜〜!!😭💕💕 昨日の距離感から一転して、今日のルイの視線がもう…「見てた」「ちゃんと見てくれた」とか反則級にずるいよ!! タイキが「場所、変える」って自分から言い出したシーン、胸がぎゅってなった…照れ隠しで「腹減ってるだけ」って言うのも可愛すぎる🏃💥 最後の車内の空気、めっちゃ温かくてこのまま2人の時間が続いてほしい…!次の話も待ちきれないよ〜🌸✨
翌日の現場は、朝から慌ただしかった。
都内のスタジオ。
白い壁、組まれた照明、忙しなく行き交うスタッフ。
ケーブルの擦れる音、誰かが確認する声、遠くで鳴るヘアメイク道具の小さな金属音。
STARGLOWのメンバーはそれぞれ衣装を整えながら、撮影前の最終確認をしていた。
タイキは鏡の前で、ジャケットの襟元を軽く直す。
メイクはもう済んでいる。
髪も整っている。
外側は、ちゃんとしてる。
でも中身は、全然ちゃんとしていなかった。
昨夜のメッセージ。
ルイから来た謝罪。
優しい言葉。
あの短いやり取りが、まだ胸の奥に熱を残している。
『避けたいわけじゃなかった』
『普通に近くにいたら、俺の方が無理だった』
『ちゃんと伝えてくれてありがと』
たった数行なのに、何度思い出しても心臓に悪い。
「タイキ、次こっちでサイズ確認だって」
カノンに声をかけられて、タイキははっと顔を上げた。
「……あ、ごめん」
「聞いてなかった」
「珍し」
カノンは軽く笑う。
「今日ちょっとぼーっとしてる?」
「してねぇよ」
反射で返す。
けれど少し遅れた自覚があって、タイキは眉を寄せた。
「はいはい」
カノンはそれ以上突っ込まず、先にスタッフの方へ歩いていく。
助かった、と思う。
今は誰にも見抜かれたくなかった。
タイキもその後を追おうとして、ふと視界の端に見慣れた姿を捉えた。
ルイだった。
少し離れた場所。
スタッフと衣装の裾を確認しながら、何か短く会話をしている。
横顔はいつも通り落ち着いていて、表情も柔らかい。
仕事の顔だ。
それを見ただけで、タイキの喉が少しだけ渇く。
昨日みたいな張り詰めた距離は、もうない気がした。
でもだからといって、簡単に近づけるほど軽くもない。
ルイはスタッフに頷いて、ふと顔を上げた。
その瞬間。
視線が、合った。
「……っ」
ほんの一瞬。
なのにタイキの呼吸はそれだけで止まりかける。
昨日みたいな拒絶はなかった。
冷たさもない。
むしろ、少しだけ静かで、やわらかい。
大丈夫。
そう言われた気がした。
言葉はない。
ルイは何も言わないまま、ただ短くこちらを見て、ほんの少しだけ目元をゆるめた。
笑った、というほどでもない。
でもタイキには分かった。
昨日の夜、ちゃんと届いたんだ。
自分の返事も。
ルイの言葉も。
その確認みたいな視線だった。
タイキの胸がどくんと強く鳴る。
慌てて逸らそうとして、でも一拍遅れる。
遅れた自分に気づいた瞬間、余計にまずかった。
ルイの目が、ほんの少しだけ深くなる。
追ってはこない。
でも、外さない。
ステージの上で何度も感じたあの目と似てるのに、今日はもっと静かだった。
逃がしてる。
でも、気づいてる。
その温度が、たまらなくずるい。
「タイキー?」
遠くからゴイチの声が飛んできて、タイキはようやく我に返った。
「行くぞ」
「確認始まってる」
「あ、うん」
声が少し上ずる。
自分で分かるくらいだった。
ゴイチはそれ以上気にしていない様子で、先に歩いていく。
タイキは慌ててその後を追う。
けれど歩き出してからも、さっきの視線が頭から離れなかった。
昨日のスタジオでは、線を引かれた。
近づくなって、視線だけで止められた。
でも今日は違う。
近づいてこないのに、拒まれてもいない。
むしろ、そっと触れずに確かめてくるみたいな目だった。
あんな目、反則だろ……
タイキは内心でそう吐き捨てながら、立ち位置につく。
⸻
撮影が始まる。
最初はソロカット。
順番にライトの下へ入り、カメラ前で表情と動きを確認していく。
他のメンバーは少し離れた場所でモニターを見ながら待機していた。
タイキの番が回ってきて、照明の中心へ入る。
「じゃあ、最初は自然な感じでお願いします」
スタッフの声。
タイキは軽く頷いた。
仕事に入れば、身体は覚えてる。
角度も、表情の作り方も、魅せ方も。
でも今日は、その“仕事のモード”に入りきるまでに少し時間がかかった。
カメラの向こうに、ふと意識が逸れる。
待機スペースの方。
見なくていいのに、見てしまう。
ルイがいた。
他のメンバーと並んで、モニターを見ている。
何かカノンに言われて、少し笑っている。
それだけの光景なのに、タイキの胸がまた落ち着かなくなる。
「タイキ、目線もう少し上で」
スタッフに言われて、はっとする。
「すみません」
言いながら、呼吸を整える。
集中しろ。
仕事だ。
今はちゃんとやれ。
もう一度カメラを見る。
今度はちゃんと決まる。
視線を上げて、表情を作って、身体を流れに乗せる。
その感覚が戻ってきて、ようやく少しだけ落ち着いた。
カットがかかる。
「いいです、めっちゃいいです」
スタッフの声に、タイキは軽く頭を下げて照明の外へ出た。
その時だった。
モニターの前にいたルイが、ふっと顔を上げる。
また、目が合った。
今度はさっきより近い。
数メートル先。
スタッフもメンバーも周りにいる。
誰が見てもおかしくないタイミングなのに、タイキにはその一瞬だけ周りの音が遠くなった。
ルイは何も言わない。
でも、その目にははっきり“見てた”って書いてあった。
さっきのカット。
ちゃんと見ていた。
そしてたぶん、よかったと思ってる。
その目に、タイキの呼吸がまた乱れる。
次の瞬間、ルイの口元がほんの少しだけ動いた。
よかった。
たぶん、そう。
声は出ていない。
でもタイキにはそう読めた。
それだけで、胸の奥が熱くなる。
「……っ」
視線を外すのが遅れて、結局タイキの方が先に逸らした。
耳まで熱いのが自分でも分かる。
カノンが横からひょいと顔を出してくる。
「タイキ、次一緒に立ち位置確認だって」
「……顔、暑くない?」
「暑いに決まってんだろ、照明当たってたし」
少し早口で返すと、カノンは「ふーん」とだけ言って肩をすくめた。
それ以上は追及してこない。
助かった、と思うのと同時に、今の自分がだいぶ分かりやすいことにも気づいてしまって、タイキは小さく舌打ちしたくなった。
⸻
撮影はグループカットへ移る。
全員で並ぶと、空気が一気に締まる。
立ち位置、角度、身長バランス、目線の流れ。
少しのズレも画に出る。
タイキは指定された位置につきながら、隣との距離を確認する。
今日はルイとぴったり隣ではなかった。
間に一人入る。
それなのに、近いと感じるのは気のせいじゃない。
「じゃあ、少しだけリラックスして、でも目線強めで」
カメラマンの声が飛ぶ。
音が流れる。
メンバーそれぞれの空気が切り替わる。
仕事の顔になる。
鋭さと余裕をまとった、STARGLOWとしての表情。
タイキも前を向く。
でも途中で、どうしても横の気配を感じた。
見なくていい。
今は見なくていい。
そう思っているのに、ほんの一瞬だけ視線が滑る。
ルイが、こっちを見ていた。
まっすぐじゃない。
少し角度をつけた、画として成立する範囲の目線。
でも、その中にちゃんとタイキがいると分かる。
今度は逃げなかったのは、たぶんタイキの方だった。
一瞬だけ。
ほんの短く。
でも確かに、受け止めるみたいに見返した。
その瞬間、ルイの目がごくわずかにやわらいだ。
それだけ。
それだけなのに、タイキの心臓は一気に跳ね上がる。
昨日までは、視線に拒絶の意味があった。
今日は違う。
待ってる。
急がせない。
でも、ちゃんと見てる。
そんな温度が、そこにあった。
スタッフの「いいねー!」という声で、タイキはようやく前に意識を戻した。
危なかった。
今、少しでも長く見ていたら、顔に出ていた気がする。
撮影が一区切りついて、軽い休憩になる。
メンバーがばらけて水を飲んだり、モニターを確認したりし始める。
タイキはペットボトルを手に取って、一度だけ深く息を吐いた。
だめだ。
昨日のメッセージのせいで少し安心したはずなのに、今日の視線で余計に無理になってる。
近づいてこない。
触れてもこない。
なのにあんなふうに見られたら、意識しない方が無理だ。
「タイキ」
低い声で名前を呼ばれて、肩が揺れた。
振り向くと、ルイがいた。
距離はちゃんとある。
周りにスタッフもメンバーもいる。
だから何もおかしくない。
でも、心臓は全然普通じゃない。
「さっきのカット、よかった」
それだけ。
仕事の感想としては自然すぎるくらい自然な一言。
なのにタイキは、それだけで喉が詰まりそうになる。
「あ……」
「……ありがと」
うまく言えない。
自分でも分かるくらい、声が少しだけ小さい。
ルイはそれを急かさない。
ただ、昨日みたいに線を引くでもなく、前みたいに距離を詰めるでもなく、静かに立っている。
「昨日より、顔いい」
ルイが小さく言う。
「……っ」
タイキの指先に力が入る。
昨日より。
その一言で、昨日の全部を共有されている気がした。
スタジオでの距離も、夜のメッセージも、全部。
「……ルイ」
思わず名前が出る。
でも、その先が続かない。
ルイは少しだけ目を細めた。
柔らかいのに、逃がさない目だった。
「大丈夫」
短く、それだけ言う。
何が。
そう聞き返したいのに、聞けない。
たぶんその言葉には、いろんな意味が入っていた。
急がなくていい。
昨日のことは消えてない。
でも今日、またちゃんと見てる。
そういう意味全部。
タイキは口を開いて、閉じた。
結局何も言えず、小さく頷くことしかできない。
それを見たルイは、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「うん」
それだけ残して、すぐにスタッフに呼ばれて離れていく。
タイキはしばらくその場で動けなかった。
ペットボトルの表面が、指の熱で少しぬるくなっている。
周りではいつも通りみんなが動いているのに、自分だけ別の温度の中にいるみたいだった。
視線が交わっただけ。
少し言葉を交わしただけ。
それだけなのに、昨日までの“しんどい”とは違う熱が胸に残っている。
拒まれてない。
追い詰められてもいない。
ただ、ちゃんと見られてる。
その事実が、思った以上に効いた。
「……無理だろ、こんなの」
小さく呟いて、タイキは顔を伏せる。
カメラの前でも。
人の目がある場所でも。
こんなふうに視線ひとつで持っていかれる。
それはもう、誤魔化しようがなかった。
少し離れた場所で、ルイがスタッフと話している。
その横顔を見ただけで、また胸がざわつく。
昨日は距離に傷ついて。
夜の言葉に救われて。
今日の視線で、また逃げられなくなる。
タイキはそっと息を吐いた。
たぶんもう、自分はルイの目を探すことをやめられない。
そう思ってしまった瞬間、胸の奥が静かに熱くなった。
撮影が終わる頃には、外はすっかり夜だった。
長かった一日の熱が、ようやく少しずつほどけていく。
照明が落ちて、スタッフの声もどこか遠くなる。
スタジオの中に残るのは、片付けの音と、終わったあとの独特な静けさだけだった。
「おつかれー」
カノンが先にジャケットを脱ぎながら大きく伸びをする。
「今日長かったな」
ゴイチも肩を回しながら荷物をまとめる。
「でも画よかった」
アダムがモニターを見て短く言うと、カノンが「それは分かる」と満足そうに頷いた。
タイキも自分の荷物をまとめながら、できるだけ普通の顔をしてその会話に混ざっていた。
今日一日、なんとか持った。
視線が何度か交わって、そのたびに心臓は散々だったけれど、それでも昨日みたいな苦しさはなかった。
むしろ、余計に困った。
やわらかい視線。
短い言葉。
**「大丈夫」**なんて言われたこと。
あんなふうに扱われると、こっちだけがずっと落ち着かない。
「俺、先に車行くわ」
ゴイチが言う。
「俺も」
カノンがすぐに続く。
「アダム、来る?」
「行く」
アダムは荷物を持ち上げて立ち上がった。
「タイキは?」
カノンが振り返る。
「あ、俺……ちょっと忘れ物確認してから行く」
とっさにそう返す。
「りょーかい」
カノンは深く気にした様子もなく手を振った。
「先出てるわ」
3人が先に出ていく。
扉が閉まる。
足音が遠ざかっていく。
その静けさの中で、タイキはふっと息を吐いた。
本当に忘れ物をしたわけじゃない。
ただ少しだけ、一人になりたかった。
今日の空気を整理したかった。
このままみんなと一緒に帰ったら、たぶん落ち着く間もなくまた引きずる。
バッグの中を意味もなく触る。
スマホ、イヤホン、ケース、台本。
全部ある。
やっぱ帰るか、と踵を返しかけた、その時だった。
スタジオの奥の方で、小さく物音がした。
「……え」
顔を上げる。
スタッフかと思った。
でも次の瞬間、機材影から出てきたのはルイだった。
タイキの喉が詰まる。
「……ルイ」
「ん」
ルイは短く返して、自分の荷物を肩にかけ直した。
「まだいた」
「いや、それはこっちのセリフだろ」
「スマホ充電のとこに置きっぱなしだった」
ルイはそう言って、少しだけスマホを掲げて見せた。
それだけの、なんでもない会話。
なのに。
スタッフも、メンバーも、もう近くにはいない。
音のないスタジオに、二人分の声だけが落ちる。
また、二人きりだ。
その事実が意識にのぼった瞬間、タイキの胸が少しだけ強く鳴った。
ルイもたぶん、同じことを思ったんだろう。
一瞬だけ視線が止まる。
昼間の現場で交わした目とは違う。
もっと静かで、もっと近い温度。
タイキはそのまま目を逸らして、バッグのファスナーを閉めた。
「……じゃ、帰るか」
それが精一杯だった。
このまま何もなく終わるなら、それでもいい。
たぶんそれが一番安全だ。
今日はもう十分揺らされた。
これ以上なにか落とされたら、本当に処理できる自信がない。
そう思って、一歩踏み出したのに。
「タイキ」
後ろから名前を呼ばれて、足が止まる。
低い声。
でも強くない。
無理に引き止めるような音じゃないのに、身体はちゃんと止まってしまう。
振り向くと、ルイが少し離れた場所に立っていた。
近づいてはこない。
でも、目だけは逸らさない。
「……なに」
タイキの声は、思ったより静かだった。
ルイは少しだけ息をつく。
言葉を選んでるみたいな、短い間。
「今日」
ルイが言う。
「昨日よりちゃんと見てくれた」
その一言に、タイキの呼吸が止まる。
何の話かなんて、分かりすぎるくらい分かる。
現場での視線。
さっきのグループカット。
何度か交わった、あの短い目線。
「……気のせいだろ」
反射で返した声は、少しだけ硬かった。
「そういうことにしたいなら、それでもいいよ」
ルイは淡々と返す。
「でも俺は、見てたから」
心臓がどく、と強く鳴る。
見てた。
その言葉の重さに、タイキは目を細めた。
「……見すぎなんだよ、お前」
「うん」
ルイはあっさり認める。
「見てる」
即答だった。
冗談みたいに軽くもない。
照れ隠しもない。
ただ真っ直ぐ言われて、タイキの喉が熱くなる。
「だって、見ない方が無理だから」
その言い方が静かすぎて、逆に逃げ場がなかった。
タイキは思わず視線を外す。
床の上、落ちた光、黒いコード、誰もいない機材の影。
どうでもいいものに目を向けても、耳だけはルイの声を追ってしまう。
「……そういうの」
ようやく絞り出す。
「急に言うなよ」
「急じゃない」
ルイの声が落ちる。
「俺の中では、全然急じゃない」
その一言が、胸の奥深くに沈んだ。
タイキはゆっくり顔を上げる。
ルイは、昼間みたいなやわらかい目ではなかった。
もっと静かで、もっと覚悟を決めた目をしている。
昨日の化粧室でも。
今日のメッセージでも。
現場の視線でも。
何度も見せてきた“本気”の続きみたいな顔だった。
「タイキ」
名前を呼ばれる。
それだけで、また心臓がうるさい。
ルイは一歩だけ近づいた。
でも、それ以上は来ない。
近づこうと思えば来られる距離で、ちゃんと止まる。
その止まり方が、かえってずるい。
「昨日、距離取ったの」
ルイが静かに言う。
「俺が勝手に怖くなったから」
タイキの指先がわずかに動く。
「今日も、近づきたいの我慢してた」
「でも」
そこでルイは少しだけ言葉を切った。
「タイキが俺のこと見るたび、正直めちゃくちゃ嬉しかった」
「……っ」
タイキは小さく息を呑む。
なんでそんなことまで言うんだ。
そこまで言われたら、もう“分かんない”だけで逃げられない。
ルイは少し目を伏せて、それからまたまっすぐタイキを見た。
「優しくしようと思ってる」
「急がせたくないし、困らせすぎたくないし」
「ちゃんと待とうとも思ってる」
そこまでは、タイキもなんとなく感じていた。
今日の視線や距離の取り方で、ルイが押しつけようとしていないことは伝わっていた。
でも次の一言で、空気が変わる。
ルイは静かに、はっきりと言った。
「でも、なかったことにはしない」
タイキの呼吸が止まる。
一瞬、意味が頭に入ってこない。
けれど次の瞬間、その言葉が輪郭を持つ。
キスも。
本気だと言ったことも。
この数日の全部も。
曖昧なまま元の位置に戻すつもりはない、ということ。
ルイは続ける。
「相棒みたいな顔して、前と同じ場所に戻る気はない」
「戻れないし、戻りたくもない」
その声は低いのに、不思議と揺れていなかった。
本気だ。
タイキはそれを、もう嫌になるほど知っている。
知ってしまっている。
「……ルイ」
呼ぶだけで精一杯だった。
ルイは今度、ほんの少しだけ近づく。
近い。
でも触れない。
この距離で触れないのが一番しんどい、とタイキは知ってしまった。
「お前が分かるまで待つ」
ルイが言う。
「答え急がせるつもりもない」
「でも」
また、その“でも”だ。
そのたびに、ルイは逃げ道を残すふりをして、ちゃんと核心だけは置いていく。
「俺、お前のこと好きなまま待つから」
タイキの喉が鳴る。
真正面から、そんなふうに言われるなんて思ってなかった。
もっと曖昧な言い方をすると思ってた。
“気になってる”とか。
“特別”とか。
そういう、逃げられる言葉で濁すのかと思っていた。
なのにルイは、濁さなかった。
好き。
待つ。
でもなかったことにはしない。
それが全部、まっすぐ置かれる。
タイキは思わず半歩だけ後ろへ下がった。
逃げたいわけじゃない。
ただ、心臓が近すぎる。
「……そんなの」
声がうまく出ない。
「そんなの、ずるいだろ……」
「うん」
ルイは小さく頷く。
「ずるいかも」
否定しない。
「でも、もう曖昧にしてタイキの隣にいるの、無理だった」
その一言が、静かに刺さる。
ルイの中でどれだけ積もっていたのか。
どれだけ前から、こうだったのか。
それが言葉の重さで分かってしまう。
タイキは目を逸らしたまま、強く唇を噛んだ。
自分だってもう分かってる。
ルイに距離を置かれて苦しかった。
優しいメッセージで救われた。
視線が交わるだけで揺れる。
もうただの相棒に向ける気持ちじゃない。
でも、それを今ここで全部認めるには、まだ怖い。
その沈黙を、ルイは急かさなかった。
しばらくしてから、ルイが少しだけ声を落とす。
「タイキ」
「この前、お前、“からかってんなら忘れる”って言っただろ」
タイキの肩がわずかに揺れた。
化粧室で言った言葉。
あの時の自分は、あれで自分を守ろうとしていた。
ルイは静かに言う。
「忘れなくていい」
「忘れなくていいように、俺がちゃんとする」
その瞬間、タイキはとうとう顔を上げた。
真正面で目が合う。
ルイの目は強い。
でも、無理やりではない。
ちゃんと待つと言った人の目をしている。
それでも、一歩も引かない人の目でもあった。
その強さに、胸の奥が熱くなる。
「……ちゃんとする、って何だよ」
やっと出た言葉は、弱かった。
でもルイは少しだけ口元をゆるめた。
「逃げないってこと」
「お前が迷ってても、俺は曖昧なとこに隠れない」
その答えに、タイキは何も言えなくなる。
ずるい。
本当にずるい。
そんなふうに言われたら、こっちだけ分からないままでいるのが、ひどく情けなく感じる。
けれど、それでもルイは答えを迫らない。
ただ、最後にもうひとつだけ落とした。
「だから、タイキも」
ルイの声が少しだけ低くなる。
「もう俺のこと、見なかったことにしないで」
心臓が、大きく跳ねた。
見なかったこと。
気づかなかったこと。
ただの相棒だと、自分に言い聞かせること。
全部まとめて、それをやめろと言われた気がした。
タイキは唇を開いて、閉じる。
言葉が出ない。
でも何も伝わってないわけじゃない。
それはたぶん、今の顔で全部バレてる。
ルイはそれを見て、ふっと息をついた。
苦しそうでも、安心したようでもある、変な吐息。
「……帰るか」
ルイが先に言う。
「これ以上いたら、たぶん俺の方がまた困る」
その言い方に、タイキの喉が熱くなる。
最後までそうだ。
本気を置いていくくせに、押しつけすぎない。
でも、ちゃんと残る言葉だけは渡していく。
ルイが横を通り過ぎようとする。
その瞬間、タイキの指先がわずかに動いた。
呼び止めたい。
まだ何か言いたい。
でも、何を言えばいいのか分からない。
結局、掴めたのは声だけだった。
「……ルイ」
ルイが足を止める。
振り返る。
タイキは少し俯いたまま、苦し紛れみたいに言った。
「……見なかったことには、もうできねぇよ」
言った瞬間、自分で息を呑む。
それは答えじゃない。
“好き”とも言ってない。
でも、もう見てしまったことは認めた。
気づいてしまったことも。
戻れないことも。
ルイの目が、静かに揺れる。
その揺れだけで、タイキはまた胸がいっぱいになる。
「……うん」
ルイは本当に小さく頷いた。
「それで十分」
そう言って、今度こそ少しだけ笑った。
派手じゃない。
でも、今日一番やわらかい顔だった。
「じゃ、今日はそれ持って帰って」
ルイが言う。
「俺も持って帰るから」
「……なんだよ、それ」
「そのまんま」
ルイは肩をすくめる。
「お前がくれた言葉、今日のぶんはそれで足りる」
そんなのまで大事そうに言われたら、また無理になる。
タイキは顔を逸らして、小さく息を吐いた。
「……ほんと、お前、ずるい」
「知ってる」
ルイは少し笑った。
「でも、手加減はしてる」
「それでかよ」
「それで」
短いやり取りなのに、さっきまでの張り詰めた空気が少しだけやわらぐ。
でも、熱は消えない。
むしろ、ちゃんと残ったままだ。
二人で並んでスタジオを出る。
肩は触れない。
歩幅も少しだけ空いてる。
それでも、前よりずっと近い沈黙だった。
エレベーターを待つ間、タイキは横の気配を意識しながら、さっきの言葉を何度も反芻していた。
なかったことにはしない。
好きなまま待つ。
見なかったことにしないで。
そんなの。
そんなの、もう十分すぎるくらい核心だった。
エレベーターの扉が開く。
二人で乗り込む。
閉まる直前、鏡みたいな扉に並んだ姿が映った。
前と同じには戻れない。
たぶん本当に、もう戻らない。
タイキは小さく目を伏せる。
それが怖いのに。
どこかで、ちゃんと嬉しいと思ってる自分がいた。
エレベーターの中は、やけに静かだった。
仕事終わりのビル特有の、少し冷えた空気。
天井の薄い照明が、ふたりの肩と髪に淡く落ちている。
ルイは隣にいる。
近すぎない距離。
でも、離れてるとも言えない距離。
さっきスタジオで交わした言葉が、まだタイキの胸の中にそのまま残っていた。
なかったことにはしない。
好きなまま待つ。
見なかったことにしないで。
思い出すたびに、心臓の奥が熱くなる。
なのにルイは、今は何も言わない。
変に追い詰めることもなく、ただ隣にいるだけだ。
それが余計にずるい。
エレベーターの扉に映る自分を、タイキはちらりと見た。
分かりやすいくらい落ち着いていない顔をしている。
これで何も言わずに別れたら、きっと今日一晩ずっと後悔する。
分かってる。
分かってるのに、喉の奥で言葉が引っかかる。
一階に着く手前で、ルイが小さく息を吐いた。
「……送るよ」
低くて、いつも通りみたいな声。
タイキは反射で顔を上げる。
「別に、ひとりで帰れるし」
「知ってる」
ルイは少しだけ目を細めた。
「でも送る」
その言い方がもう、妙に優しくて困る。
扉が開く。
夜の気配が流れ込んでくる。
ふたりで降りて、車寄せの方へ向かう。
外気に触れた途端、少しだけ頭が冷えるかと思った。
でも逆だった。
静かな夜道に出たせいで、隣にいるルイの存在ばっかり意識してしまう。
数歩分の沈黙。
そのまま歩いて、もう少しで本当に別れの流れになってしまう、というところで。
タイキはとうとう足を少しだけ緩めた。
ルイがそれに気づいて、歩幅を合わせる。
「タイキ?」
呼ばれて、喉がきゅっとなる。
今だ。
今しかない。
なのに、いざ口を開くと、言いたかったはずの言葉がぜんぶ不器用になる。
「……あのさ」
自分でも驚くくらい小さい声。
ルイは黙って待っている。
急かさない。
それがまた、言いづらい。
タイキは前を向いたまま、ぎこちなく続けた。
「この後……」
そこで一回止まる。
心臓がうるさい。
「……まだ、一緒にいるなら」
ルイの気配が、わずかに変わる。
タイキはルイを見れないまま、視線を地面に落として言った。
「場所、変える」
言ってしまった瞬間、耳まで一気に熱くなる。
終わった、と思った。
今の言い方、絶対変だった。
曖昧すぎるし、ぶっきらぼうだし、何より自分で何を言ってるのか分かってるから余計に恥ずかしい。
夜の空気が一瞬止まったみたいだった。
ルイが何も言わない。
その沈黙が長く感じて、タイキは思わず言い訳みたいに言葉を足す。
「……いや、別に」
「嫌ならいいけど」
「嫌じゃない」
即答だった。
それが早すぎて、タイキの呼吸が乱れる。
ようやく横を向くと、ルイがこっちを見ていた。
驚いてる。
でもそれ以上に、どう受け取ればいいか慎重になってる顔だった。
ルイは少しだけ息を飲んでから、静かに聞く。
「それ、俺が思ってる意味で聞いていいの」
「……知らねぇよ」
タイキは反射でそう返す。
でも声が全然強くない。
むしろ、ばれてる。
ルイの口元が少しだけ緩んだ。
でもからかわない。
そこを茶化されたら、たぶんタイキは本当に逃げていた。
「場所、変えるって」
ルイがやわらかく言う。
「もう少し一緒にいたい、で合ってる?」
「……っ」
そんなふうに翻訳されるとだめだ。
自分で曖昧にしていたものが、急にまっすぐな意味になる。
タイキは顔を逸らして、唇を噛んだ。
「……お前さ」
「そういうの、わざわざ言い直すなよ」
「ちゃんと聞きたいから」
「聞かなくても分かってんだろ」
「分かってるけど」
ルイの声が少しだけ低くなる。
「タイキが自分で言ったの、ちゃんと受け取りたい」
その言葉に、胸の奥がじわっと熱くなる。
タイキはしばらく黙って、それから観念したみたいに小さく言った。
「……少しだけなら」
ルイの目が、はっきり揺れる。
「少しだけ?」
「うん」
「一緒にいていいの」
「……だから、そう言ってんじゃん」
ぶっきらぼうに返したくせに、最後の方はほとんど声になっていない。
ルイはその全部を聞き逃さずに、静かに息を吐いた。
嬉しい時の息だ、とタイキは分かってしまう。
「じゃあ」
ルイが一歩だけ近づく。
でも、いつものようにすぐ詰めすぎたりしない。
「俺の家、連れてってもいい?」
その聞き方がずるかった。
“来る?”じゃなくて。
“連れてってもいい?”だなんて。
まるでタイキの許可を取るみたいに、やさしく聞く。
タイキの喉が小さく鳴る。
「……っ」
返事ができない。
行きたくないわけじゃない。
むしろ今、自分から場所を変えるなんて言った時点で、答えはだいぶ出てる。
でも、改めてそう聞かれると。
ルイの家。
ふたりきり。
その響きだけで、一気に現実味が増してしまう。
ルイは待っている。
変に覗き込んだりもしない。
ただ、タイキの答えを急がずに待っている。
その待ち方が、また反則だった。
タイキは耳を赤くしたまま、わざと少し眉を寄せた。
「……何も、ねぇんだろ」
「何も、って?」
「その……」
言いかけて、タイキはますます言いづらくなる。
「急に行っても……何か……困るだろ」
「困らない」
ルイは静かに返す。
「来てくれるなら、全然困らない」
「……そういうことじゃなくて」
タイキが小さく睨むと、ルイはほんの少しだけ笑った。
でも次の瞬間にはちゃんと真面目な顔に戻る。
「安心して」
「嫌がること、しない」
その一言が、すっと胸の奥に落ちた。
タイキの指先が、ぎゅっとバッグの紐を握る。
そういう言い方をされると、本当にずるい。
こっちはもう十分くらくらしてるのに、さらにちゃんと逃げ場まで残してくる。
「……お前」
「ん?」
「やさしくすんな」
「無理」
即答。
タイキはとうとう言葉に詰まった。
ルイはその顔を見て、少しだけ目を細める。
嬉しそうで、困ってるみたいでもある、変な目。
「タイキ」
「……なに」
「来る?」
低くて、やわらかい声。
そのたった二文字に、タイキの心臓がまた大きく鳴った。
もう誤魔化せない。
行きたい。
でも素直に“うん”と言うのは悔しい。
というか、恥ずかしくて無理だ。
だからタイキは最大限に照れ隠しをした。
視線を逸らして、口元を少しだけ手で隠しながら、ぼそっと言う。
「……何か食べれるなら」
ルイが一瞬、本当に黙る。
タイキはその沈黙に耐えられなくなって、早口で続けた。
「今日、ちゃんと食ってねぇし」
「現場、長かったし」
「別に……腹減ってるだけだから」
言いながら、自分でも分かる。
ひどい言い訳だ。
でも今のタイキには、それが精一杯だった。
“行きたい”の代わりに出せる、最大限かわいい照れ隠し。
ルイはしばらく何も言わなかった。
そのせいでタイキは余計に居たたまれなくなる。
「……何」
「いや」
ルイが息を吐く。
「今、だいぶやばい」
「は?」
「可愛すぎて」
「っ、言うな!」
タイキがすぐに睨む。
でもその睨み方に全然迫力がなくて、むしろルイの目をさらにやわらかくさせるだけだった。
「腹減ってるだけ、って顔じゃない」
ルイが静かに言う。
「……うるさい」
「何か食べれるなら、って」
ルイは少しだけ俯いて、笑いを堪えるみたいに息を吐く。
「それで俺の家来るの、だいぶ反則」
「反則って何だよ」
「嬉しすぎるってこと」
タイキは返せない。
嬉しいなんて、そんな真正面から言われたら、こっちはもう立ってるだけで精一杯だ。
ルイはようやく少しだけ距離を詰めて、でも触れない位置で止まる。
「ちゃんと食べるものあるよ」
「簡単なのでいいなら、すぐ作れる」
「それでも来る?」
最後の確認みたいに、やさしく聞かれる。
タイキはしばらく黙って、それからほんの少しだけルイの方を見た。
一瞬だけ目が合う。
その目があまりに嬉しそうで、優しくて、もう逃げたくなくなる。
「……行く」
小さい声。
「もう一回」
ルイが言う。
「聞こえたけど、ちゃんと欲しい」
「なんでだよ……」
「ほしいから」
ルイがそんな顔で言うせいで、タイキは耳まで真っ赤になりながら、半分睨むみたいにして言った。
「……行く、って言ってんの」
「その……お前んち」
「……連れてけよ」
最後の一言は、ほとんどやけくそみたいだった。
でもその瞬間、ルイの表情が変わる。
ぐっと息を止めたみたいに、目の奥が熱を持つ。
「……それ、だめ」
「何が」
「今の言い方」
ルイが低く笑う。
「無理になる」
タイキは一歩だけ下がる。
「知らねぇよ」
「自分で言わせといて」
「うん、ごめん」
「全然思ってないだろ」
「思ってる」
ルイはそう言いながら、全然困ってる顔を隠せていない。
「でも嬉しい方が勝ってる」
そんなやり取りのあと、少しだけ沈黙が落ちる。
夜風が吹く。
車寄せの照明が、ふたりの足元を白く照らしていた。
ルイはその静かな空気の中で、ふっと声を落とす。
「タイキ」
「……ん」
「今、自分で分かってる?」
「何が」
ルイはほんの少しだけ首を傾ける。
「行動で返してくれてる」
その言葉に、タイキの心臓が強く鳴る。
言い返したい。
違うって。
別にそんなつもりじゃないって。
ただ腹減ってるだけだって。
でも、そんなのもう自分でも苦しいくらい嘘だった。
ルイはさらに続ける。
「答え、まだいらないって言ったけど」
「今みたいなのは、ちゃんと嬉しい」
「俺ばっかりじゃなかったって思えるから」
その言い方に、タイキはふっと視線を落とした。
ルイの“待つ”は本物だ。
でも本当に待ってるだけじゃなくて、こうして小さな返事をちゃんと受け取ってくれる。
それが、思っていた以上に救いだった。
「……別に」
タイキは小さく言う。
「お前ばっかりって感じでも、ないし」
ルイが目を見開く。
タイキはそれを見て、しまったと思う。
今のはだいぶ本音だった。
「……今のは」
「うん」
「聞かなかったことにしてもいい」
「無理」
ルイがすぐに返す。
「それは無理」
「っ……ほんと、最悪」
「最高」
「うるさい」
タイキがそう言うと、ルイは少しだけ笑った。
その笑い方があんまりやさしくて、タイキはまた顔を逸らす。
「じゃ、行こ」
ルイが言う。
「腹減ってる人、ちゃんと連れて帰る」
「……その言い方やめろ」
「なんで」
「なんか」
タイキは口ごもってから、低く言う。
「……変に甘い」
ルイの目が、またやわらぐ。
「甘くしてるつもりはある」
「だから言うなって……!」
タイキが小声で返すと、ルイはとうとう耐えきれなかったみたいに少し肩を揺らして笑った。
でも次の瞬間、ちゃんと真面目な顔に戻って、車のドアを開ける。
その仕草まで丁寧で、タイキは余計に無理になる。
「どうぞ」
「……何それ」
「連れてってもいい?って聞いたから」
「最後までちゃんとしたい」
その言葉に、タイキは一瞬だけルイを見る。
だめだ。
こういう時のルイは本当にだめだ。
強引に見えて、肝心なところではちゃんと大事にしてくる。
タイキは小さく息を吐いて、観念したみたいに車へ乗り込んだ。
シートに腰を下ろした瞬間、扉の外に立つルイが少しだけ屈んで、目線を合わせる。
「タイキ」
「……なに」
「来てくれて、ほんとに嬉しい」
まっすぐに言われて、タイキの胸がまた熱くなる。
「……飯、ちゃんと作れよ」
それしか返せない。
それでもルイは、すごく大事な返事をもらったみたいに笑った。
「了解」
扉が静かに閉まる。
車内に、外とは違う少しこもった静けさが満ちる。
タイキはシートベルトを引きながら、窓の外を見た。
顔が熱い。
心臓もうるさい。
でも、不思議と怖さばかりじゃなかった。
自分で言った。
場所を変えるって。
ルイの家に行くって。
それはたぶん、思っていたよりずっと大きな一歩だ。
それでも今、引き返したいとは思わない。
ルイが運転席に乗り込んでくる。
エンジンが静かにかかる。
その気配を感じながら、タイキは小さく唇を噛んだ。
もう、見なかったことにはできない。
その代わり。
少しずつなら、自分から近づいていってもいいのかもしれない。
そんなことを思ってしまった自分に、また耳が熱くなる。
「……タイキ」
「ん?」
「途中でなんか買う?」
「……別に」
「照れ隠しで言ってる?」
「うるさい」
「じゃあ、好きそうなの家で作る」
「……っ」
タイキはとうとう片手で顔を覆った。
「……ほんと、お前むり」
「知ってる」
ルイはやわらかく笑う。
「でも今日は、タイキが来てくれるから機嫌いい」
そんなふうに言われたら、もう何も返せない。
車がゆっくり走り出す。
流れていく夜の灯りの向こうで、タイキは手のひらの下でこっそり笑ってしまいそうになるのを堪えていた。