<凌太>
ねぇ甲斐くん居るんでしょ。
電気ついてるの見てるんだから
ピンポーンピンポーンピンポーン
ねぇ聞いてるんでしょ
出てきてよ
ピンポーンピンポーンピンポーン
「わたしの家に今来ているようです」
そう言って母親と帰宅したばかりの父親に画像を見せると完全に表情が固まっている。
「今から一緒に来ていただいてもよろしいですか」
弟に裏切られたのよ
ピンポーンピンポーンピンポーン
父親は「わかりました」と言うと、今入ってきた玄関に向かう。母親も手で自分の体を触ったあと松本ふみ子のスマホを手に持って一緒についてきた。
「瞳、聞こえるか?」
『うん』
「今からそちらに行くから、セキュリティセンターに連絡をしてくれ」
「わかった」と言って通信は切れた。
後部座席に松本ふみ子の両親が座っている。
瞳のことが心配で信号一つにもイライラしながらも事故を起こすわけにいかず、気持ちを落ち着かせながら運転する。
「甲斐さんは娘とはどういう関係なんでしょう」
「行きつけのBARで知り合って何度か一緒に飲みました。大学の同窓だと言ってましたが、高校も同じだったようです」
流石に両親に体の関係の話は気まずい。
「お付き合いをしていたと言うことですか?」との母親の問いには「恋人としてと言うことであれば、お付き合いはしておりませんでした。あくまでも飲み仲間です」
「そうですか」と母親が呟いた後は車内はエンジン音だけがしていた。
マンションに到着して車を駐車場に入れ、3人でセキュリティサービスに向かう途中、瞳に電話をかけるとちょうど話中だった。
鈴木里子にでも電話してるんだろうか?
もう一度かけようとした時、瞳からの着信があり通話アイコンをタップすると
「元々凌太のストーカーだとしても手を出さなければ、ここまでこじれなかったんじゃないの!」
「マオの時だってそう!!」
「遊びで寝るとか女をナメてんじゃない!!!」
と言う言葉が聞こえてきて、全くその通り返す言葉もなく「ごめん」と謝った後、セキュリティセンターに着いたこと、もう少し待っていてほしいことを伝えた。
「わたしは悪くない。あの女が消えればいいだけ」
廊下にまで松本ふみ子の声が聞こえてくる。
インターフォンを押して部屋番号と名前を伝え扉が開くと髪を振り乱した松本ふみ子が立ち上がり「甲斐くーん、なんですぐに出てくれないの」と言いながらこちらに来ようとしたところを警備員が俺と松本ふみ子の間に腕を出した。
「さっきから何なんだよお前ら。邪魔すんなよ」
そう言って怒鳴り散らす彼女の目は爛々として肉食獣を思わせカフェで見たときの彼女よりもさらに
危険を感じた。
彼女にはまったく両親の姿が見えないようで「ふみ子なにやってんの!」という母親の言葉でようやく目線だけは一度母親を見たが、すぐに俺に視線を向ける。
「ちょっとどけなさいよ!」
と言って俺の方を向いて壁を作っている警備員の腕や背を叩いている。
「警察に連絡しましょうか?先ほどからずっとこんな感じで興奮していて」
警備員の言葉を聞いた父親が松本ふみ子の腕を引くとパーンという乾いた音とともに彼女は床に倒れた。
「いい加減にしないか」
倒れた松本ふみ子は赤く色のついた頬を抑えると「パパ・・・」とつぶやく、その目はさきほどまでの肉食獣の目ではなく”人”の目になっていた。
母親が倒れている彼女に駆け寄りしゃがみ込むと泣きながら力の入らないこぶしで彼女の足をトントンと叩く。
その姿を立ったまま見下ろしていた父親はこちらを向くと頭を下げ
「どうか警察を呼ぶのを待ってもらえませんか」と震える声で言った。
「今回のことはわたしの一存で決められますが、ある女性への傷害未遂に関してはその人の了承が必要になります」
そう伝えると父親は「傷害・・・未遂?」と俺と自分の娘を交互に見た。
母親は音声データを聞いていたため「ほんとうになにやってんの」と娘をたたき続ける。
「あのひとが・・・いなくなれば・・・」松本ふみ子がぼそりとつぶやくと母親は「そんなことできるわけないでしょ。しちゃいけないでしょ」と言いながら両肩をつかんで揺らし始め「ダメにきまってるでしょ」というときには鞭打ち症になるのではないかと思われるほどの強さでゆすっているのを父親が止めていた。
俺が狂わせたのか?
いや、責任は全くないとは言わないが、常軌を逸しているのは彼女の稟性だ。
「今日はもう遅いですから、後日弁護士を通じて話をさせていただきます」
そう伝えると父親が頭を下げてから松本ふみ子と母親の腕をつかんで立ち上がらせると彼女の頭を手で押さえて頭を下げさせ、三人そろって頭を下げてからセキュリティーセンターの事務所を出て行った。
俺は警備員からいくつか報告を受けると急いで瞳が待つ部屋に戻った。
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