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ホラー小説 呪われた研究室~i×f~
呪われた研究室 -
第一章 新学期の始まり
四月の桜が散り始めた頃、俺、岩〇照は大学三年生になった。体育学部で運動生理学を専攻している俺は、新しい研究室に配属されることになった。
朝早くから大学に向かう電車の中で、俺は配属先について考えていた。希望していた最新設備の整った研究室ではなく、古い建物の地下にある研究室に配属されると聞いていた。
「まあ、どこでも頑張るしかないな」
俺は前向きに考えることにした。持前の体力と根性で、どんな環境でも乗り切ってみせる。
大学に到着すると、指導教授の田中先生が待っていた。
「岩本くん、おはよう。今日から君の研究パートナーを紹介するよ」
田中先生の後ろから現れたのは、俺とは正反対のタイプの男だった。
「よろしくお願いします」
深澤は丁寧にお辞儀をした。細身で背が高く、知的な雰囲気を漂わせている。俺のような筋肉質な体型とは対照的で、まるで研究室から出てきた学者のようだった。
「こちらこそ、よろしく。俺は岩〇照。」
俺は人懐っこく笑いかけた。
「照…俺はふっかって呼ばれてるんだ」
ふっかの微笑みは上品で、なんだか俺の心を落ち着かせてくれた。話し方も丁寧で、育ちの良さが感じられる。
「君たち二人には、運動と脳機能の関係について研究してもらいます」
田中先生が説明を始めた。
「最新の脳波測定機器を使って、運動時の脳活動を詳しく調べる予定です」
「面白そうですね」
ふっかが目を輝かせた。
「岩本くんは被験者兼実験補助、深澤くんは機器操作とデータ解析を担当してもらいます」
俺たちの役割分担も決まった。確かに、俺は体力には自信があるし、ふっかは頭脳明晰そうだ。良いコンビになれそうな予感がした。
俺たちが配属されたのは、大学の最も古い建物の地下にある研究室だった。昭和初期に建てられたという建物は、外観からして不気味な雰囲気を醸し出している。
煉瓦造りの外壁は黒ずんでおり、窓は小さく、まるで監獄のような威圧感がある。他の新しい建物とは明らかに異質で、学生たちもあまり近づきたがらない場所だった。
「この建物、いつ建てられたんですか?」
ふっかが田中先生に尋ねた。
「昭和八年ですね。戦前から続く歴史ある建物です。地下の研究室は、当時の解剖学実習室だったそうです」
解剖学実習室。その言葉に、俺は少し嫌な予感を覚えた。
「解剖学って、人体解剖もやってたんですか?」
俺が質問すると、田中先生は少し困ったような表情を見せた。
「詳しいことはわかりませんが、戦時中は軍の要請で様々な研究が行われていたようです」
田中先生の歯切れが悪いのが気になったが、深く追求するのはやめた。
建物の中に入ると、古い木造の廊下が続いている。床はギシギシと音を立て、歩くたびに不安になる。照明も薄暗く、昼間だというのに電気をつけなければ前が見えない。
研究室は地下一階にあり、薄暗い廊下の奥にあった。石段を降りていくと、温度が急に下がったような気がした。
「寒いですね」
ふっかが身震いした。
「地下だからかな」
俺は答えたが、四月の暖かい日だというのに、地下は真冬のような寒さだった。
扉を開けると、古い消毒液のような匂いが鼻についた。
「この匂い、何だろう?」
ふっかが顔をしかめた。
「古い建物だから、いろんな匂いが染み付いてるんじゃないかな」
俺は軽く答えたが、その匂いは明らかに異常だった。消毒液と、何か腐ったような匂いが混じっている。まるで病院の霊安室のような、不気味な匂いだった。
研究室の内部は、思っていたより広かった。天井が高く、古い実験台が並んでいる。壁には昔の医学書がびっしりと並んだ本棚があり、隅には古いホルマリン漬けの標本が置かれていた。
「すごい古さ」
ふっかが感嘆の声を上げた。
実験台は木製で、表面には無数の傷がついている。よく見ると、その傷の中には血のような赤い染みもある。
「これ、実験台かな?」
俺が疑問に思った。
「手術台のようにも見えるけど」
ふっかも不安そうだった。
「君たちの研究テーマは、運動と脳機能の関係です。最新の機器も導入しますから、古い環境でも最先端の研究ができますよ」
田中先生はそう言ったが、俺とふっかは不安を隠せなかった。
第二章 不穏な発見
その日の午後、俺とふっかは二人で研究室を片付けることになった。田中先生は会議があるということで、俺たちだけが残された。
「とりあえず、古い器具を整理しよっか」
ふっかが提案した。
「そうだな」
俺は重い実験器具の移動を担当し、ふっかは書類や本の整理を担当した。
「照、これ見て」
ふっかが古い机の引き出しから、黄ばんだノートを取り出した。
「何だろう?」
俺がノートを覗き込むと、そこには古い文字で何かが書かれていた。表紙には「実験記録 極秘」と書かれている。
「実験記録…昭和十八年…被験者番号27…」
読み進めていくうちに、俺たちの顔は青ざめていった。
ノートには、信じられないような内容が記されていた。
『被験者27号 田村健一 21歳 大学生 健康状態良好』 『実験内容:麻酔なしでの腹部切開。痛み耐性の測定』 『結果:被験者は激しい苦痛を訴え続けた。30分後に失神。1時間後に死亡』
「これ、人体実験の記録じゃない?」
ふっかの声が震えていた。
ノートには、戦時中に行われていた非人道的な実験の詳細が記されていた。健康な若い男性を被験者とした、痛み耐性の実験、薬物投与実験、そして最終的には死に至る実験。
どのページも、読むのが辛くなるような内容だった。
『被験者15号 佐藤次郎 20歳 工場労働者』 『実験内容:新型毒ガスの吸引実験』 『結果:呼吸困難により30分で死亡。肺の状態を解剖にて確認』
『被験者23号 山田一郎 22歳 農民』 『実験内容:極限低温下での生存実験』 『結果:3時間で凍死。死後、内臓の凍結状態を詳細に記録』
「殺してる…」
俺の声も震えた。
記録によると、実験の最後に被験者は全員死亡している。そして、その遺体はここの地下深くに埋められたと書かれていた。
「これ本物?」
ふっかが不安そうに尋ねた。
「わからないけど、妙にリアルだ」
俺はノートを閉じた。しかし、最後のページに恐ろしい記述があった。
『実験終了後、被験者の遺体は地下貯蔵庫に安置。後日、適切に処理予定。ただし、戦況悪化により処理が延期される可能性あり』
『注記:被験者の霊が実験室に出現するとの報告あり。継続調査が必要』
霊の出現という記述に、俺たちは背筋が凍った。
そのとき、研究室の電気が突然消えた。
真っ暗な室内で、俺とふっかは身を寄せ合った。
「停電?」
ふっかの声が暗闇に響く。
俺は携帯の明かりをつけて辺りを照らした。すると、先ほどまでなかった足跡が床についているのが見えた。
「ふっか、これ見て」
俺が床を照らすと、泥のような足跡が研究室の奥へと続いている。
「誰かいるんですか?」
ふっかが俺の後ろに隠れた。
足跡は複数あり、まるで何人もの人が歩いたような痕跡だった。しかし、俺たち以外に誰も入ってきていない。
俺たちは恐る恐る足跡を追った。足跡は研究室の最も奥の壁で途切れていた。
そこには、古い扉があった。
「こんな扉、さっきはなかったよな?」
ふっかが震え声で言った。
確かに、さっきまでここは普通の壁だった。
扉には古い鍵がかかっていたが、なぜか鍵は開いていた。扉の表面には、古い文字で「立入禁止」と書かれている。
「開けてみる?」
俺が提案すると、ふっかは首を振った。
「やめた方がいいんじゃない?」
「でも、気になる」
俺は扉に手をかけた。
扉は重く、開けるのに力が必要だった。ギィィィという不気味な音を立てながら、扉がゆっくりと開いた。
扉の向こうには、石段が下へと続いていた。地下の更に下があるということか。
第三章 地下の悪夢
「照、やめようよ」
ふっかが俺の腕を掴んだ。
「ちょっとだけ見てみよう」
俺はふっかを説得して、階段を降り始めた。
石段は湿っており、踏むたびにぺちゃぺちゃと音がする。壁からは水滴が滴り、異様な寒気が漂っていた。
「なんか、すごく寒くないですか?」
ふっかが身震いした。
「確かに」
俺も寒気を感じていた。四月だというのに、まるで真冬のような寒さだった。吐く息が白くなるほどの寒さだ。
階段を下りきると、そこには広い地下室があった。天井は低く、古いコンクリートの壁に囲まれている。
そして、部屋の中央には古い手術台のようなものが置かれていた。
「これ…」
ふっかが言葉を失った。
手術台の周りには、錆びた医療器具が散乱している。メスやハサミ、そして正体不明の器具たち。どれも血のような錆に覆われていた。
よく見ると、手術台の表面にも赤茶色の染みがついている。それは明らかに血の跡だった。
「ここで、あの実験が行われてたのかもしれませんね」
俺が呟くと、突然部屋の奥から声が聞こえた。
「助けて…助けて…」
か細い男性の声だった。
「誰かいるんですか?」
ふっかが震え声で呼びかけた。
「痛い…痛いよ…」
声は続いている。
俺たちは恐る恐る声のする方向に向かった。部屋の奥には、古い牢屋のような部屋がいくつもあった。
鉄格子で区切られた小さな部屋が並んでおり、まるで動物を閉じ込める檻のようだった。
「助けて…」
声は一番奥の部屋から聞こえてくる。
俺が携帯の明かりでその部屋を照らすと、そこには人の形をした何かがうずくまっていた。
しかし、それは人間ではなかった。
骨と皮だけになった、ミイラのような何かが、こちらを見つめていた。
「うわああああ!」
ふっかが悲鳴を上げた。
その瞬間、地下室全体に不気味な笑い声が響いた。
「ヒヒヒ…新しい実験体が来たぞ…」
複数の声が重なった、おぞましい笑い声だった。
「逃げよう!」
俺はふっかの手を掴んで、階段を駆け上がった。
しかし、階段の途中で俺たちの足音以外に、別の足音が聞こえてきた。
ドスドスという重い足音が、俺たちの後を追いかけてくる。
「早く!」
俺はふっかを押し上げるようにして、研究室まで戻った。
研究室に戻ると、電気が復旧していた。そして、先ほどの扉は消えていた。
「扉が…」
ふっかが唖然としていた。
「夢だったのかな?」
俺も信じられなかった。
しかし、俺たちの靴には、確実に地下室の湿った土がついていた。
「これ、現実だよな?」
ふっかが震えながら靴の土を見つめていた。
「ああ…現実だ」
俺たちは顔を見合わせた。
そのとき、研究室の扉が開いた。
「お疲れ様です」
入ってきたのは夜警の老人だった。
「あ、お疲れ様です」
俺たちは慌てて挨拶した。
「珍しいですね、学生さんがこんな時間まで」
老人が時計を見ると、もう午後七時を回っていた。
「片付けが長引いてしまって」
ふっかが説明した。
「そうですか。でも、あまり遅くまでいない方がいいですよ」
老人の表情が急に真剣になった。
「なぜですか?」
俺が尋ねると、老人は周りを見回してから小声で言った。
「この建物、夜は良くないことが起きるんです」
「良くないこと?」
「昔から、夜に一人でいると変なものが見えるって話があるんです」
老人の話では、この建物では昔から超常現象が報告されていた。夜中に誰もいないはずの廊下から足音が聞こえる、研究室から悲鳴が聞こえる、エレベーターが勝手に地下に降りる。
「特に、地下の研究室は危険です」
老人が俺たちを見つめた。
「なぜですか?」
ふっかが震え声で尋ねた。
「戦時中、ここで酷いことがあったからです」
老人の話では、戦時中にここで行われていた人体実験は実在したという。そして、犠牲になった人々の魂が今も建物に留まっているのだという。
「何人くらいの方が…」
俺が恐る恐る尋ねた。
「正確な数はわかりませんが、少なくとも20人以上はいたでしょう。みんな若い男性でした」
老人の言葉に、俺たちは先ほど見たノートのことを思い出した。
「その方々は、今でも…」
ふっかが聞きかけた。
「成仏できずにいるようです。特に、実験を行った軍医の霊も一緒にいるという話があります」
軍医の霊という言葉に、俺たちは新たな恐怖を感じた。
「軍医?」
「佐々木軍医という人です。戦後も生き延びて、病院を開業していましたが、晩年は精神を病んで、この建物にこもっていたそうです」
「それで、その人も…」
「十年前に亡くなりましたが、死後もこの建物から離れようとしないようです」
老人の話を聞いて、俺たちは恐怖で震えが止まらなかった。
「気をつけてくださいね。特に二人きりになるときは」
老人はそう言い残して去っていった。
俺とふっかは、恐怖で震えていた。
「照…」
ふっかが俺の腕にしがみついた。
「大丈夫だ。俺がふっかを守る」
俺はふっかを抱きしめた。
その瞬間、俺はふっかへの気持ちが、友情以上のものであることに気づき始めていた。
第四章 研究の開始と新たな恐怖
翌日から、俺たちは本格的に研究を始めることになった。しかし、昨夜の出来事が頭から離れない。
「照、昨日のこと、他の人に話す?」
ふっかが不安そうに尋ねた。
「話しても信じてもらえないだろう」
俺は首を振った。
「そうだね…」
研究室には他にも学生がいた。先輩の山田さんと、同期の佐藤くんだ。
「新人さんたち、慣れましたか?」
山田先輩が声をかけてくれた。彼女は大学院の修士課程で、この研究室のリーダー的存在だった。
「まだちょっと…この建物、古いですね」
ふっかが遠回しに話を振った。
「ああ、この建物ね。色々と噂があるけど、慣れれば大丈夫よ」
山田先輩は軽く答えた。
「噂?」
俺が食いついた。
「幽霊が出るとか、夜中に変な音がするとか。でも、研究に集中してれば気にならないわよ」
山田先輩は笑って答えたが、俺とふっかは顔を見合わせた。
「そういえば、先輩はここで夜遅くまで研究したことありますか?」
佐藤くんが興味深そうに尋ねた。
「あるわよ。でも、特に変なことはなかったかな」
山田先輩は答えたが、その表情は少し曇っていた。
「本当に何もありませんでしたか?」
ふっかがさらに追求した。
「まあ…時々、誰もいないはずの廊下から足音が聞こえることはあるけど、きっと他の研究室の人でしょう」
山田先輩は言葉を濁した。
昼間の研究は順調だった。最新の脳波測定機器を使って、運動時の脳活動を調べる。ふっかは機械に詳しく、複雑な設定もあっという間に理解していた。
「ふっか、すごいな。俺には全然わからない」
「照は体力があるから、被験者として完璧ですよ」
ふっかが俺の腕を見て感心していた。
「毎日トレーニングしてるからな」
俺は照れながら答えた。
実際に実験を始めると、俺とふっかの息はぴったりだった。俺が運動している間、ふっかは機器を操作してデータを取る。そして休憩時間には、ふっかが理論的な説明をしてくれて、俺は体験に基づく感想を述べる。
「息の合ったコンビですね」
田中先生も褒めてくれた。
「照と一緒だと、研究が楽しいです」
ふっかが微笑んだ。
「俺もふっかと一緒だと、難しい理論もわかりやすくて助かる」
俺も答えた。
ふっかとの共同作業は楽しかった。彼は頭が良く、俺が理解できない理論も分かりやすく説明してくれる。一方、俺は体力的な作業や、機器の設置などを担当した。
お互いの得意分野を活かした、理想的なパートナーシップだった。
しかし、夕方になると、俺たちは不安になってきた。
「今日は早めに帰りましょうか」
ふっかが提案した。
「そうだな」
俺も同意した。
しかし、片付けをしていると、またあの奇妙な匂いがしてきた。
「また、あの匂いが…」
ふっかが顔をしかめた。
「消毒液と…何か腐ったような…」
俺も眉をひそめた。
そのとき、研究室の温度が急に下がった。
「寒い…」
ふっかが身震いした。
暖房は入っているはずなのに、部屋の温度は氷点下のような寒さになっていた。
そして、古い実験台の上に、誰もいないはずなのに人の形が浮かび上がった。
透明な人影が、実験台の上で苦しんでいるような動きをしている。
「照…見える?」
ふっかが震え声で尋ねた。
「ああ…見える」
俺も恐怖で声が震えた。
人影は若い男性のようで、何かに縛り付けられて苦しんでいる様子だった。口を大きく開けて、悲鳴を上げているようだが、声は聞こえない。
よく見ると、人影の体には無数の傷があり、血のようなものが流れていた。
そのとき、研究室の本棚から本が一冊ずつ落ち始めた。
パラパラと落ちる本の音が、静寂を破る。
「逃げよう」
俺はふっかの手を掴んで、研究室を出ようとした。
しかし、扉が開かない。
「開かない…」
俺がドアノブを回しても、扉はびくともしない。
「窓は?」
ふっかが窓に向かったが、窓も開かなかった。
俺たちは研究室に閉じ込められた。
そして、実験台の人影がこちらを向いた。
顔は腐敗しており、目玉は飛び出している。口からは血のような液体が垂れていた。
人影が立ち上がり、俺たちに向かって歩いてきた。
「うわああああ!」
ふっかが俺にしがみついた。
俺はふっかを庇うように立ちはだかった。何があっても、ふっかは守らなければならない。
しかし、人影は俺たちの前で止まり、口を動かした。
音は聞こえないが、唇の動きで何を言っているかわかった。
『助けて』
人影は助けを求めていた。
そのとき、研究室に他の人影も現れ始めた。
みんな若い男性で、体には手術跡のような傷がある。実験着のような白い服を着ている者もいた。
「何人も…」
ふっかが震えながら呟いた。
人影たちは皆、俺たちに向かって手を伸ばしてきた。しかし、その手に触れられると、俺たちも同じ運命を辿ることになるのではないか。
「ふっか、俺の後ろにいろ」
俺はふっかを守るように立ちはだかった。
しかし、人影たちは攻撃してこなかった。ただ、助けを求めるように手を伸ばしているだけだった。
そのとき、研究室の奥から別の声が聞こえた。
「静かにしろ、実験体どもが」
その声は、人影たちとは明らかに違っていた。威圧的で、冷酷な響きがあった。
研究室の奥から、軍服を着た中年男性の霊が現れた。
それは、老人が話していた佐々木軍医に違いなかった。
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