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#ご本人様には関係ありません
たべ
4,892
hbkn、ngkn
今回もでない⬇⬇⬇
srkn
名前有モブがkntと仲が良い描写があります。
恋愛感情は一切ないです。
自分でもよく分からないことになった。
授業が終わり、僕たちは再び教室へと戻ってきた。
時計を見る。
時刻は、もうすぐ十三時。
[あ”ー……腹減った〜……]
平林が、自分の机に突っ伏しながら呻いた。
[なんか今日、移動多くね?]
[それな]
藤田も疲れたように息を吐く。
[授業遅れると怒るくせに、遅れる理由作ってんのあっちなのにな]
[あー……やべー…今日、怒りの沸点低いわ]
「それはいつもでは?」
[平林が原因]
「それはそうか」
[おい]
そんな、いつも通りの会話を聞きながら僕はふとある人物のことを思い出した。
「…………」
(……雲雀)
いつもなら、もうとっくに一年一組の教室へやって来ている時間だ。
『奏斗〜! 飯食おうぜ!』
なんて言いながら当たり前みたいに僕の前まで来て、中庭とか、空き教室とかで一緒に昼ご飯を食べる。
それが。
最近では、すっかり僕の日常になっていた。
「…………」
けれど今日は。
まだ雲雀が来ていない。
(……体調、大丈夫かな)
朝
雲雀の顔は、驚くほど真っ赤だった。
最初は何をしているんだと思ったけれど途中から普通に心配になった。
恋塚さんに保健室まで連れて行ってもらったけれど、あれからどうなったのだろう。
「…………」
(早退したのかな)
もし、まだ体調が悪いのなら無理をせずに休んでいてほしい。
雲雀は普段元気すぎるくらい元気だから。
『……おん』
なんてあんな小さな声で返事をする姿は、正直かなり心配だった。
「……」
(大丈夫だといいけど)
少しだけ胸の奥が落ち着かない。
別に雲雀がいないと何もできないわけではない。
けれど、
毎日のように一緒に帰って。
毎日のように昼ご飯を食べて。
毎日のようにどうでもいい話をしている。
そんな相手が急にいない。
「…………」
(……やっぱり)
(ちょっと、寂しいな)
ほんの少しだけ。
僕はそう思った。
そして
「…………」
(あ、)
そこで一つ別の問題に気づいた。
「…………」
(待って)
(僕今日お弁当……)
ない?
「…………」
(おっと)
(これは……)
僕はゆっくりと自分の机を見た。
(非常にまずい……)
[風楽?]
藤田が、不思議そうに僕を見る。
[どうした?]
[さあ?]
平林が僕の顔を覗き込む。
[腹でも下したんじゃね?]
[お前に彼女ができない理由が詰まってた]
[おい!!!]
二人の会話を聞きながら僕は恐る恐る口を開いた。
「……僕」
[ん?]
「今日」
[うん]
「お昼」
[うん]
「ないかもしれない……」
[[え?]]
二人の声が綺麗に重なった。
[家に忘れた?]
「いや……」
僕は少しだけ言いにくそうに視線を逸らす。
「その……」
[?]
「僕」
[うん]
「自炊能力が」
一度。
言葉を切る。
「乏しくって……」
[そうだな]
「早い早い早い」
即答された。
あまりにも早すぎる。
「ちょっとは考えて!?」
[いや、考える必要ある?]
「あるよ!」
[塩と塩コショウの違い分からなかったやつが何を言ってんだ]
「昔の話じゃん!」
[今月]
「最近じゃんけ!!」
思ったより、かなり最近だった。
「……で」
僕は少しだけ声を小さくする。
「そのぉ……」
[うん]
「僕のお弁当」
[うん]
「……毎回」
なぜかここから先が言いづらい。
「雲雀が作ってくれてて……」
[…………]
[…………]
二人の動きがぴたりと止まった。
「……?」
何だ、何か変なこと言ったか?
「だから……」
[…………]
「今日、雲雀が早退してたら」
[…………]
「お弁当、ないなって……」
[…………]
[…………]
「…………」
また沈黙。
「なんか言えよ!!!」
[……いや]
藤田がゆっくりと口を開いた。
[渡会の心配してたと思ったら、途中から弁当の心配になってたから]
「いや、心配してるよ!?」
[ほんとに?]
「ほんとに!」
僕は即答した。
「雲雀が体調悪いなら、そっちの方が普通に心配だよ」
[…………]
「朝だって、かなりしんどそうだったし」
[…………]
「いつもあんなにうるさい……じゃなくて」
[そこ訂正しろ]
「いつもあんなに元気な雲雀が」
言い直す。
「元気なさげに『……おん』って言ってたんだよ?」
[…………]
「そりゃ心配にもなるでしょ」
[…………]
「だから早退してるなら、ちゃんと休んでてほしいし」
少しだけ僕は視線を落とした。
「……無理して学校来てたら嫌だなって思う」
[…………]
[…………]
「……でも」
一度間を置く。
「僕のお昼ご飯はどうしよう」
[そこなんだよ!!!]
「だって重要じゃん!?」
[重要だけど!]
平林が勢いよく机を叩いた。
[お前の中で渡会の体調心配した直後に弁当の心配するなよ!!]
「別にいいじゃん!」
[よくねえよ!]
「雲雀は心配!」
[うん]
「でもお腹も減る!」
[うん]
「じゃあ両方心配するでしょ!?」
[その言い方だと、同列なんだよ!!]
「違うよ!?」
[じゃあどっちが大事?]
「雲雀に決まってるでしょ!?」
「…………」
「…………」
僕が答えた瞬間二人がぴたりと止まった。
「……?」
今度は何だ。
[……風楽]
[そこは即答するんだな]
[な、]
「当たり前でしょ?」
僕は少しだけ眉をひそめた。
「友達なんだから」
[…………]
[…………]
「……何?」
[いや]
藤田が小さく息を吐いた。
[それ聞けて、ちょっと安心した]
「何に?」
[何でもない]
[でも]
平林が僕を見ながら口を開く。
[風楽]
「ん?」
[渡会のこと、そこまで心配してるなら]
「うん」
[昼食べ終わったら、様子見にいったら?]
「……!」
そうだ、その手があった。
「行く!」
僕は勢いよく頷いた。
「雲雀がまだ学校にいるなら、顔だけでも見に行こう」
[……まあ、それならいいか]
「……で」
僕は二人を見る。
「その前に」
[?]
「僕のお昼」
[知らん]
「なんでだよ!!!」
[じゃあ久しぶりに学食行こうぜ。風楽も別に金持ってきてない訳じゃないだろ]
「確かにその手があった!! よし、学食行こう!!」
[決断はや]
「善は急げだよ!!」
[分かった分かった]
学食に向かうべく、僕は早速財布を探し始めた。
……のだが。
「あれー……どこやったっけ……」
[なにやってんだ奏斗]
「んー……なんか時間かかりそうだし、先行ってていいよ」
[了解。じゃあ俺ら席取っとくわー]
「あざっす!」
藤田と平林を先に行かせ、僕はもう一度鞄の中を探る。
日頃から財布を出す機会なんてほとんどないため、確実に鞄の中に入っているはずなのだが……教材を取り出しても、ノートをひっくり返しても、一向に姿が見えない。
(いや、まさかとは思うけど)
(財布なくした?)
一瞬だけ不安になったが、数分後。
「あ」
見つけた。
どうやら教材の間に綺麗に挟まっていたらしい。
「なんでこんなとこに……」
誰に聞かせるでもなく呟きながら、財布を手に取る。
とりあえず見つかってよかった。
藤田たちを待たせていることだし、僕は急ぎ足で教室を後にした。
学食に行くのは、実は今日が初めてだ。
もちろん入学してすぐの頃に校内を案内されたので、場所そのものはなんとなく覚えている。
……なんとなく。
「……多分、こっちなはず……たぶん」
口から出た言葉があまりにも頼りなくて、自分で言っておきながら少し恥ずかしくなった。
(いや、でも大丈夫)
(人間、なんとかなる)
特に根拠のない自信を胸に、僕は階段へ向かう。
そして、階段を下りようとした時だった。
「……ん?」
踊り場に、人影が見えた。
どうやら二人いるらしく、小さな話し声も聞こえてくる。
(誰だろ)
別に見てはいけないものを見るつもりはない。
……ないのだが。
(どうせなら最近熱い、四季凪×恋塚とか見てぇな)
そんな欲望丸出しの思考が頭をよぎってしまった。
いや、だって最近、妙に供給が多いのだ。
風紀委員会で仲良くなったと思ったら、生活指導週間では二人で会話しているところを何度も見かける。
しかもアキラは、ついに恋を自覚したらしい。
……僕の中では。
つまり今。
僕の人生は非常に充実している。
「…………」
興味本位。
本当に、ほんの少しだけ僕はそっと階段の向こうを覗いた。
そして
「…………」
思わず、目を見開く。
(……え)
(いる)
そこにいたのは四季凪アキラ。
そして恋塚ネネ。
「…………」
(言魂って)
(本当に存在するんだ……!!)
思わずよろける。
危ない。普通に階段から落ちかけた。
「…………」
(いや)
(なんで今、いるんだよ)
さっきまで。
(四季凪×恋塚見てぇな)
なんて思っていた。
思っていたら。
いた。
(怖)
言魂ってすごい。
いや、僕が何を言っているのか自分でもよく分からない。
でも今の僕には、そんなことどうでもよかった。
だって目の前には公式(?)からの供給がある。
「そうそう。顧問の先生が言ってたんだけど、次回の委員会で何か話し合いするらしいよ」
恋塚の声が聞こえる。
「えぇ、本当ですか」
アキラが少し困ったように眉を下げた。
「できれば、我々の気持ちも少しだけでいいので考えていただきたいですね」
「それなー」
どうやら話している内容は、普通に委員会のことらしい。
……ビジネス的な話である。
(まあ、そうだよね)
いきなり。
『アキラくんって好きな人いる?』
『いますよ』
なんて話になるわけがない。
分かってる。
分かってはいるのだが。
「…………」
(最近、公式の供給多くない?)
僕は心の中で、そっと拳を握った。
風紀委員会に入って恋塚ネネと仲良くなった。
四季凪アキラとも仲良くなった。
そして雲雀とも、今まで通り仲がいい。
攻略対象。
ヒロイン。
その両方と普通に話せる。
(……僕)
(めちゃくちゃいいポジションにいるのでは?)
しかも。
最近は、アキラから恋愛相談のようなものまで受けた。
本人はまだ、少し分かっていないようだったけれど。
それでも。
あの時アキラは確かに。
『選ばれるために頑張ります』
そう言った。
(ふふふ)
(これはもう)
(そのうち雲雀からも恋愛相談が来るのでは……?)
なんてそんな都合のいい妄想まで浮かんでしまう。
「…………ふふ」
思わず笑みが零れた。
「……?」
すると。
踊り場にいたアキラが、ふとこちらへ視線を向けた。
「……奏斗?」
「…………」
あ。
目が合った。
(やっべ、バレた……)
いや、別に悪いことをしていたわけではない。
ただ、たまたま通りかかって。 たまたま踊り場に二人がいるのを見つけて。 たまたま興味本位で覗いて。 たまたま四季凪アキラ×恋塚ネネの供給に興奮していただけだ。
……うん。
言葉にすると、普通に怪しいな。
「えっと……」
何か言おうとした。
「僕は決して怪しい者では──」
"逃げよう。"
なぜか。 本当に、なぜか。
僕の脳内でそんな結論が下された。
「…………」
そして。
「逃げよう」
「え?」
僕は踵を返した。
「ちょ、奏斗くん!?」
恋塚さんの声が聞こえた気がした。
けれど。
今の僕には関係ない。
(学食へ行かなければ……!!)
そもそも僕は、お昼ご飯を食べるためにここへ来たのだ。
藤田と平林が待っている。
これ以上、あの二人を待たせるわけにはいかない。
決して。
覗いていたことを追及されたくないから逃げているわけではない。
断じて。
「よし!!」
僕は勢いよく階段を駆け下りた。
「…………」
──そして。
二階から一階へ降りる途中。
「あ」
足を、踏み外した。
「…………え?」
一瞬。
何が起きたのか分からなかった。
足元から階段が消えたような感覚。
体がふわりと宙に浮く。
(……あ)
(これ)
(ヤバいやつでは?)
次の瞬間。
視界が、ぐらりと傾いた。
「うわ──」
声すら。
まともに出ない。
(これが……)
(タキサイキア現象……?)
※死ぬ前にスロモーションに見える現象
いや、違う気がする。
そもそも僕が今思い浮かべている言葉が、本当にそれなのかすら怪しい。
(というか!!)
(こんな時に考えることじゃないだろ僕!!)
勢いをつけて階段を降りていたとはいえ。
勢いが良すぎた。
というかいくらなんでも飛びすぎでは?
「…………」
体が空中に投げ出される感覚。
その浮遊感に遅れて恐怖がやってくる。
(……もう諦めた方が精神的に楽な気がしてきた……)
(この人生に悔いがあるとすれば、せめてセラフダズルガーデンを一目見たかった…)
僕は静かに目を閉じた。
そして来るであろう衝撃に備える。
──ガンッ!!
とか。
──ドサッ!!
とか。
そんな音を覚悟していた。
けれど。
「…………」
衝撃はいつまで経ってもこなかった。
「…………?」
あれ?
恐る恐る目を開ける。
すると。
視界いっぱいに映ったのは。
「……危なっ」
聞き慣れた声。
けれど。
今はなぜか少しだけ低い声だった。
「…………」
僕はゆっくりと視線を上げる。
「……アキラ?」
そこには。
僕をしっかりと受け止めている四季凪アキラがいた。
「奏斗」
「うん?」
「何をしているんですか」
「…………」
何をしていたんだろう。
改めて聞かれると僕にも分からない。
「……学食に行こうとしてた」
「それは察しできます」
「……はい」
「問題は」
アキラは少しだけ眉を下げた。
けれど。
僕を支えている腕は、まだ離れない。
「なぜ、私たちを見た瞬間に逃げたんですか?」
「…………」
やばい。
そっちも聞かれるのか。
(どうしよう)
(正直に言うべきか?)
『四季凪アキラ×恋塚ネネの供給を摂取していたら、見つかったので逃げました』
……駄目だ。
言えるわけがない。
「その……」
僕は視線を逸らした。
「なんか……急に……」
「急に?」
「学食に行かなきゃって思って……」
「…………」
「…………」
「……そうですか」
「うん」
アキラがじっと僕を見る。
ものすごくじっと見る。
「…………」
「…………」
(何でそんな見てくるの?)
僕が困っているとアキラは小さく息を吐いた。
「……奏斗」
「ん?」
「もう少し、周りを見てください」
「…………」
あれ?
今日それ藤田にも言われたな。
「藤田にも同じこと言われた」
「……藤田さんにも?」
「うん」
「なるほど」
なぜかアキラは納得したように頷いた。
「……では、私も言っておきます」
「え?」
「危ないので」
アキラはほんの少しだけ僕を支える腕に力を入れた。
「逃げるなら、せめて前を見て逃げてください」
「……逃げる前提なの?」
「奏斗の場合は」
「ひどくない?」
「事実ですから」
「…………」
反論できない。
すると。
「奏斗くん!!」
上の方から恋塚さんの声が聞こえた。
「あ、大丈夫!?」
「……多分」
「多分?」
「大丈夫だよ」
「本当に?」
「うん」
そう答えながら、僕は改めてアキラを見る。
「……アキラ」
「はい」
「助けてくれてありがとう」
「…………」
一瞬アキラが黙った。
何かを考えるように、ほんの少しだけ視線を伏せる。
そして。
「……これからは、私に連絡してくださいね」
「連絡?」
「はい」
アキラは真っ直ぐ僕を見る。
「今ので分かりました。奏斗は、思っていた以上に危なっかしいです」
「えぇ?」
「階段から落ちかけた人が何を言っているんですか」
「いや、それは……そうだけど」
反論できない。
「いつでも私がいるわけではないんですから」
「…………」
「あ」
なんか。
それ、
「それも藤田に同じようなこと言われたな……」
「…………」
アキラの表情がほんの一瞬だけ固まった。
「……そうですか……藤田さんが」
「うん?」
「奏斗に、そう言ったんですか」
「言ったけど?」
「…………」
何だろうさっきまで普通に話していたのにほんの少しだけ空気が変わった気がする。
「アキラ?」
「いえ」
アキラはゆっくりと眼鏡を押し上げた。
「……別に、それが悪いと言っているわけではありません」
「うん」
「藤田さんが奏斗を心配するのも、友人として当然でしょうし」
「うん?」
「ただ」
そこでアキラが言葉を切る。
「……奏斗も、何かあった時は藤田さんに頼るんですね」
「え?」
「いえ」
「……?」
何だ?
「もちろん、頼れる友人がいるのは良いことです」
「うん」
「私が口を出すことでもありませんし」
「うん?」
「…………」
何かちょっとずつ言ってることがおかしくなってないか?
「でも」
アキラは僕を見る。
「……次は、私にも連絡してください」
「アキラにも?」
「はい」
「でも、アキラも忙しい時とかあるでしょ?」
「あります」
「じゃあ」
「それでも」
「…………」
アキラの返事が思ったより早かった。
「……それでも、連絡してください」
「…………」
「無理なら無理だと、私が言いますから」
「いや、それはそうだけど」
「奏斗が勝手に、一人で判断する必要はありません」
「…………」
心配されている、めちゃくちゃ心配されている。
「……分かった」
「はい」
「今度から、何かあったらアキラにも連絡するね」
「…………」
その瞬間。
アキラの表情がほんの少しだけ柔らかくなった。
「……はい」
「藤田だけじゃなくてね」
「……それがいいです」
「ん?」
「いえ」
アキラは、ふっと視線を逸らした。
「……何でもありません」
「?」
やっぱりよく分からない。
すると。
「奏斗くん」
恋塚さんが、少し呆れたように声をかけてきた。
「学食に行くんじゃなかった?」
「あ」
そうだった。
「いつまでもここにいたら、時間なくなっちゃうよ?」
「…………」
僕は時計を見る。
「うわ」
普通に時間が経っている。
「やっば……!」
藤田と平林。
まだ待ってるよな?
……待っててほしい。
「じゃあね! 二人とも!」
僕は慌てて踵を返した。
「もう走らないでよね!」
恋塚さんの声が背中から飛んでくる。
「うっ……検討します!!」
「検討じゃなくて約束して!」
「善処します!!」
「それも違うよ!?」
恋塚さんのツッコミを聞きながら、僕は階段へ向かう。
もちろん。
今度は走らない。
……多分。
「…………」
その背中をアキラはしばらく黙って見つめていた。
「……藤田さん」
「ん?」
恋塚さんが不思議そうに首を傾げる。
「何でもありません」
「……そう?」
アキラは、奏斗が去っていった方向へ視線を向けたまま。
小さく息を吐いた。
「……別に」
誰に言うでもなく。
「藤田さんだけが、奏斗を心配できるわけじゃないでしょう」
「え?」
「……何でもありません」
そう答えたアキラの表情は。
少しだけ不満そうだった。
けれどその理由を本人ですらまだ、上手く言葉にはできなかった。
「ごめん……待った?」
[当たり前だろ。心配させんな]
[そうだぞ。危うくご飯に手をつけそうになってしまったじゃないか]
「ごめんごめん! ほら、食べよう!」
[そうだな。風楽のせいで時間も迫ってきてるし]
「返す言葉もございません……」
[いただきまーす]
昼食を食べ終えた僕たちは、藤田と平林、そして僕という感じで二手に分かれた。二人が教室へ戻る中、僕は残りわずかな時間を使って保健室へ向かうことにする。
なぜか二人には、ものすごく念を押された。
特に藤田には。
[いいか。渡会とは半径一メートル以上離れるんだぞ]
「ハンケイイチメートルイジョウ」
[そう。そして無駄な会話はしない。渡会から何か言われても『もう授業始まるから』とでも言って逃げるんだ]
「モウ、ジュギョウハジマルカラ」
[よし、いいな……行ってよし!]
「わーい!!」
[気をつけろよ〜]
何に気をつければいいんだろう。
そんな疑問を抱えながらも、僕は学食を後にした。
学食と保健室は同じ階にあったため、移動にはそこまで時間がかからなかった。
……もちろん、走ってません!
ちゃんと歩きました。
偉いぞ、僕。
保健室の前までやって来た僕は、扉を三回ノックする。
コンコンコン。
そして、そっと扉を開けた。
「失礼しま〜す……渡会くん、いますか?」
すると、正面の机に座っていた保健室の先生が顔を上げた。
[あー、渡会くんね? お友達?]
「あ、はい……」
[私はもう出張だから、もう帰れって言ってるんだけどね……]
先生は、少し困ったようにため息をつく。
[まあ、こんなこと生徒に言っちゃだめだけどね。じゃあ、ごゆっくり]
「え?」
[さようならー]
「……あ、さようならです」
先生が保健室を出ていくと、室内は一気に静かになった。
僕は改めて保健室の中を見渡す。
すると、奥の方に一箇所だけ、カーテンが閉め切られている場所があった。
(あそこか)
なんとなく察して、僕はそちらへ向かう。
「ひば──」
その瞬間。
視界が、ぐるんと回転した。
「……っ!?」
一瞬。
何が起きたのか分からなかった。
けれど、その感覚には覚えがある。
(うわ、これ……!)
先ほどの踊り場で起きた、あの悲劇。
階段を踏み外し。
体が宙に浮き。
視界がぐるんと回転した、あの出来事。
条件反射だった。
僕は思わず、ぎゅっと目を閉じる。
また衝撃が来る。
そう覚悟した。
……けれど。
いつまで経っても、何も来ない。
「…………?」
恐る恐る目を開ける。
すると。
目の前には。
「ばっ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「驚いた!?」
満面の笑みを浮かべた、渡会雲雀がいた。
「ふっざけんなテメェ!!」
思わずキレた。
ガチで。
すると雲雀は、僕がここまでの反応をするとは思っていなかったのか、ぽかんとした顔をする。
「えぇ……そんな言う?」
「言うだろ!!」
「えー」
「びっくりしたんだけど……!」
心臓がまだバクバクしている。
怖くなかった。
……と言ったら、嘘になる。
というか。
普通に怖かった。
そのせいだろうか。
気づけば僕は、雲雀にしがみついていた。
「…………」
「……びっくりした」
僕が小さくそう呟くと。
雲雀は一瞬だけ、ぴたりと動きを止めた。
「……奏斗?」
「何」
「いや……」
雲雀は、さっきまでの悪戯っぽい笑顔を少しだけ引っ込める。
そして。
「……ごめん」
珍しく。
本当に申し訳なさそうな声だった。
「……反省してる?」
「してる」
「本当に?」
「本当に」
「じゃあ、もうやらない?」
「……それは」
「やるんだ」
「ごめんなさい」
「よろしい」
僕は、ようやく少しだけ力を抜いた。
……それにしても。
雲雀。
体調悪かったんじゃなかったのか?
さっきまで真っ赤な顔で、まともに返事もできなかったのに。
今は普通に悪戯を仕掛けてきた。
「……雲雀」
「ん?」
「体調は?」
「もう大丈夫!」
「本当に?」
「うん!」
いつもの雲雀らしい、元気な返事。
それを聞いて。
僕は少しだけ安心した。
「……そっか」
「心配してくれてた?」
「そりゃするでしょ」
「……!」
「だって、朝からずっと変だったじゃん」
「……まあ」
「保健室まで来たのも、雲雀が心配だったからだし」
「…………」
なぜか。
雲雀が黙った。
「……雲雀?」
「いや」
雲雀は少しだけ視線を逸らす。
「……なんでもない」
「?」
よく分からない。
けれど。
体調が戻ったなら、それでいいか。
僕はそう思いながら、まだ少しだけ雲雀の服を掴んでいた。
……完全に離れるタイミングを、失っていただけなのだが。
雲雀はそんな僕を見てなぜかものすごく嬉しそうに笑っていた。
「失礼します」
「「え」」
僕の声と雲雀の声が、綺麗に重なった。
(なんでここにアキラが来たの……?)
思わず固まる。
僕が知らないだけで、ゲームにはこんな裏イベントまで存在していたのか? それとも、単純にアキラが雲雀の様子を見に来ただけなのだろうか。
「……」
その隣で、雲雀がなぜか無言のまま僕の背中に腕を回してきた。
「……ん?」
なんで今?
別に嫌なわけじゃないけど、タイミングがよく分からない。
そんなことを考えていると。
「奏斗、どこですか?」
「え、僕?」
思わず声が漏れた。
どうやらアキラは、雲雀ではなく僕を探しているらしい。
すると雲雀が素早く僕の口元を手で押さえた。
「むごっ!?」
(ちょ、雲雀!?)
何をするんだと思って振り返ろうとすると、雲雀は反対の手で人差し指を立て、それを自分の口元へ持っていく。
「……」
しーっ。
どうやら、喋るなということらしい。
(なんで!?)
理由はさっぱり分からない。
けれど、ここで騒ぐのもなんとなく悪い気がして、僕は渋々首を縦に振った。
「奏斗ー、いるなら返事してくれー」
「…………」
(……なんで雲雀は僕を喋らせてくれないんだろう)
そもそも、僕は何も悪いことをしていない。
普通に保健室へ来ただけだ。
むしろ心配して様子を見に来た側なのに、なぜか今は隠されている。
「……しょうがない」
アキラが小さく呟いた。
その直後。
シャッ。
別の場所のカーテンが開く音がした。
「…………」
それを聞いた瞬間、雲雀の身体がびくっと跳ねた。
(え、なんでそんな焦ってるの?)
そして。
何を思ったのか。
雲雀は僕を抱きしめるように腕を回したまま、ベッドへ身体を倒した。
「ちょっ──」
声を出す間もなく、布団が僕たちの上へかぶせられる。
「…………」
僕は完全に布団と雲雀の腕の中へ収まっていた。
雲雀は布団から顔だけを少し出している。
後ろから抱きしめられているせいで、雲雀の息が首元にかかり、少しくすぐったい。
(……何してるんだ、こいつ)
僕は心の中で首を傾げる。
別に隠れる必要なんてないだろう。
アキラに見つかったところで、僕は何も困らない。
それなのに。
雲雀は僕を離そうとしない。
「…………」
カーテンの開く音が、少しずつ近づいてくる。
シャッ。
また一つ。
シャッ。
また一つ。
そのたびに、僕の心臓まで妙に大きく鳴っている気がした。
別に緊張するようなことじゃない。
ただアキラが保健室にいるだけだ。
そう自分に言い聞かせる。
そして。
「たらい」
ついにアキラが僕たちのいる場所までやって来た。
「……アキラ」
雲雀が小さく返事をする。
「たらい、奏斗を知りませんか?」
「…………」
一瞬の沈黙。
「……いや、知らんね」
(いや、いるんだけど)
思わず突っ込みそうになる。
というか、今の状況でその返答は無理がないか?
僕は雲雀の腕の中に完全に隠されている。
どう考えても怪しい。
「……そうですか」
アキラの声が少しだけ低くなった気がした。
「すみませんね、体調不良の中」
「いいってことよ。じゃあ俺はもう寝るべ」
「はい。失礼しました」
アキラの足音が、少しずつ遠ざかっていく。
「…………」
「…………」
やがて保健室が静かになった。
「……もういいかな?」
僕が小声で尋ねると、雲雀の腕がようやく緩む。
「……おん」
「なんで僕を隠したの?」
「…………」
「雲雀?」
「いや……」
雲雀は少しだけ困ったように笑った。
「……なんとなく?」
「なんとなくで人を布団に隠すなよ」
「ごめん」
「……まあ、いいけど」
僕は布団から顔を出す。
すると保健室の入口を見つめたまま、雲雀がぽつりと呟いた。
「……アキラに見られたくなかったんよ」
「え?」
「…………なんでもない」
「?」
よく分からない。
僕には、雲雀が何をそんなに気にしているのかさっぱりだった。
ただ。
さっきのアキラの声を思い出す。
『奏斗を知りませんか?』
いつもと変わらない声だった。
……ような気もする。
でも。
「…………」
ほんの少しだけ。
何かを探るような、そんな響きがあった気がした。
そしてアキラは。
僕がここにいることを知らないまま、保健室を出ていった。
(……まあ、いっか)
僕は深く考えないことにした。
今の僕にとって大事なのは、雲雀が本当に体調を崩していないかどうかだ。
「雲雀、もう大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「そっか」
それならよかった。
僕はそう思いながら、ようやく雲雀の腕の中から抜け出した。
「……やっぱり奏斗、いたんですね」
心地よいテノールが、静かな保健室の中をすっと通り抜けていく。
普段の僕なら、「いい声だな」なんて呑気に思っていたことだろう。
だけど、今の僕はそれどころじゃない。
なにせ、雲雀が「奏斗は知らない」と言った直後に、本人がベッドの上から出てきたのだ。
しかも、さっきまで雲雀に抱きしめられていた。
状況だけ切り取れば、完全にアウトである。
「ぎゃああああああ!!!」
僕の叫び声が保健室中に響き渡った。
────
「落ち着きました?」
しばらくして、アキラが手に持っていたペットボトルを僕に差し出してくる。
「ありがとう、アキラ……助かる」
「いえ、どうってことないです」
水を一口飲みながら、ようやく呼吸を整える。
それから僕は、少し離れたところにいる雲雀へ視線を向けた。
「……それで、たらいは」
「ん?」
「なぜ奏斗のことを隠したんですか?」
「……」
雲雀が黙り込む。
さっきまであんなに堂々としていたくせに、急に目を逸らした。
「……したかった」
「え? なんて?」
聞き返すと、雲雀は一度こちらを見て、それから観念したように口を開いた。
「だから、奏斗を独り占めにしたかったって言ってんだよ!!」
「……」
「……それだけ?」
アキラが静かに問いかける。
雲雀は少しだけ気まずそうにしながら、それでも言葉を止めなかった。
「だって最近、奏斗全然俺に構ってくんないじゃん!!! ずっと委員会、委員会ってなんだよ!!」
「いや、風紀委員会は僕が自分で選んだものなんだから……」
「俺と委員会、どっちが大切なわけ?!」
「そりゃあ、雲雀も大切だけど、自分で選んだ委員会なんだから人一倍頑張らないといけないでしょ」
「……う゛」
雲雀が見事に言葉を詰まらせる。
どうやら正論には弱いらしい。
そんな僕たちのやり取りを見ていたアキラが、ふっと息を吐いた。
そして次の瞬間、僕の後ろからそっと腕を回してきた。
「うわっ!?」
突然のことに肩が跳ねる。
「……え、なんでアキラまで?」
「……たらいばっかり、ずるいです」
「アキラもその理由かいな……」
まさかの二人目。
しかもアキラは雲雀ほど身長差がないせいか、余計に距離が近く感じる。
僕としては、なぜ二人がこんなに僕を構いたがるのか、さっぱり分からない。
ただ、二人とも最近忙しくて寂しいのだろう。
うん、きっとそうだ。
「アキラ! 奏斗から離れろよ!!」
雲雀が露骨に不満をぶつけてくる。
「嫌です」
アキラは即答だった。
「というか……見ていて分かりやすすぎるんですが」
「……」
「私と同じ気持ち、ということでよろしいですか?」
一瞬、保健室の空気が止まった。
雲雀はアキラを見つめ、それから僕へ視線を移す。
そして、少しだけ頬を膨らませながら答えた。
「……そうだよ!!」
「そうですか」
アキラは妙に納得したように頷く。
「では、遠慮する必要はありませんね」
「いや、何の話!?」
僕だけが話についていけていない。
雲雀もアキラも、何かを分かり合ったような顔をしているのに、肝心の僕にはその会話の意味がまったく分からない。
「……えぇ、なになに、僕だけ置いていかれてるんだけど」
僕の呟きに、二人は同時にこちらを見る。
その視線が妙に真剣だったので、僕は思わず首を傾げた。
(……やっぱり、攻略対象同士って何か通じ合うものがあるのかな)
そんな、とんでもなくズレた結論にたどり着いている僕を置き去りにして、二人の間には静かな火花が散っていた。
「……とりあえず」
アキラが僕の後ろから腕を離し、眼鏡の位置を直す。
「奏斗、今日はもう教室に戻りましょう」
「分かった」
雲雀は僕のほうへ一歩近づいてくる。
そして、そのまま僕の手首を掴んだ。
「じゃあ、一緒に戻ろ」
「え?」
「教室まで」
「いや、僕は一人で戻るけど」
「…………」
雲雀の表情が固まった。
(あれ?)
なんだろう。
さっきまで普通に喋っていたのに、急に空気が重くなった気がする。
「……私は奏斗と戻ります」
アキラが淡々と告げた。
「なんで?」
「なんでって……」
アキラが少しだけ眉を下げる。
「奏斗、一人にすると危なっかしいので」
「それはさっきも言われたけど……」
「なら、なおさらです」
「えぇ……」
どうやら僕の扱いは、すっかり要介護認定でも受けたらしい。
階段から落ちかけたくらいで、そこまで心配されるものなのだろうか。
「じゃあ三人で戻ればいいんじゃない?」
僕がそう言うと、雲雀とアキラが同時に黙った。
「……」
「……」
「?」
なんで二人とも黙るんだ。
僕としては平和的な解決案を出したつもりなんだけど。
「……まあ、いいです」
先に口を開いたのはアキラだった。
「私は構いません」
「俺も」
雲雀も渋々頷く。
「じゃ、決まりね」
僕は二人の間に立って、保健室の出口へ向かう。
すると、
「奏斗、こっち」
雲雀が僕の右腕を取った。
「え?」
その直後、
「奏斗はこちらです」
アキラが僕の左腕を取る。
「……」
右に雲雀。
左にアキラ。
まるで僕が両側から護送されているような状態になった。
「いや、ちょっと待って」
僕は二人を交互に見る。
「なんで腕掴んでるの?」
「……別に」
「……なんとなくです」
「なんとなくで左右から挟まれることある?」
僕の問いに、二人は答えなかった。
そのまま僕たちは保健室を出る。
廊下を歩き始めても、二人とも僕の腕を離そうとしない。
(……もしかして)
僕はふと、二人の顔を見る。
雲雀はどこか不満そうで、アキラは妙に静かだ。
(やっぱり、攻略対象同士で張り合ってるんだ)
たぶんそうだ。
きっと恋塚を巡って、互いに意識しているのだろう。
ゲームでもこういうイベントはあった。
攻略対象同士がヒロインを巡って牽制し合う、いわゆる三角関係イベント。
つまりこれは
「……なるほど」
「何がですか?」
アキラが僕を見る。
「いや、なんでもない」
僕は小さく頷いた。
(恋愛イベント、着実に進んでるなぁ)
「……奏斗」
雲雀が僕を呼ぶ。
「ん?」
「今日、放課後一緒に帰ろ」
「いいよ」
「……ほんと?」
「うん」
雲雀の顔がぱっと明るくなる。
それを見たアキラの足が、ほんの一瞬だけ止まった。
「……」
「アキラ?」
「いえ」
アキラはすぐに歩き出す。
「私も、放課後は奏斗と一緒に帰ります」
「え?」
「だめですか?」
「いや、だめじゃないけど……」
雲雀が横から口を挟む。
「いーや俺"と"、奏斗で帰る」
「……」
「私と」
「俺と」
「……」
僕は二人の顔を交互に見る。
「……なんで急に?」
二人とも答えない。
ただ、どちらも譲るつもりはなさそうだった。
(……すごいな)
僕は思った。
(攻略対象同士のライバル意識って、こんなに分かりやすいものなんだ)
そんな僕の横で、雲雀とアキラは互いを見ていた。
「……たらい」
「なに?」
「負けないから」
「……俺も負けるつもりないからな」
「?」
僕には、その意味が最後まで分からなかった。
ng編終了です。ほぼhb+ng×knでしたが😇😇
次回からはsr編です。
sr編のネタ思いついてないので少し時間がかかりそうです。
コメント
3件
コメント失礼します💞今回も素晴らしい作品をありがとうございます!!kntの純粋さが際立って、違う意味の三角関係になっているのが好きすぎました😼💝次回も楽しみにしてます!!