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「え?司会の依頼ですか?」


8月に入ってすぐ。

瞳子は千秋から意外な話を聞かされた。


「そうなの、ぜひ瞳子に司会を頼みたいって。最初はいつもみたいに断ってたのよ。でもよくよく聞いてみたら、これは引き受けてもいいんじゃないかと思って、一旦保留にさせてもらったの」


「あの、どういう依頼でしょうか?」


戸惑い半分、嬉しさ半分で聞いてみる。


「スカイハイプロモーションって会社、知ってる?芸能人の大手プロモーション会社なんだけどね。そこの社長さんの誕生日パーティーの司会ですって。なんでも、所属タレントさん達が主催して、社長の為に開くパーティーみたいよ」


「はあ…。そんな方々が、どうして私を司会に?」


「それがね、中心になって準備してるのが、あの谷崎 ハルなんだって」


え!っと瞳子は、懐かしい名前に驚く。


「谷崎さんもそこに所属してる女優さんで、以前イベントでお世話になった瞳子にぜひ今回の司会をやって欲しいって言ってるそうよ。私が、芸能人が多く集まるパーティーは…って渋ってたら、完全プライベートだから大丈夫って。取材や撮影は一切ないし、参加メンバーも有名人ばかりだから、SNSへの投稿もお互いしないことってなってるみたい。瞳子があの一件でマスコミのターゲットになったこともご存知で、その点も配慮するから心配しないでって。どう?受けてみる?」


瞳子は少し考えてみる。


だが、すぐにやってみたい気持ちが湧いてきた。


何より、あの谷崎 ハルが自分を指名してくれたのだ。


ありがたいし嬉しくて、断る気にはなれない。


「千秋さん、そのお話やらせていただきたいです」


「そう!分かったわ。先方にも早速連絡しておくわね」


「はい、ありがとうございます」


久しぶりの司会、そしてまた谷崎 ハルに会えることに、瞳子は胸がワクワクして待ち遠しくなった。




「間宮さん!お久しぶり」


「お久しぶりです、谷崎さん。この度はご依頼いただき、本当にありがとうございます」


「こちらこそ。引き受けてくれてありがとう!」


パーティー当日。


準備の為に早めに訪れた貸し切りのレストランで、瞳子は谷崎と手を取り合って再会を喜ぶ。


久しぶりに見る谷崎は相変わらず明るく、ドレスアップした姿は、テレビに映らないのがもったいない程美しかった。


「ねえ、クリスマスにまたホーラ・ウォッチが新作モデルを出すでしょ?その時のイベントでも会えるかしら?」


屈託のない笑顔で聞かれ、瞳子は少し戸惑う。


「どうでしょう?先方が別の人に依頼するかもしれませんし…」


それにあの時の自分の写真が一般人のSNSで拡散され、倉木 友也の相手として騒がれたことを考えると、控えた方がいい気がした。


視線を落として思案していると、谷崎が真剣に話しかけてきた。


「間宮さん、今はもう状況は落ち着いた?」


「え?あ、はい。お陰様で元の生活に戻っています。ただ、表立って司会の仕事はまだ出来ませんが」


「そう。あのね、私、去年TVジャパンのドラマの主演に決まった時、倉木さんにインタビューしてもらったの」


「あ、そうですか…」


突然の話題に、瞳子は面食らう。


「私、初主演で緊張してたし、なんて答えたらいいのか分からなくておどおどしてたら、倉木さん、私を気遣ってとっても真摯に丁寧にインタビューしてくれて。優しい人だな、思いやりが滲み出てるなって思ったの。だから今回の騒動、私もすごく胸が苦しくてね。倉木さんも間宮さんも、こんなふうに言われる筋合いなんてない!お二人のこと何も知らないで勝手なこと言わないで!って、一人で憤慨してたの」


「谷崎さん…」


自分の知らないところで、そんなふうに思ってくれていたなんて…と、瞳子は胸が熱くなった。


「今日、間宮さんの元気そうな姿が見られて良かった!」


(ひょっとしてその為に、今回の司会を依頼してくれたのかしら?だとしたら、谷崎さんこそ優しくて思いやりに溢れる人だわ)


瞳子は谷崎に感謝して、今日の司会も精いっぱい努めようと思った。





谷崎と簡単な打ち合わせをしていると、続々とゲストが到着し始めた。


皆、テレビでよく見る女優やモデル、タレントばかりで、あまりの華やかさに瞳子は気後れしそうになる。


そして最後に、何も知らされていなかった60代の女性社長が現れた。


「え、何?みんなどうしてここに?ハル、今夜は私と食事する約束じゃなかった?」


「ふふふ、社長!今夜はみんなが社長のお誕生日をお祝いしたくて集まったんです。ほら、座ってください」


谷崎に促されて、本日の主役の社長が花で飾られた前方のテーブルに着く。


いよいよパーティーの始まりだ。


谷崎が瞳子に目配せし、頷いた瞳子はマイクを握りしめた。


「皆様、本日は鎌田社長のお誕生日パーティーにようこそ!早速ですが、乾杯のグラスはお手元に届きましたでしょうか?」


はーい!とあちこちから返事が返ってくる。


「それでは谷崎 ハルさん。乾杯の音頭をお願いいたします」


谷崎は社長の近くに歩み出る。


「えー、社長!いつも私達を時には厳しく、時には…厳しく、励ましてくださってありがとうございます」


「何よそれー?いっつも厳しいみたいじゃない」


社長が不服そうに言うが、あはは!事実でーすと、周りからも声が上がった。


「とにかく!いつも私達を見守ってくださって、本当にありがとうございます。今夜は日頃の感謝を込めて、みーんなで社長をお祝いしたいと思います。社長、お誕生日おめでとうございます!」


おめでとうございまーす!と皆で声を揃えてグラスを掲げる。


「ありがとう!みんな。これからもビシバシ鍛えていくわよ」


「お手柔らかにお願いしまーす」


食事を食べながら、ゲストが順番にお祝いのスピーチをしていく。


また、今夜は仕事で来られなかった人や関係者からのビデオレターも上映された。


社長はさすが大手プロモーション会社を経営しているだけあり、エネルギッシュで豪快によく笑う。


パーティーの雰囲気も和気あいあいとしており、瞳子も久しぶりの司会を楽しく終えられた。


無事にお開きとなり、帰り支度をする社長に瞳子も挨拶する。


「鎌田社長、本日はありがとうございました。僭越ながら、わたくしからもお祝い申し上げます。お誕生日おめでとうございます」


「あら、ありがとう!あなたの司会ぶり、良かったわよ。それにとびきりの美人ね。うちに所属して、芸能活動もやってみない?」


「いえいえ!そんな。わたくしなど滅相もない」


「そう?あなたなら売れるわよ。気が向いたら連絡してね」


ポンポンと瞳子の肩を叩いてから、社長は会場をあとにした。




「間宮さん、今夜はどうもありがとう!おかげで楽しいパーティーになったわ」


ゲストを全員見送ってから、谷崎が瞳子のもとにやって来た。


「谷崎さん、お疲れ様でした。こちらこそありがとうございます。皆様、素敵な方ばかりですね。社長もとってもパワフルな方で」


「そうなの、パワフル!もうね、ほんとに65歳ですか?って突っ込みたくなるくらい」


そう言って谷崎は、ふふっと可憐な笑みを浮かべる。


可愛いなあと見とれていると、ねえ、まだ時間ある?と聞いてきた。


「あ、はい。大丈夫です」


「そう?じゃあ少しコーヒーでも飲まない?デザートも残ってるし。あと30分貸し切りの時間もらってるから」


ビュッフェカウンターのケーキを皿に載せると、瞳子は谷崎とテーブルに向かい合って座った。


「んー、美味しい!いくつでも食べられそう」


「ほんとですね。お料理もとっても美味しそうでした」


「あ!間宮さん、司会やっててあんまり食べてなかったわよね。待ってて、今取ってくるから」


「いえ!そんな。大丈夫ですから」


「いいから、座ってて。ね?」


キュートな笑顔にひるんだ隙に、谷崎はカウンターからパスタやサラダを手際良く盛り付けて戻ってきた。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます!すみません、わざわざ」


「ううん。それにしても間宮さん、本当にスタイルがいいわね。170cm超えてるでしょ?」


あ、はい…と小さく頷く。


「羨ましいな。私もそれくらい高ければ良かったのに」


「ええ?!谷崎さんは今でも充分だと思います」


「ありがとう!ない物ねだりなだけね。ひょっとして間宮さん、本当は自分のスタイルの良さも綺麗な顔立ちも、あまり嬉しく思ってない?」


え…と瞳子は言葉に詰まる。


「私は別に、スタイルも顔も普通ですし…」


「またまたー、そんな訳ないでしょ?でもやっぱりそうか。普通が良かったなって思ってるのね?」


何と答えていいのか分からず、瞳子は思わず視線を落とす。


「間宮さん、もし芸能界に入っていれば、自分の容姿に自信が持てたと思うわよ?背が高くて胸もあって顔も綺麗で…。私みたいにあなたに憧れる女優はたくさんいたと思う。お仕事も、モデルやCMの契約、何だって取れるんじゃないかな?でも…」


そこまで言って、谷崎は一度言葉を止めた。


「間宮さんの幸せは、そこにはないのよね?」


しばし考えてから、瞳子は小さく頷く。


「私は…本当に普通がいいんです。他の人と同じように、ごく普通の恋愛をして、結婚をして、出来れば子どもも欲しくて…。ただそれだけなんです」


「そっか…」


谷崎は呟くようにそう言うと、仕切り直すように明るく瞳子に笑いかけた。


「ねえ、良かったら連絡先交換してもいい?」


「え、ええ?!私が、谷崎さんのような方と?」


「やだ、そんな大げさな。私達、年齢も近いし話も合うから、単に友達になりたいの。『ごく普通』の友達。ね?」


「ごく普通の…」


瞳子はなんだか嬉しくなり、互いの連絡先を交換する。


「わーい、やった!これでいつでも間宮さんとおしゃべり出来る!よろしくね」


「はい、こちらこそ」


二人は、ふふっと微笑み合った。

極上の彼女と最愛の彼

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