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「……歌うだと? この絶望の深淵の中で、まだそんな無意味なことを!」
女王セレナが杖を振り上げると、地底から溢れ出した「嘆きの音」が巨大な影の獣となり、三人を飲み込もうと口を開いた。
「無意味じゃない! ……セレナ様、あなたの胸にあるそのペンダント……。
本当は、あなたも音楽を愛していたはずだ!」
元貴が叫ぶ。彼の猫耳は、セレナの心臓が奏でる、悲しく震える不協和音を聴き逃さなかった。
元貴は、透けかかった指でノートを強く握りしめた。
「若井、涼ちゃん……準備はいい? ……今まで集めてきたすべての音符を、今ここで『逆唱』に変えるんだ!」
「おう、任せろ! ……この右腕が動かなくたって、魂のリズムは刻めるぜ!」
若井が左手で剣を地面に突き刺し、背負ったリュートの弦を力強く、かつてないほど繊細に弾き始めた。
「僕の耳は、もう片方しか聞こえない。
……でも、二人の心の音は、今までで一番大きく響いてるよ!」
涼ちゃんがフルートを構え、風を操って影の獣の動きを封じる。
三人の中心で、元貴が天を仰いで歌い出した。
「——……♪」
それは、1から集めてきた十七個の音符を、時間の流れに逆らうように遡っていく旋律。
『反逆』から『覚悟』へ。
『継承』から『再生』へ。
そして、あの花畑で刻んだ『共鳴』へ。
元貴の歌声に合わせ、ノートから光り輝く音符たちが飛び出し、セレナの放つ黒い霧を黄金色に変えていく。
「……あ、……あぁ……」
セレナの手が震え、杖が床に落ちた。
三人の奏でる「欠けた音」の重なりは、完璧な静寂よりも美しく、彼女が何百年も押し殺してきた「音楽への愛」を無理やりこじ開けたのだ。
その瞬間、ノートに十八個目、十九個目の音符が刻まれた。
『赦し』。
『愛(アガペー)』。
「……元貴……。……私は、……ただ、この楽園を守りたかっただけなのに……」
セレナの目から、初めて一筋の涙がこぼれ落ちた。影の獣は光に浄化され、温かな春の風となって玉座の間を吹き抜ける。
しかし、最後の最後で、地底に溜まった数千年分の「絶望の澱(おり)」が、最後の足掻きとして元貴の体を引きずり込もうと襲いかかった。
「元貴!!」
若井が叫び、不自由な右腕を伸ばす。
その時、動かないはずの右腕が、元貴の透ける手を掴むために、奇跡のように動いた。
「……掴んだぞ! 絶対に離さねえ!!」
「滉斗、僕も支えるよ!」
涼ちゃんが二人を抱きしめるように風の盾を張る。
三人の魂が完全に一つになったその時、ノートの最後のページに、二十個目の音符が刻まれた。
『自由(リバティ)』。
二十個の音符が揃い、伝説の楽譜が完成した。
まばゆい光が塔全体を包み込み、エデンの歪んだシステムが崩壊していく。