「そんな事?そんなの決まってる……ミシェルが、僕の愛しいエミリアを殺したからだよ」
瞬間、レナードの言葉に部屋の中は、静まり返った。
「ミシェル、が……人を殺した……」
信じられない。あの優しいミシェルが、人を殺めるなんて。ヴィオラは、驚愕し手を握り締めると、身体が震えてきた。
「僕はミシェルの事を、弟の様に可愛がってあげていたんだよ。それなのに、ミシェルは、僕のエミリアを蔑ろにして、尚且つあんな暴言を吐き捨て……それで、彼女は……」
レナードの話によれば、幼馴染であり想い人のエミリアは、ミシェルを好きなり、想いを告げるも、振られてしまった。
だが、それでもエミリアは諦める事が出来ずに、ミシェルにしつこく付き纏った。そんなある日、我慢の限界だったミシェルは、エミリアに暴言を吐いたそうだ。その事でエミリアは絶望してしまい、自ら命を絶ってしまった。
「ミシェルの所為で、彼女は死んだ。赦せなかった。それに思ったんだ……エミリアが、あの世で1人なんて寂しがるだろう?ミシェルが一緒に逝けば、今度こそあの世で結ばれる事が出来るしね。僕の優しさなんだ」
ミシェルを国王の護衛団に推薦したのは、レナードだった。
「初の大役に抜擢されて、ミシェルは喜んでいたよ」
そして、レナードの従者も一緒に同行させ、後は隙を見て殺害させた。その時、レナードはというと、城で優雅にお茶をしながら報告を待っていた。
そして、ヴィオラに近付いた動機は。
「ミシェルが死ねば気も晴れると思ったんだ。でも変なんだよ、実際はミシェルが死んでも、怒りは全く収まらなくてね。それなら、ミシェルの何よりも大事にしていた姉を奪ってやろうと思っんだ。それでもって、手籠にした後に、ボロボロにして捨ててやろうと思った。
そうすればきっと、あの世でミシェルは悔しがり、怒りに震えるに違いないからね。ミシェルは、二言目には、姉さん、姉さん言っていたから」
レナードの狂った思考に、その場の誰もが唖然とするしかない。テオドールだけは、冷ややかな視線を向けていた。
「でもね、ヴィオラ。君と出会って、僕は君を好きになってしまったんだ。きっかけは復讐の為だけど、僕は君を愛してる」
レナードのヴィオラを見る目は、狂気に満ちている。
「君を好きだと、愛していると自覚した瞬間、どんな事をしてでも、君を手に入れたくなったんだ。君が、記憶喪失になった時、絶好の機会だと思ったのに、いつの間にか記憶は戻ってるし。あのままだったら、君は何も知らず幸せでいられたのに…………しかも、どうして歩ける様になってるの……本当、残念で、誤算だらけだよ」
レナードが言ってる事が理解出来ない。彼は何を言っているの……?ヴィオラは、言葉も出ずにただ、見遣る事しか出来ない。
「あのまま、歩けなければずっと、部屋に閉じ篭めておけたのに。そうすれば、僕がいなければ、生きていけないだろう?」
虚な表情で、レナードは笑った。
「まあ、今だって、君には僕以外に帰る場所なんてないけどね。ねぇ、ヴィオラ。君は僕を裏切らないよね、約束したよね。何があろうと、僕を嫌いならないと。僕だけを、好きでいると誓ったよね?あの時君は、記憶を失っていたけど……ちゃんと、覚えているよね?」
レナードはそう言うと、ヴィオラへと歩いていく。一歩、又一歩と近付きレナードの手がヴィオラへと伸びて来た。
怖い……でも、身体が動かない。ヴィオラは目をキツく瞑った。
「っ……離せっ‼︎」
「へ……」
ヴィオラがレナードの叫び声に目を開けると……テオドールが、レナードの腕を捻り上げていた。
「本当に、どうしようもない王太子だね。いや、それ以前に人として終わってるな。彼女を愛してる?彼女の最愛の弟や家族の命まで奪い、彼女の不自由を願う人間が、愛を語るな……屑が」
テオドールは、そう吐き捨てるとレナードを床に放り投げた。
「リュシドール国王、彼の処分に僕は口を挟むつもりはない。だが、貴殿が如何に采配ふるうかで、この国の未来は左右される事を、しかと考え受け止める事だ」
マティアスは、何も言わずただ頭を下げていた。テオドールは、ヴィオラに手を差し出すと、一緒に来る様に促す。
「さあ、ヴィオラ」
「……」
ヴィオラは、差し出された手と、床に転がるレナードを交互に見遣る。
「ヴィ、ヴィオラっ……待って、行かないでっ、僕を、僕を、見捨てないで……ねぇ⁈ヴィオラっ」
情けなく、縋り付くレナードに、ヴィオラは唇を噛み締めた。
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