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6月の夢路
木々は不自然に整っていた。
道の両脇に伸びる幹は、まるで誰かの指で引かれたようにまっすぐで、葉は風が吹かないのに震えていた。
色は緑のはずなのに、どこか青みを帯びていて、目に映るすべてが少しずつ現実からずれていた。
broooockが立ち止まり、空を仰いだ。
高く、遠く、見えないはずの月がそこにあった。
「昼のはずなのに……」
その言葉が、森の静寂に溶けていく。
誰もがうなずくでもなく、否定するでもなく、それを“そういうもの”として受け入れていた。
nakamuが地面に目を向ける。
草の隙間に、白いものが落ちていた。
拾い上げると、それは古びた写真だった。
写真には、6人の後ろ姿が写っていた。
並んで歩いているはずの構図。
しかし、写真には5人しか写っていなかった。
「……誰が写ってない?」
シャークんが覗き込み、眉をひそめる。
何度見返しても、誰が抜けているのかわからない。
6人の名前を順に思い浮かべても、すべて揃っている気がする。
「記憶が、少しだけ削られてる……そんな感じがする」
きんときがつぶやいた。
その声に反応するかのように、木々の間から冷たい風が吹き抜けた。
音もなく、匂いもなく、ただ皮膚の表面をなぞるような風。
スマイルはその場に立ち止まり、目を閉じた。
彼の髪がふわりと揺れ、足元の土がわずかに沈む。
「ここ、何かが埋まってる」
言葉よりも先に動いたのはきりやんだった。
彼は静かにしゃがみ込み、指で土を払い、草をどけていく。
すると、地面の中から古い鍵が現れた。
鉄製で、ところどころが錆びている。
鍵には、数字が刻まれていた。
「3」
「3つに分かれたものの1つ……ってことかもな」
シャークんが、ポケットから白紙のカードを1枚取り出す。
そのカードには、かすかに同じ数字が浮かび上がっていた。
見る角度によって、それは消えたり現れたりした。
「この鍵で、どこかの扉が開く……?」
誰の言葉にも、明確な答えは返ってこなかった。
しかし、その場にいた全員が理解していた。
それは“前に進むための証”であり、“戻れなくなる印”でもあるということを。
風が止まり、木々が動かなくなった。
その瞬間、周囲の色がわずかに変化する。
緑だった木の葉が、ひとつずつ銀に近い灰色へと変わっていく。
「この森、時間が進んでるんじゃない……剥がれてるんだ」
きりやんがぽつりとつぶやいた。
木の根元に立つ影の輪郭が、にじみ、揺れ、消えていく。
静寂は、空間を削るように深まっていた。
誰かが声を出せば、その言葉がきっと失われると、全員が本能的に知っていた。
それでも、6人は歩き続けた。
消える木々のあいだを、静かに、確かに。
目指す先に何があるのかは、まだ誰も知らなかった。
だが、進むべき方向は、確かに“感じられる”ものだった。
それは誰かの記憶に触れたときにだけ、静かに道を示してくれる——
そんな、見えない標識のような存在だった。
つづく
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