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#ちょんまげ
――再会は、救いだった。
色のなかった世界に、もう一度光を差し込んでくれたのはターボーだった。
僕が引きこもっていたあの頃、時間は止まっていた。カーテンの隙間から入る光すら怖くて、人と関わることなんて考えられなかった。
そんな僕の前に、突然現れた。
「見つけた」
昔と同じ声で、でもずっと大人になった姿で。
背が高くて、がっしりしていて、少し強引で、そして相変わらず優しかった。
「うち来いよ。仕事ある」
断る理由なんてなかった。
寧ろ断る力が残っていなかった。
気付けば僕はターボーの会社で働き、そして惹かれ合い、ターボーと友人以上の仲になっていた。
*
最初は何もかもが怖かった。
人と話すことも、誰かの視線も、自分がそこにいることさえも。
でもターボーは急かさなかった。
「無理すんな」とだけ言って、必要以上に干渉してこない。でも、ちゃんと見ている。その距離が、心地よかった。
少しずつ、少しずつ。僕は会社に馴染んでいった。
「羽立くん、これお願いしていい?」
「わかりました。やってみます」
最初はぎこちなかった社員達との会話も、いつの間にか自然になっていた。
元々僕は頭は悪くない方だったし、パソコンも得意だった。任された仕事を丁寧にこなしていくうちに、周りの人達も僕を頼ってくれるようになった。
「助かったよ」
「ありがとう」
そう言われる度に少しだけ自信がついた。そして、笑えるようになった。
その変化を誰よりも喜んでいたのはターボーだったと思う。
でも同時に、少しずつ何かが変わっていった。
*
「ねえ、羽立くん」
男性社員達の距離が近い。
「これ一緒に確認しよ?」
肩に触れる手。必要以上に近い距離。
最初は気付かなかった。いや、気付いても深く考えていなかった。 皆優しいな、くらいにしか思っていなかった。
けれど――
「……ちょんまげ」
ある日、ターボーに呼び止められた。
「ん?」
「他のやつにあんまり触らせんな」
真剣な顔だった。
「え?」
「距離近い」
「そうかな…?」
首を傾げると、少し苛立ったように眉を寄せる。
「どう考えてもそうだろ」
「でも仕事だし……」
「仕事でもだ」
強く言い切られて、思わず苦笑する。
「気のせいだよ」
そう言うと、ターボーは何も言わなくなった。
けれどその沈黙が少しだけ怖かった。
――僕ばっかり、不安になってると思ってたのに
ターボーは女性に人気がある。
かっこよくて、社長で、頼りがいがあって。
だから僕はずっと少しだけ不安だった。
でも――
その逆なんて、考えたこともなかった。
*
ある日の午後。
「羽立さん、社長がお呼びです」
「え……」
心臓が跳ねる。
なにかミスした…?などと不安を抱えたまま、社長室の扉をノックする。
「失礼しま――」
言い終わる前に、腕を引かれた。
「わっっ」
そのまま強く抱き締められる。
「タ、ターボー……?」
ぎゅう、と力のこもる腕。いつもより強くて、どこか必死で。少し驚きながらも、僕はそっとその背中に手を回した。
大きくて、温かい。
ゆっくり撫でる。
「……我慢できなくなっちゃったの?」
少しだけ笑って聞くと
「……ん」
小さな返事。それがなんだか可愛くて。
「他のやつが、お前に触るの無理」
低く、押し殺した声。
「全部見てた。あいつらの目も」
「ターボー……」
「俺のなのに」
その言葉に、胸がきゅっとした。
ああ、同じなんだって思った。
「僕さ」
「……何」
「ターボーは女の人に人気だから、不安だった」
少しだけ照れながら言う。
「でも言えなかった」
すると、少しだけ間があって。
「……馬鹿だな」
「うん、知ってる」
くすっと笑う。
「でも、同じでよかった」
そう言った瞬間、ぐいっと体を引き寄せられた。
「じゃあ、分かるだろ」
「え?」
耳元で低く囁かれる。
「どれだけ嫌か」
その声に少しだけ背筋が震える。でも、逃げたくはなかった。寧ろちゃんと受け止めたかった。
「……じゃあさ」
「何」
「証拠、つける?」
思い切って言ってみる。
一瞬の沈黙。
そして、空気が変わる。
「……いいのかよ」
低い声。
「後で困っても知らねえぞ」
「困らないよ」
そう言い切った瞬間、腰を引き寄せられる。
「言ったな」
そのまま、首筋に顔が埋まった。
「ちょ、ターボー……っ」
反射的に逃げようとしたけど、しっかり押さえられる。
「動くな」
ちくり、と甘い痛み。
「……んっ」
吸い付く感触が、じわじわと熱を残していく。ゆっくり、丁寧に。まるで消えないように刻むみたいに。
「あっ……ターボー……」
思わず声が漏れると、更に深くなる。
「これで」
顔を上げたターボーが僕を見下ろす。
「分かるだろ」
首元がじんと熱い。
触れなくても、そこにあるって分かる。
「……バレるよ、これ」
「バレろ」
即答だった。
「寧ろ見せろ」
「ひどい」
でも、嫌じゃない。
寧ろ少しだけ嬉しい。
「でもさ」
「ん?」
「ターボーにもつけていい?」
一瞬、驚いた顔をされた。
「……は?」
「不公平でしょ」
ターボーの首に顔を埋める。
「僕のって分かるように」
そう言って、軽く触れるだけのつもりで――
「……煽ってんのか」
次の瞬間、体勢が逆転した。
「え、ちょ――」
ソファに押し倒される。
「後悔すんなよ」
「しないってば……っ」
また首に熱。
さっきよりも強く、深く。
「ターボー、それ……」
「見せびらかせ」
独占欲を隠さない声。
「お前が誰のか」
息がかかる距離で言われて、思わず目を閉じる。
「……ちゃんと、ターボーのだよ」
そう言うと、少しだけ動きが優しくなった。
「最初からそうだろ」
「うん」
そのまま唇が重なる。
外の音なんてもうどうでもよくて。
ただこの人だけがいればいいと思った。
*
翌日。
「羽立くん、その首…」
「あ、これ…虫刺されかな…」
笑ってごまかす。でも何人かは気付いているみたいで、少しだけ空気が変わる。
そして――
少し離れた場所から、それを見ているターボー。何も言わない。ただ静かに、満足そうに目を細めていた。
(……もう触らせない)
その視線に気付いて、僕は少しだけ照れながら笑った。
ほどけそうで、ほどけない。
僕たちは、ちゃんと繋がっている。
消えない印と一緒に。
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