テラーノベル
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「やっぱり帰るぞ」
ダンジョンの開口部が異常に狭く、ガタイのいい俺が入れない。
というより、すでにダンジョンの入り口に挟まって抜けなくなっていた。
両足は閉じた状態。なぜだか、小さく前へならえ! みたいに手を前に突き出している。
いまの俺はそんな格好だ。
「俺なら楽勝で通れると思ったんだが」
「どう見てもムリでしょ。リーダーは太りすぎだって」
ふざけて背中から突入したのが功を奏したのだろう。
俺は身動きひとつとれない状態だが、メンバーと向かい合って話ができている。
「俺は人並みのマッチョメンだと思うが」
「いやいや、カバ並みだろし。ダンジョンの入り口に内股で挟まる勇者なんて見たことねぇし。ってか、ダンジョンにフタしてどーすんだ?」
タバコを吹かしながらダイナマイトを地面に並べるシスターが、薄ら笑いで振り向いた。
カバ並み? 言われてみればそうかもしれないが、呪いで体が巨大化しているのは仕方ない。
いつだったか。動物園から脱走したメスのカバに間違えられたことがあった。
全裸だったし、日焼けしていたせいだと思うが。
ダンジョンのメンテナンス会社に連絡をしようと思ったが、今日は休みらしい。
こうした事態を予想していたのか、速攻で俺を救出してやるとシスターが言い出した。
「しゃぁねえな。便座に顔つっこんだ勇者吹き飛ばしてやっから待ってろし」
悪魔の微笑みを顔面に貼りつけたシスターが、俺と入口にできた隙間にダイナマイトを仕込んだ。
感触からすると、頭頂部に2本。
左右の脇の下に3本ずつ。
おそらく、足の間に100本。
予想が正しければ、“108本”のダイナマイトが仕込まれたことになる。
なにこれ? 除夜のカネ的な儀式?
「吹き飛べ、アッシのぼんのう! クズ勇者はあの世で眠るがいいし!」
年末恒例の“煩悩吹き飛ばしイベント”か。気が早いぞシスター。いまは8月だ。
シスターが手際よくダイナマイトに点火を開始した。
それは俺の乳首から生えた変な毛だ。導火線じゃない。
カラダのいたるところから、チリチリ・チリペッパーという音声が聞こえてくる。
チリチリは導火線が燃える音。
チリペッパーは、シスターが俺の股間付近で囁いている声だ。
頭頂部の爆音を皮切りに、仕込まれたダイナマイトが次々と弾けた。
爆発のエネルギーを俺が全て吸収してしまったようだ。
俺は出られたが、ダンジョン入口の大きさは変わっていない。
「ちょっと待ってな。ドクズ勇者がダンジョンに入れるようにすっから」
シスターが鼻歌まじりでショベルカーに搭乗し、エンジンをかける。
「安全装置よし。後方よし。殺意よし!」
エンジンを数回カラぶかしすると、シスターは俺に向けてショベルカーを走らせた。
「おい。すでに肩身の狭い俺の肩幅をさらに狭くする気か? ダンジョンの入り口を広げてくれ」
「アッシってさ、ハンドル握ると性別が変わるんだよね」
「レバーしかないショベルカーに乗ってオマエは何いってんの? 性別かわるって何?」
聞く耳をもたないシスターが、でかいバケット(ショベルの部分)を振り下ろしてきた。
「精霊を召喚するから少し待て」
俺は水の精霊『クロエモン』を呼び寄せる。
すぐさま、聖剣クロエモンを装備した。
相変わらずクロエモンは全裸だが気にしない。
迫りくるバケットをクロエモンの顔面で弾き返す。
衝撃でクロエモンの口から白い何かが飛び出した。
は? 歯?
ショベルカーはバランスを崩す。
横転しかけるが、すぐに体勢を立て直した。
間を置かず、2度目のバケット攻撃が繰り出される。
聖剣クロエモンを放り投げ、ツンと指1本でバケットを受け止める。
ショベルカーのキャタピラは高速で回転するも、後方にジャリを弾き飛ばすだけだ。
振りおろされるバケットの速度が遅いため、受け止めるのは存外余裕。だが、馬力がハンパない。
指だけで押さえるのは少し厳しそうだ。両手で抱えなおし、ショベルカーのアームをへし折った。
俺の腕と指は強い。
指で弾いたコメ粒で宇宙戦艦を沈めたことがあるくらいだ。
横転したショベルカーから脱出したシスターが、魔術師から魔術師の親友を奪い取る。
バーベルでひと殴りして外したキャタピラの一部を、俺に向かって放り投げてくる。
俺が弾き飛ばした鉄塊は、魔術師の顔面を捕えた。何があったのか把握できていない様子の魔術師は、後頭部をさすりながら空を見上げている。
「オマエ、弁償しろだし」
黒煙をあげるショベルカーを残念そうにシスターが見つめる。
壊しちまったものは仕方ない。謝るか、証拠隠滅をはかるか、ふたつにひとつ。
「なあ、魔術師。記憶消去魔法って使えるか?」
「え? 顔に便座を装着したキミはだれだい?」
とぼけた顔で魔術師が振り返る。
オマエの記憶が飛んでるじゃねえか!
どうでもいいが、便座ではない。シャンプーハットだ!
仕方ない。コンビニ店員の記憶消去は俺がやろう。
「やさぐれシスター。ショベルカーを跡形もなく消しされ」
「は?」
シスターが振り向くと同時、ショベルカーと俺の自販機が放物線を描いてコンビニへと飛んで行った。
シスターといい、魔術師といい。何なんだコイツらは。
バケモノか?
精霊より頑丈な人間などみたことがない。
精霊クロエモンは、“ぴしゅぅ”とか“ぷしゅぅ”という音を発しながら顔面を押さえてのたうち回っているというのに。
「クロエモン。御苦労だったな。特別にボーナスを支給してやる。何か欲しいものはあるか?」
「みゃ、前歯を四本くだしゃぃ……。油田でもいいでしゅよ? ぴしゅぅ」
前歯が抜けたクロエモンの活舌が、超絶悪くなっていた。
「これでガマンしろ」
以前、バトルで倒したグールの皮を全裸のクロエモンに着せてみる。
いまだに皮が異臭を放っているため、かなりくさい。
「に、似合ってましゅか……。ぷしゅぅ」
クロエモンが力なく立ち上がる。
生まれたての変態のように、ヒザをプルプルさせながらその場で1回転してみせる。
いまのクロエモンは黄色い皮膚で覆われた犬顔のモンスターである。
全身にスッポリとグールの皮を被っているため、顔は見えない。
似合っていると言えるのか?
俺は世辞というものが、どうも苦手だ。
数少ない褒め言葉を懸命に検索する。
頭の中からようやく見つけた最大級の賛辞をクロエモンに贈った。
「くっせぇ……」と。
イメチェンをやってのけたクロエモンを見たシスター。
バック転を三回繰り返し、グルエモンの前までやってくる。
くるりと身をひるがえし、グルエモンの背後に回った。
イヤな予感しかしない……。
俺と魔術師がシスターの動きを止めようとするも、ときすでに遅し。
「この変態モンスター、くっせぇな。これでもくらえ! クリ、ティ、カル、ヘェーーーッド!」
シスターは言いながら、かかと落としをグルエモンの後頭部にお見舞いした。
「ク、クロエを蹴ったのは、だれでしゅかぁ!」
グルエモンは頭をかかえ、ビタビタと地面でのたうち回る。
グールの皮がグルっと剥けた。
変態だが美少女の部類にはいりそうな、元のクロエモンの顔が露わになる。
秒速でクロエモンの鼻から大量の水が噴き出した。
さすが水の精霊と言いたいところだが、水の放出が止まらないようだ。
クロエモンの体がガビガビになりつつある。
クロエモンから水を出すには後頭部を叩く。止めたいときも同様だ。
今日は奮発しているようだ。
全力でクロエモンの頭部を手刀でなぐっても、水はとめどなく流れ続ける。
やめられない、とまらない……。
体内の水分を全放出したクロエモンは、瞬く間にミイラと化した。
水をかければ元に戻るが、面倒だ。
折りたたんで精霊界に送り返そう。
味方をぶちのめすなんて、やっぱりすげえなシスター……。
そんなことを考えていた時だ。
突然、アプリが告げた。
『シスターの攻撃力が“0・1”あがりました!』
はい?
『シスターのパンツに穴があきました。女子力と防御力が“0・2”さがりました!』
どうでもいいよ。
シスターは気になるようだ。ホッパンを脱いで確認をしている。
大笑いしている暇があるなら早くホッパンを穿け!
『水の精霊が“お水の精霊”に昇格しました!』
ナンバーワンのキャバ嬢ですか? クロエモンはミイラになっているが?
『水の精霊のやる気が“0・2”さがりました!』
だろうな……。
『便座が顔から抜けない勇者の防御力が“100”上りました!』
いや、シャンプーハットだから。
『仲間からの信頼が“100”下がりましたが、“便座エース”の称号を獲得しました!』
嬉しくねぇ……。
それにしても、うるせぇな。このアプリ。
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