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ロシア語とポルトガル語の鑑定サイトに一日当たりの鑑定上限は付いていなかった。一日に十枚以上も鑑定をかけるようなそんな運がいいか、面倒過ぎてまとめてやってしまわなければいけないような奴はいないだろう、というサーバー負荷に対する信頼感が透けて見えた。
ここに居るんだな、一日に二十枚超のスキルスクロールを持ち帰る奇特な人物が。使用禁止を伝えられるまでの間に、残りのスクロールの鑑定を終わらせてしまおう。もしかしたら特定のIPからの鑑定機能の使用回数が多すぎるとして遮断される可能性もある。その前に今日の分だけでも終わらせてしまおう。
順番に鼻歌を歌いながらスマホで撮影をし、順繰り鑑定を行っては鑑定結果を翻訳にかけ、結果を知り付箋紙に鑑定結果を書き込んで次の鑑定を行う。そうして、今日拾った22枚すべてのスキルスクロールの鑑定を終える。
結果、【マジックミサイル】が10枚、そして【火魔法】が2枚、【雷魔法】が1枚、【水魔法】が3枚、【風魔法】が2枚【頑健】が1枚、【体捌き】が2枚、そして【マジカルシュート】という聞いたことないスクロールが出てきた。これなんだろう? マジックミサイルの派生形か?
調べた結果、【マジカルシュート】というのはマジックミサイルの上位互換魔法ということまではわかった。メラとメラミの関係性だな。そして、【マジカルシュート】一つで【マジックミサイル】10枚分の威力があり、いわゆるMP消費はその半分以下らしい、ということも調べがついた。これは覚えるかどうか悩む奴だな。
彩花と相談して、お金が欲しいなら換金してしまって、そこまで焦る必要がないなら覚えるか溜めこんでおくかで考えよう。彩花が覚えるという手もあるしな。いきなりマジックミサイル10枚分の威力のスキルが使えるようになる、となればかなり大きいものがあるだろう。
とりあえず全部のスキルスクロールの鑑定がし終えたところで暇になった。彩花、速く帰って来ないかな。俺はもうお腹がペコペコだよ。炊飯器には……まだご飯が二人分ぐらいは残っている。ユッケを乗せてツルっと食べるのは想像するだけでも食欲をそそる。あーまだかなあ。
◇◆◇◆◇◆◇
彩花は一通りの作業が終わってから15分後に帰ってきた。
「お待たせ、ついでになさそうな食材もいろいろ買って来たから遅くなっちゃった」
「うん、新しい鑑定サイト見つけたからそっちで鑑定は終わらせた。ちょっと相談しなきゃいけないスキルも手に入ったから食べながら相談しよう」
「じゃあ、パパっと作っちゃうわね。馬肉のステーキとユッケを作ります。ステーキはバターで炒めるけどそれだけでいいかしら? 」
「そのぐらいシンプルな方が美味しさがわかるかもしれない。それでいこう」
「じゃあ、まとめてやってしまうわね。ユッケの方が時間がかからないから後で作るとして……」
彩花が独り言を呟きながらキッチンに立つ。二人同時に料理できるほど広いキッチンではないため、彩花にお任せするしかないんだが、それでもなにもすることがないというのは暇をもて余すが朝の弁当作りと同じ行動は取らないようにしないとな。
思い出したらムラムラしてきた。このモヤモヤはどうやって晴らそうか。素直にズボンを下ろして……とやるつもりもない。まずは食欲を満たしてからにしよう。
そういえばアカネはどこいったんだろう? 先に帰ったはずだが部屋にいないとなると、帰ってくるまでにどこかをぶらついているんだろうか。だとしたら勿体ないことになるな。せっかく今から美味そうな料理ができ上がるというのに。
バターと醤油の良い香りが漂い始める。バターソテーと言いつつしっかり醤油を使って和風に寄せてきた。こんなにいい匂いをさせるなんて、食べるのを待つ身にもなってほしい。
「そんなに物欲しそうな顔しなくても、ちゃんと二人分作るから心配しなくていいわよ」
そんな顔していたのか。鏡代わりにスマホのカメラで自分の顔を確認するが、いい男しか写ってない。そんな物欲しそうな男はいないらしいぞ。
一人で悪戦苦闘している間にパッパと料理を作りきった彩花がテーブルに並べていく。
やはり、醤油バターステーキの香りが強い。これだけで茶碗二杯いけそうだ。それ以外にもユッケもある。やはり米が足りない気がする。
非常用の防災袋からパックライスを取り出すと、机の上に準備。いつでも温めて食べられるようにしておく。
「要りそうな気がした。後でムシャムシャするかもしれない」
「とりあえず食べましょう。ケンタウロスにいただきます」
「いただきます」
まずは冷めないうちにステーキからだ。バターでカリっと表面をしっかり焼かれた馬肉を一口。そして口のなかで花開く醤油のこれまた焦げた香りとバターの油のまろやかさが同時に口のなかでハーモニーを奏でる。
「これは疲れが取れるな。美味しすぎる」
「肉の大きさなりの値段かと思ったけど、それだけじゃないみたいね。なんか凝ってた肩が楽になってる気がするわ」
ちゃんと疲れや体の疲労を取る効果もあるらしい。ダンジョン産だからかどうかはわからないが、いくらなんでも早すぎないか。
しかし、一日背中に背負っていた荷物で疲れた背中の感覚はもうなくなっている。これがダンジョン肉の効果か……
「旨いし疲れが取れるし、装備も落としてくれるなんて便利なモンスターもいたもんだな」
「そういえば、相談しなきゃいけない話ってなに? なにか珍しいスキルでも出たの? 」
彩花がパックライスを温めにいって帰ってきて、そう問いかける。
彩花に【マジカルシュート】の説明をして、それから覚えるかどうかの相談を始める。
「私個人としては、火魔法があればしばらくは大丈夫だと思うわよ。だから、幹也が覚えるかどうかだけね。お金にかえるならそれでもいいと思うわ。次に出たときには覚える、でもいいわけだし」
「じゃあ……塩漬けでもいいかな?もう一枚出たら覚えるってことで」
「それでもいいけど、覚えない理由を聞いても? 」
彩花から、覚えずに塩漬けにしておく根拠を出せと詰められる。
「今日拾った【マジックミサイル】を全部覚えると、【マジカルシュート】二枚分の出力になるんだよ。だから急いで覚えても、攻撃手段としての効果がない。そして、スキルスクロール一枚覚えるなら、他のスキルスクロールを多めに覚えた方がMPは稼げる。さらに言えば、売らない理由は高級な分だけ取引手数料を多く取られるから、スキル一枚分ぐらい損をする……とこんなところかな」
「大体わかったわ。そういうことなら塩漬けの方が正解かも。それに、もう二枚ぐらい出るなら私が覚えるって方法もあるし、そしたら、いきなり【マジックミサイル】レベル30相当のスキルが使えるようになるってことでしょ? その方がお得な気がするわ」
彩花の同意が取れたところで問題は無事解決。この件はいずれ動かす、ということになった。
「あと、【火魔法】が二枚出てたから、後で覚えてもらおう。それと、念のために【水魔法】も一つだけ覚えておいてもらおうかな。綺麗な水がいつでも使える、というのはそれだけでもダンジョン内で得だ。荷物が一つ減るだけでもありがたいし、味にこだわりがなければ、だけど」
「そういう意味では覚えておいて損はないわね。怪我してもすぐに傷口が洗い流せるのは得だわ」
「それに、俺は一つ覚えてるが、【頑健】がホブゴブリンから出ていた。痛みに強い子になれるらしいから持っておくといいかもしれない」
今日は大収穫だな。直接的な金額としては少ないが……いや、実際のところで言えば大いに収入はあったと言える。【マジカルシュート】の査定金額が300万円ということも含めて、本来なら大いに驚くべきところなんだろうが、【マジックミサイル】を拾って来た枚数分の金額もほぼ同じになるため、あまりインパクトがない。これが1000万円オーダーだったら売る一択だったんだが、
さて、馬肉のユッケに取り掛かろう。卵の白身はどうしたのかわからないが、黄身と馬肉にごま油を絡め、
醤油と……少量のコチュジャンか何かを使ったのだろう、しっかりとした味噌っぽい、だが味噌ではない辛みのある香りがゴマと共に立ち上る。この香りだけでご飯半分は行けるな。パックライスをもう一つ出そうか悩みどころだが、とりあえずご飯抜きでパクッと食べてみる。
口の中が大賑わいだ。馬肉のツルッとした感触と、クセがなくあっさりしており、肉本来の甘みと弾力ある食感が楽しめる。俺の中で大好評だ。臭みがなく、濃厚なタレや卵黄と絡まっていることもあり、これはもし酒が飲めるなら酒飲みにはたまらない一品だろう。パックライスの二個目を温め、しっかりと食事の追加注文をしていく。こんな美味い馬肉が食べられる焼肉屋があったらきっと常連になっているだろうな。
美味しい美味しいと散々味わっていると、外に出ていたらしきアカネが帰ってきていた。
「あー、私に内緒で美味しそうなもの食べてる! 」
「別に内緒じゃないし、先に帰って暇そうにしてるからってどっか行くアカネさんが悪いわよ。馬肉ステーキはあんなに美味しかったのに、いなかったなんて残念ね」
彩花がここぞとばかりにアカネにジャブを加えていく。アカネがムムム……といった顔で応戦しようとするが、確かに今回はどこかへふらふらと行って帰って来なかったアカネに責任がある。
「うむ、大人しく待っていたらよかったのに。俺みたいに大人しく」
「むー……まあいいわ、残りのその美味しそうな肉からいただくとしましょう」
アカネが神力を吸い取り始める。青白い光がそれなりに漏れ出て、アカネがまたググっと大きくなるそぶりを見せる。
「うーん、もうちょっとなんだけどなあ」
「まだパワーのある神力が足りないってところか」
「そうかも。もう少ししたら幹也の射程範囲に入るかもしれないわね。それに、そろそろ私の信徒なら触れられるようになるかもしれないわよ。ピチピチの中高生の体、味わいたくない? 」
アカネが肩からワンピースを脱ぎ始めるがごとく俺を誘惑してくる。もうちょっとで見え……というところでアカネは引っ込み、そしてアカネの向こう側では彩花が怒った顔をしている。
「浮気? 」
「ある意味では浮気だが、信心的には浮気ではない、と言いたいが、とりあえずまだセーフってことで」
コメント
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第256話、読み終わりました!今回はスキルスクロールの鑑定が一気に進んで、特に【マジカルシュート】の扱いをどうするかっていう相談シーンがすごく面白かったです。彩花と幹也のやり取りに「塩漬け」という表現が出てきて、二人の息の合い方や戦略的な考え方がよく伝わってきました。そして何より…馬肉のユッケと醤油バターステーキの描写がめちゃくちゃ美味しそうで、読んでるだけでお腹が空きました(笑)。アカネが帰ってきたときの「内緒で食べてる!」って騒ぐ感じも可愛くて、和やかな空気がいいですね。次はどんなスキルが出てくるのか、続きが楽しみです!
#恋愛
大正
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