テラーノベル
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バラエティーの収録を終えて移動中、最近は会議の議事録botになっていたM!LKのグループチャットに一件の通知が入った。発信者は…吉田仁人?
「え、めずらし」
仁人はそれこそ、M!LKでの稼働があった時に議事録とか連絡とか、そういう事務的なことを発信するばっかりで普段はなかなか連絡をよこさないのに。
反射的にバナーをタップする。
『少し体調を崩しています。熱はまだ出てません。把握お願いします。』
「は?!」
ついデカい声が出て、隣に座るマネージャーに軽く怒られた。ほんとーにごめんなさい。
いや、それにしても仁人がこんなことを送ってくるなんて珍しすぎる。自分の体調を、俺らのグループチャットでなんて。
『仁人大丈夫かー!』
『おーい!』
『おーーーい!』
『返事して😭』
何件かメッセージとスタンプを連投しても、仁人のメッセージ以来、既読は付かない。
「寝たか…?」
いや、デジタルデトックスが悪い方向に作用してる可能性もある。ベッドで寝てるなら良いけど、体調悪すぎて行き倒れ出たりしないよな。仁人は今日オフだった気がするけど、外出てたりするか?いや、最近の話を聞く限り、流石に家でちょっと凝った飯を作ってホクホクしてるはず。あーでも高級スーパーとか行ってる可能性はあるな。仁人の家からどんくらいの距離だったっけ……
音沙汰無いせいで嫌な妄想ばっかり広がっていく。とにかく、一刻も早く状況を把握したい。早くメッセージ見てくれ仁人…!
その時現れた。
既読1。
「仁人?!」
『これ、よっしーマネさんに送ろうとしたのミスってる?』
既読2。
『ヤバない?連絡した方がええんちゃう?😬』
既読3
『じんちゃーん!😭元気出してー!』
次々と増えていた数字は、舜太からのメッセージ以降ビクともしない。
『今既読3なんだけど、仁人見てないよね?』
『見てないね』
『今、俺のマネージャーさんから吉田さんのマネージャーさんに連絡してもらった😀やっぱ聞いてへんて😤やらかしてますわ😫😫😫』
『だいちゃんありがと』
『だいちゃんえらい!👏👏』
『😆✨』
そっか、そうだよな。誤爆か。確かに、マネージャーにだったら些細な体調の変化でもこまめに伝えることはよくある。俺たちに知らせるつもりは毛頭なかったのかもしれない。
マネージャー相手になら、返信が返ってこないと思ってスマホを手放していてもおかしくはない。
一安心、、、
出来るわけはなく。
『太智サンキュー』
それだけ打って、俺は隣に座るマネージャーに向き合う。今から、真剣な交渉を始める。
「次、俺の休憩いらないんで、巻きに出来ないですか」
「ありがとうございました!」
休憩を潰して、雑誌の撮影の合間にインタビューを無理やり詰め込んでもらって、巻きまくってもぎ取った2時間。協力して頂いたスタッフさんには頭が上がらない。感謝を込めた挨拶はしっかりとして、メイク落としもそこそこに現場からタクシーに飛び乗った。
ここから、仁人の家までは20分。
『なにか欲しいものとかある?』
撮影前に打ち込んだメッセージは、やっぱり見られないままだ。2時間前の数字だけが残る。
「フーー……。」
大きく息をつく。
仁人は、寝ているだけ。わかってる。
病気の時は寝た方が良いことも。
それでも、「既読」の文字がないだけで心臓がずっとバクバクしてる。
「大丈夫か…?」
試しにアプリを落としてもう一度開いてみる。小さな文字は現れない。
もう一度、アプリを飛ばしてみる。
やっぱり現れない。
もう一度。
もう一度。
もう一度。もう一度。
もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。もう一度。
ピコン♪
軽快な音と共に、急にスマホが震えた。「柔太朗」の文字が落ちてくる。
「あ」
途端、エンジンやエアコンの音が耳に広がって、それまで何も聞こえていなかったことに気付く。
はー、何やってんだ。
フルフルと頭を振って気持ちを切り替える。お見舞いに来たやつの方が焦ってたら、仁人も困っちゃうだろ。
外は駅前の繁華街。長くなってきた日に照らされたカラフルな紙袋が、街中に溢れてる。
俺はそのなかで、一際目を引くオレンジ色を見つけた。
「すいません!そこの駅ビル、10分だけ寄らせて下さい!」
キラキラしたコスメコーナーを足早に抜けて地下2階へと真っ直ぐ進む。
「あった…」
オレンジの紙袋。それは、仁人が大好きなエクレアを売っているケーキ屋のものだ。
仁人の、目をまんまるにして頬張る姿が浮かんでくる。年始に舞台の差し入れに持って行った時に喜んで貰えたのが記憶に新しい。
買って行ってあげたい。
中がカスタードのやつがまだ残ってる。
ん?
でも、体調悪い時にカスタードって重いのか…?生菓子だから早めに食べないと…?
冷蔵庫が出来上がったもので圧迫されるの、仁人すげー嫌いなんだよなぁ……
ついここまで駆け降りて来ちゃったが、買わない理由がポンポンと思い浮かぶ。
嫌がられるか?
でも、やっぱり、食べたいかも知れないし。
それに、俺が、頬張るあの顔を見たい。
食欲がないのだったら別のものも買えば良い。
突き返されたらそれはそれで良いよ。突き返す元気があるってことなんだから。
「このエクレア、カスタードのやつ5個お願い出来ますか?」
「はい、ご移動は…」
「20分かかんないくらいです」
「保冷剤一つおつけしますねー」
包んでもらう間、ぐるりと辺りを見渡してみる。ケーキにチョコ、和菓子、紅茶。嫌になるくらい明るい照明に照らされて、ショーウィンドウが少し眩しい。
「仁人、これなら食えるかな…」
引き寄せられたフルーツ専門店には、色んなゼリーが並べられている。仁人が好きそうなイチゴとジュレが乗ったもの。体に良さそうなミカンを丸ごと使ったもの。
「これいいやん!」
少し先の紅茶専門店には、ポップに「痛む喉に!」と書かれたハーブティー。
あれも、これも。
10分後、エスカレーター脇の鏡に写る自分は、誰よりもカラフルな紙袋を抱えていた。
黒ニット黒マスク黒ジャンパーという黒づくめコーデの大男が、赤やらオレンジやらのやけに可愛い紙袋を両手に抱えているのはなかなかに見た目がヤバい。
気恥ずかしさ半分、焦り半分でタクシーに舞い戻った。そうだ、さっき来ていた柔太朗からのメッセージにも、返信しないと。
『年下組で、仕事終わったらじんちゃんのお見舞い行こうって話してるんだけど、はやちゃんも一緒に行かない?』
『悪い。俺、先に行く』
まもなくエントランス。
自動ドアすら煩わしい。
一秒でも早く、仁人に会いたいんだ。
ピンポーン♪
りっちゃ
コメント
2件

素敵です😌

めちゃくちゃ好きでした!これからの作品も楽しみにしています!