雑誌からそのまま飛び出したみたいな樹さん……
やっぱり、彼女とかいるんだろう。
もしかしてアメリカにいるのかも知れないけど、私達はまだそこまで聞ける間柄ではない。
「着いた、降りるぞ」
「はい」
私達はしばらく歩いて、大きな建物の前に着いた。
えっ、ここってボーリング場?
「もしかして……ボーリングするんですか?」
「柚葉、ボーリングしたことないのか?」
「いえっ、昔はやったことありますけど……最近は全然です」
「ならいいだろ。久しぶりにやってみたかったんだ」
柊君とはボーリングはしたことなかった。
今日は決してデートではないけど、ちょっと嬉しいかも。
何だか新鮮だ、こんな感じ……
樹さんはシューズを借りてくれて、2人だけのボーリング大会が始まった。
今日は、本当なら柊君と私の結婚式だった。
12月3日。
今頃、私はウエディングドレスを着て、みんなに祝福されてるはずだった。
柊君と2人、幸せな人生を歩むスタートの日になるはずだったんだ――
樹さんは、きっと気遣ってくれたんだ。
そんな日に1人で過ごすのは可哀想だろうって。
気持ちを思いっきり発散させるために、私をここに連れてきてくれたに違いない。
私は、樹さんの優しい好意に甘えることにした。
「じゃあ、僕から投げる」
結構重さのあるボールを選び、綺麗なフォームでピンをめがけて投げると、ものすごい勢いで10ピン全部が弾け飛んで倒れた。
「うわぁ、すごい!!」
思わず大拍手。
次は、私の番。
緊張するけど、昔の感覚を思い出しながら軽めのボールを投げた。
それはコロコロと転がって、ピンの真ん中を割り、向こう側に吸い込まれていった。
「スプリットだな。次、難しいな」
「右と左に残っちゃって、こんなの当たるんですか? どうやって投げたらいいのかなぁ」
「そうだな。うーん、じゃあ体をこっち側に向けて……」
樹さんは、そう言って、私の後ろに立った。
フォームを教えようとして、位置を合わせるため、両手で私の腰を触った。
うわ、ちょっと……
アメリカ生活が長いと、これくらいは当たり前なのかな?
日本では、いきなり女性の腰を触ったらセクハラだよ。
だけど、やっぱり不思議。
樹さんに対して、全然、嫌悪感が湧かない。
いやらしさがなく自然だから……かな。
きっと樹さんは、私以外の誰にでも同じようにするんだろう。
でもこれって、ものすごくドキドキする行動だ。
樹さんに触れられたら、女性はみんな勘違いするかも知れない。
自分がどれほどイケメンで魅力的なのか、わかってないのかな……
だとしたら、ある意味鈍感な人なの?