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やはり、行ってよかった、うさぎ島。


のぞみとの距離がぐっと近づいた気がする、と思いながら、京平は新幹線で、今日撮った写真を確認していた。


すると、横から、のぞみが覗いてくる。


おっ、リアルに近づいてきたな、と思ったが、あえてなにも言わなかった。


迂闊なことを言うと、照れて、離れてしまいそうだったからだ。


「可愛かったですね、うさぎ」

と言うのぞみに、そうだな、と言いながら、京平は、今日一日を振り返っていた――。



「穴がたくさんありますね~」


島に着いてすぐ、穴にはまって、アリスになりかけたらしいのぞみは、仔うさぎ見たさに、しばらく、道の端にしゃがんで穴を覗いていた。


その間、京平は黙って、のぞみの後ろに立っていた。


うさぎよりも、ちょこんと座ってうさぎを見ているのぞみが可愛かったからだ。


ああ、あれも写真に撮っておけばよかったな、と今になって思う。


あまりに可愛らしくて、写真を撮るのさえ、忘れていた、と樫山辺りに後ろから、はたかれそうなことを思いながら、島を出る前、桟橋近くで撮ったのぞみの写真を見た。


夕陽に照らされ、俯くのぞみが綺麗だ。


あのとき、

「あー、楽しかったです」

と言ったのぞみを見ながら、今、この瞬間が永遠に続けばいいと思った。


よく聞くセリフではあるのだが。


今まで、そんな言葉を吐く人間を理解できないと思っていた。


人生は前へ前へと進んでこそ、生きている意味があるというのに、なにをふざけたことを言ってるんだ、と思っていたのだが。


あのときは本当にそう思った。


その気持ちを伝えたくて、


「……このまま帰らないっていう手もあるぞ」

とのぞみに向かい、言ったのだが、彼女は振り向き、


「嫌ですよ」

と言ってきた。


ああ、同じ気持ちは共有できてはいなかったか――。


今日一日が、一生忘れられないくらい幸せだったのは、俺だけか?

と思ったのだが、のぞみは少し照れたように、言ってきた。


「お父さんたちに、専務が悪く言われるの、嫌なんで」


一瞬、言葉が出なかったが、少し間を置き、

「……うん」

と言った。


のぞみ。

あのときも、船の甲板から、一緒に夕陽を眺めたときも。


俺は、本当は、このまま、お前を帰したくないと思ってたんだぞ。


それを帰してやるんだから――。


「一生恩に着ろよ」

とぼそりと声に出して言うと、写真を眺めていたのぞみが、ええっ? と言う。


そのビクッとした顔が、島で見た、自分が掘った穴に落ちかけたうさぎと似ていて、思わず、笑ってしまった。




のぞみが新幹線を降りたあと、

「あ、じゃあ、私、こっちなんで」

と別れようとすると、


「待て、送って行く」

と京平は言ってきた。


「じゃあ、ちょっと駅まで着いたって、お母さんに連絡しますね」

と言って、改札の側でのぞみは電話をかける。


呼び出し音を聞きながら、京平の方を見ると、京平は足許を見ていた。


自分もさっき、同じ行動をとってしまったので、その意味がわかり、笑ってしまう。


「うん、そう。

晩ご飯は新幹線で食べたけど、専務が送ってくれるって言うから。


大丈夫。

お茶菓子なら、お土産のお菓子があるから。


うん、うさぎの」


浅子にそう言ったあとで、のぞみはスマホを切ると、笑って京平に言った。


「うさぎ、飼いますか?」


京平は、さっきから、何度も足許を見ていたが。


足許にまだうさぎが居る感じがするのだろう。


のぞみもそうだから、よくわかる。


今にも、あのくすぐったいような、ふわっとした感触が足許に来そうな気がするのだ。


だが、京平は、

「莫迦を言うな。

俺は、お前を飼うのだけで精一杯だ。


ほら、行くぞ」

と言って、歩き出してしまった。




のぞみを送っていった京平は、約束通り、日帰りで連れて帰ったことで、信雄にいたく感謝された。


機嫌良く家に戻った京平は、ベッドに腰掛け、樫山に電話する。


『おう、どうだった? うさぎ島』

と言う樫山に、


「よかったぞ。

お前たちも行けよ」

と力説したあとで、


「さっきな。

駅でのぞみが俺に、

『うさぎ、飼いますか?』

って訊いてきたんだ。


あの言い方は、絶対、俺との結婚生活を考えての発言だと思うんだよな」

と言うと、樫山は、


『はいはい。

お幸せで結構なことだね。


こっちは早苗がマリッジブルーになって大変だよ。


のぞみちゃんはまだならないか?』

と訊いてくる。


「あいつは、そんな繊細なものにはならない気がするが。


まあ、それ以前に、俺と結婚すること自体に半信半疑っぽいからな……」

と言って、


『おいおい、大丈夫か?』

と笑われた。


だが、

『うさぎ、飼いますか?』

とちょっと今後の二人の生活に向けての含みを持たせたようなことを言われただけで、舞い上がってしまうくらい、のぞみとの結婚はまだはっきりしていない。


双方の親は乗り気なのにな、と溜息をつく。


うちの母親なんて、俺の愛車のグレードを下げろと言うくらいに。


のぞみに高級車を買ってやる、と言ったのでは、ほどこしを与えている感じになって、余計のぞみが引いてしまうから、車を買い換えろと言ったのだろうが。


いや、どっちにしても、ドン引きだったようなんだが……と思っていると、樫山は樫山で不安を訴えてくる。


『大丈夫かなあ。

お前が、教員辞めて、実家の系列の会社を継ぐって、うっかり言っちゃったんだよな、俺。


早苗、お前がいいとか言い出さないかなあ。


あっ、それで、マリッジブルーだとか?』


「なに言ってんだ。

早苗は、俺のことなんぞ、眼中にないさ。


そんなことより、式場も日取りも、もう決めてるんだよな?」

と言いながら、そういえば、俺たちは、まだ式場も決めてなかったな、と思っていた。


『それなんだが、聞いてくれよ~』

と樫山は言う。


同じ悩みを共有できる友人が居るのはいいな、と思いながら、京平は閉まったままのカーテン越しに外の明かりを見る。


しばらく、樫山の話に付き合った。




月曜日、のぞみが専務室に行くと、ノートパソコンを見ていた京平がのぞみの方にそのパソコンを向けた。


うさぎ島の写真が入っているようで、立ち上がったうさぎが、ちょん、とのぞみの脚に手をかけている写真が映し出されていた。


「可愛かったですよね~」

とのぞみがそれを見ながら言うと、京平は、


「うさぎ、お前みたいだったな」

と言い出す。


えっ、そんなっ、と可愛らしいうさぎに似ていると言われ、のぞみは照れたが、京平は不満げに言ってくる。


「すっと寄ってきたから、撫でようとすると、すっと居なくなるところがお前そっくりだ」


そこですか……と思いながら、のぞみは、

「失礼しましたー」

とさっさと専務室を出た。


専務室から廊下に出ると、祐人がこちらに来るところだった。


『日が落ちて来たら、御堂が現れるっ』

とトンネル付近で怯えていた京平を思い出し、


日も落ちてないのに、御堂さんが居ますよ、

とのぞみは少し笑った。


「……どうだった? うさぎ島」

と足を止めた祐人が訊いてくる。


「可愛かったです」

と笑って言うと、


「日帰りか?」

と問われた。


「はい」

と頷くと、祐人はすれ違いざま、ぽんぽん、とのぞみの頭を叩いてきた。


……なんなのでしょうね? と思いながら、のぞみが祐人を振り返ったとき、すぐ側から声が聞こえてきた。


「祐人は明らかにあんたを意識してるわ」


ベランダへと続く角から、万美子が姿を表す。


居たんですか。


その登場の仕方は、張り込み中の刑事か探偵ですか、と思いながら、のぞみは、

「いや、ですから、専務なんですってば。

私が好きなのは」

と万美子に訴えた。


そして、おや? おかしいな、と思う。


今、するっと言えたぞ、専務が好きだって。


この間から、祐人とのことを否定するために、京平との関係を強調してきたので、癖づいているだけかもしれないが。


だが、万美子は、

「なんなのよ、それ」

と文句を言ってくる。


「祐人に好かれてるのに、専務が好きとか、あんたおかしいんじゃないの?」


御堂さんのことが好きでも、好きじゃなくても、どっちでも撲殺される! くらいの勢いだった。


専務、恋する乙女は恐ろしいですっ、と思いながら、のぞみは万美子に引きずられていった。





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