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天樹
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主が深夜アニメを見ていた時のこと。指輪から何人もの悲鳴が聞こえて主は慌てて指輪を嵌めた。景色がぐにゃりと歪んで屋敷の自室に飛ばされる。
そこまでは良かった。しかし、深夜だというのに屋敷の外が明るくて眩しいほどだ。
絶対に何かあったに違いない、と直感した主は庭から金属音や悲鳴が聞こえているのを確認してダッシュで庭に下りていく。
『皆!大丈夫!?』
そこには大量の天使の群れが執事達を襲っているところだった。
「主様!力の開放したら地下に逃げろ!!」
「ここでは主様をお守りすることはできません!!」
ボスキとハウレスが前線から叫ぶ。
「拘束室の扉を開ける鍵をあげるよ。誰かが呼びに来るまで立て籠もっているか、元の世界に戻っていてくれ」
ミヤジがポケットから鍵の束を取り出して主に渡す。
主はそれを受け取ると悪魔の力を開放して屋敷に引き返した。
地下の執事室の奥にある拘束室であれば天使も人間もそう簡単に開けられる造りではない。
主は拘束室に入って扉に鍵をかける。
しんとした拘束室の中からは戦局がどうなっているかを知る手段は無い。しかし、主が無事なら執事達の力の開放は継続されるし、主を守らなくていいのならば主を守る戦力も使って戦える。きっと勝ってくれる。それだけを祈りながら主は無機質な拘束室の中で戦いが終わるのを待った。
ベッドに横になっていたらいつの間にか寝ていたらしい。
ドアをノックされる音で目を覚まし、慌てて鍵を開ける。扉を開くと、脇腹を押さえながら血塗れになったミヤジが壁にもたれるようにして立っていた。
『ミヤジ!?大丈夫!?すぐ止血しないとっ…』
「もういいんだよ。全て終わったから」
『…勝ったの…?』
「…勝ち…と言えば勝ちだけど…相打ちだね」
『じゃあ…皆は…』
「誰も生き残れなかった。私だけは前線に居なかったし狙われなかったから何とか命はあるけどね。もう皆の身体は目も当てられないよ…本当に、どうして私だけ生き残ってしまったんだろうね」
ミヤジは自嘲するように笑ってその場に座り込む。
主は部屋に常備してある救急箱を持ってきて血が止まらない脇腹を必死で圧迫し止血した。
「もういいんだよ。もう悪魔執事はお終いだ。主様、勝手に呼び出して、勝手に利用して、勝手に長生きできるようにしてしまってごめんね」
『やだ、やだ…だってハウレスと片付けの練習して、フェネスと本を買いに行って、アモンに薔薇をプレゼントしてもらって、バスティンに守ってもらって、ロノのおやつ食べて、べリアンの紅茶を飲んで…そんなことももうできないの?私は皆のためなら何千年だって生きる覚悟してたんだよ?それなのに皆約束破って死んじゃったの?そんなの嫌だよ…だってずっと一緒に居るって何回も…言ってたのに…』
主は慣れない手つきでミヤジのやっと血が止まった脇腹に傷薬を塗って、ガーゼを当てて、包帯で固定する。
「ごめんね、もういいんだよ。ここであったことは全部忘れて、主様は主様の世界で幸せになってくれればそれでいいんだよ」
『私に皆を捨てろって言うの?絶対嫌だよ。最後まで見届けるって決めてるの。だから皆が死んじゃったとしても、私は主様で居たい。絶対に最後まで見捨てないよ』
ミヤジをベッドに寝かせて主は外に出た。
朝焼けのオレンジ色の光が血で染まった庭を鮮やかに照らす。
飛び散った血や肉、瓦礫、破れた魔道服、もはや誰かも判別できないほどぐちゃぐちゃになった死体を見て主は涙を流す。
『ごめん…私が無力で役立たずだったから皆にこんな目に遭わせちゃった』
謝罪の言葉に誰も答えてくれる者は居ない。だってもう全員が死んでしまったのだから。
執事達と過ごした思い出が走馬灯のように頭の中に流れていく。
『せめて、せめて…最後のお別れだけさせてね』
主は裏庭に穴を掘り始める。皆の死体が腐らないうちにお墓を作ってあげたかった。せめてそのくらいしてあげたい。
起き上がれるようになったミヤジも主の行動を見て一緒に穴を掘った。
大きな穴の中に誰とも分からない死体を運んで入れていく。
破れた魔道服も、飛んで行った腕や足も、最後まで手放さなかった武器も…
全てを埋めてバスティンの大剣を墓石代わりに突き立てる。
『ねぇミヤジ、これからどうしようか…私、このパレスとお別れするの嫌なの。最後まで皆の主様でありたいの。どうしたらいいかな?』
「…皆を失ったことを絶望と捉えるのであれば主様も悪魔と契約できるかもしれない」
『主様兼悪魔執事になるってこと?面白いね。そんなことができるならやってみようかな』
「でもそんなことをしたら主様は元の世界の時間に戻れない。あちらの世界での幸せを全て捨ててでも私たちの主様で居てくれるのかい?」
『うん、私がやっと見つけた私にしかできないことだから。それにさ、皆との思い出を本にまとめたらいつでも皆に会えるでしょ?それを楽しみにして生きるよ』
「…主様の気持ちは分かったよ。2人で行けるところまで行こう。死にかけの私がどれくらい役に立てるかは分からないけれど、戦い方も医学の知識も教えてあげられる。だから皆の思いに報いるために頑張ろうね」
主はその後悪魔と契約して天使を狩る力を手に入れた。
そして、皆との些細な思い出も思いつく限り書き出して本を作った。
最初は屋敷の外では文字が読めなくて混乱したこともあったなぁ。
さぁ、最初に戻りましょうか。これは主が執事達に出会ってから分かれるまでの些細な幸せの記録。主の大切な思い出と守れなかった約束の記録。何度も何度も読み返して幸せに生きていたらどうなっていたかを考えるための、主の心を支えるための、日記帳。
これを読んで貴方はどう思いましたか?